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2 - 憐れみのカンパニュラ

♥

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2024年08月25日

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憐れみのカンパニュラ 


 ゆらゆら、と木がざわめく。 「あの人」の髪色に染まった夜の景色。

 ましゅまろみたいな雲がぽつり、ぽつりと散っている。

 カラスがガーガー、とうるさく声を荒らげながら別の場所へばさばさ飛び去った。

寂れた公園には、古くなった遊具が設置されてある。

 昔、ここにジャングルジムがあったのだけれど、危険だからと撤去されてしまった。子供の頃の思い出が消え去るようで、なんだか悲しい。

 さび臭くなった鉄棒、ブランコはぎぃ、ぎぃ、と苦しそうに音を立てている。

……私は力なく、そのブランコの椅子に座るしか無かった。
















 ――なおきりさんが死んだ。


 原因は交通事故。酔っぱらいのトラック運転手が信号無視をして、なおきりさんをそのまま轢いた。

 顔がぐちゃぐちゃになってしまったらしい。あの、整った、綺麗な顔が。見る影も無く、ぐちゃぐちゃに。

 そのトラックの運転手は十年牢屋に入れられるらしいが、私にはそんなことどうでもいい。

 もう、居なくなってしまったんだから、いくら後悔しても遅い。憎しみも、うらみも、その運転手には思ってない。思ったって無駄だから。

 昨日、なおきりさんと通話して、「好きだよ」なんて言いながら枕にほっぺをくっつけて寝てしまって、うっすらなおきりさんの笑った声が聞こえた気がする。

 デートの約束を来週にしていた。ちょっと甘酸っぱい恋愛映画。高校生の主人公が、イケメン転校生と目が合っちゃって、そこから恋に発展していく。どこにでもあるような、ありふれた映画だ。

 お互い、忙しいけれど、やっと決められた予定だった。もう、それはうきうきして。浮かれてて。その日に着る洋服だったり考えてた。

 ……もう、デートどころか、顔さえ見られないけど。

 最後に見れた顔は、確か、キスして照れちゃってた顔だった気がする。すぐにやり返されたけど。

 なんか、もう、今考えると全てが幸せだったんだ。その幸せが当たり前だったから、もう、後には戻れない。

 からぴちのメンバーは、私がなおきりさんと付き合ってたことは薄々気付いてる。だからこそ、あの人たちは私に連絡をしなかった。

 私がこういう時、しばらくそっとしておいて欲しいってわかってるから。

 涙は、もうとっくのとうに枯れた。目のふちは痛々しいくらいに赤くなってて、自分でもあまりいい顔とは言えなかった。ニカッと笑ってみても、その笑顔はなおきりさんの好きな笑顔には程遠かった。

「俺、るなさんの笑顔好きなんだよね」

 なおきりさん、ごめん、今は笑えないや。

悲しくて、辛くて、苦しくて、もう、色んな感情がまぜこぜになって上手く言葉に出来ない。

 まさか、今日死んじゃうなんて、だって、だって……。

「ぅあぁあ……ぁ……ぁぁ」

 私はもう、喋ることなんか出来なかった。枯れていた涙が復活して、ほっぺをつたう。ぽたり、ぽたりとブランコ周辺を濡らした。

ずび、と鼻水をすすっても、涙を手で吹いてみても、止まらない。壊れた蛇口みたいに、もうコントロール出来ない。

 走馬灯みたいに、なおきりさんとの思い出が蘇ってくる。そのどれもが愛おしくて、私の涙は勢いを増す。

「るなさんこれ欲しい?あげなーい」

 なおきりさんの、大人っぽくて優しい声。

「好き。大好きだよ。ほんとだよ」

 私を好きだ、好きだって疑わない目。

「ねぇ、このまま離したくない」

 私をぎゅっと抱きしめてくれた大きな腕。

「大丈夫?」

 いつも見てきた頼れる背中。

「もう、くすぐったいよ」

 ぴょこぴょこ跳ねる可愛い髪。

 もう、全部全部好き。大好き。なのに、どうして。もう、戻らない。戻れないんだよ。

あんなに近くに居たのに、あんなに大好きだったのに。

 いや、それは言い訳にならないかもしれない。

 ひゅう、と生ぬるい風が吹く。私をなぐさめているみたいなその風に、また私は泣いた。

 ぽつりぽつりと見れる星が綺麗な三角をえがいている。

「あれが確かなんだっけ、なんだっけ。忘れちゃった」

 なおきりさんがそんなことを言っていたような気がする。……私もあんまり頭が良くないから分からなかったけど。

――後から聞いたのだけど、もふくんが言うには、よく夏に見かける星は、アルタイル、ベガ、デネブ。アルタイルは彦星。ベガは織姫……らしい。

「織姫と彦星って一年に一度しか会えないんでしょ?そんなの俺、嫌だなぁ」

今は、もう、二度と会えないけどね。

――なんか、もう、だめだ。考えがまとまらない。

何も考えられない。

……地面をけってブランコをこいだ。子供のころ、よく貸してってお願いしたけど、あんまり貸してもらえなかったんだよなぁ……。

ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ。星空と距離が近くなる。いつもの私だったらこわいこわい言ってたんだろうけど、今だったらジェットコースターも乗れてしまうかもしれない。

うっかりジェットコースターから落っこちてしまえば、なおきりさんと同じ景色が見られるのかな。

高く、高く上げると暗闇の中に見える青色が見れる。きれい。とっても。

雲の向こうで、高層ビルが顔をのぞかせた。黄色く光っている窓は、ぽつり、ぽつりと明かりを消していく。

「るなさん」

もう、その声で私を呼ぶことは無い。

あの遊園地が、最後だ。観覧車のてっぺんでキスなんかしちゃった。それも、最初で最後。

ひぐらしが寂しそうに鳴く。夏の終わりが近づいていく。私の心の終わりも。

人生誰しも終わりはある。そんなの、分かってるよ。でも、それがまさか今日だとか、思ってないじゃん。

止まらない涙の世話なんか出来るはずも無く、私はただひたすらにブランコをこいだ。

高く、高く。もっと高く。そのまま天に行くみたいに。そして、またもう一度デートをするんだ。

天国で、虹の滑り台を降りながら。手を繋いで、キスをするんだ。

……なんて、子供じゃないんだから。

まだ、死ねる訳ないよ。このまま死んでしまったら、なおきりさんに怒られちゃう。

それに、卒業したとはいえ、私までも死んじゃったらみんな悲しいどころの騒ぎじゃないよ。

土に染み込んだ私の涙は、ぽつぽつと模様を描いていた。足元には花が咲いていて、それは、恐ろしいぐらいに綺麗だ。



――その中で一番目立つ青い花は、私をかわいそうだって言ってるみたいで、私は顔を歪めた。

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