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一瞬だけ伸ばした爪で封を切り、封筒から中身を出して焔が便箋を開いた。冒険者ギルドからの手紙は初めてで、五朗の瞳が好奇心で満ちている。焔とソフィアもソワソワとした感じで、ちょっと楽しそうだ。—— だがリアンだけは不安を胸の奥に隠し、口元だけに作り物くさい笑みを浮かべて様子を伺っている。
「……『クエスト依頼』?」
焔がキョトンとした声で言った。 すると五朗が興奮気味に、「マジっすか!すごいっすね、何処で?どんな感じのクエストっすか?」と言い、ぶんぶんと腕を振って、見せて見せてと催促する。
「凄い……のか?ただの依頼書だろ」
手紙を開き、テーブルの上にそれを置くと三人と一冊が一緒に覗き込んだ。
「いやいやスゴイっすよーコレは。『知名度』が高くないと届かない物らしいっすよ。ちなみに『知名度』ってのは新しく出来たシステムなんだって、冒険者ギルドでチラッと聞きました」
人差し指を立て、軽く胸を張りながら五朗が説明をする。チラチラと視線をソフィアの方にやっていて、『お詳しいのですね』と褒めて欲しそうな雰囲気だ。
「この世界って転移者はそこそこの人数が来ているのに、いつまで経っても『勇者』が育たない現状に業を煮やした王族達が話し合い、『この際もう有能なら勇者じゃ無くても良い!』って流れになって、最近出来たんっす。高レベルで、色々なクエストをこなしているパーティーに、本来ならば勇者御一行に割り振りするべきクエストをやってもらおうって事らしいっすよ」
「『勇者』が育たない?」
不思議そうに焔が首を傾げると、リアンが気不味そうに視線を少し逸らした。頭の中では随分長い事会っていない部下達の誇らしげな顔がつい浮かんでしまう。
「酷いと思いわないっすか?『勇者』の職を選んだ途端、それを嗅ぎつけた魔族達が何処からともなく現れて、幹部クラスがボッコボコにして元の世界に追い返してるんですから。もうコレ、明らかにルール違反っすよ。低レベルのうちは『所詮は小童。あんな奴に何が出来る?』って考えで襲ってこない。コレ、ゲームの基本中の基本なのに!」
五朗が演技も交えつつ、思いの丈を大いに語る。相変わらず口数が多く、もうちょっと簡潔にまとめられないのかと二人と一冊は思った。
「……不安要素を早めに叩く事自体は、何も悪い事では無いと思うが」と焔が言ったが、五朗は不満そうだ。
「いやまぁ、元の世界ではそうかもですけどね。此処はあくまでもゲームの世界っすから。ゲームならゲームらしく、約束事は守ってもらわないと!って自分はやっぱ思うっす」
どちらにも同意出来てしまい、リアンが複雑な心境になった。俺の部下が空気も読めずに申し訳ない……とも思うが当然口には出来ず、ただ作り笑いを浮かべている。
『ところで、クエストの内容自体はどのようなものなのでしょうか』
「そうですね。もしかしたら期限などもあるかもしれませんし、よく確認しませんと」
(……流石に一発目でいきなり魔王討伐依頼では無いだろうが、焔程の高レベル者は数少ないはず。彼の『激運』スキルが無駄に発動していないといいが)
緊張気味にリアンが文面を読み進んでいく。定番の挨拶文から始まり、期間や場所などといった部分を流し読みしていくと、詳細部分には『神子の救出依頼』と明記されていた。 ホッと息を吐き、「救出依頼だそうですよ」とリアンが告げる。
「簡単そうだな。助けるだけなら半日もあればいけるだろう」
「んーと……どれどれ?『四聖獣の神子』が拐われたから、助けて欲しい……と。『四聖獣』って何すか?中国の四神みたいなものっすかね」
「えぇ、そうです。四方向を司る聖獣・青龍、朱雀、白虎、玄武の事です。——遥か昔、それぞれが治める四つの国があり、それらの国は永年歪み合って戦争を繰り返していたのですが、『麒麟の神子』を仲裁役として据える事で統合する事となり、一つの大国へと生まれ変わったという伝説のある国があったのです。多分『四聖獣の神子』とはその、『麒麟の神子』の事を指しているのだと思いますよ」
「たった一人が仲裁に入るだけで、そう易々とまとまるものなのか?それほどの力を持っていたのか、その神子は」
「どうなのでしょうね。まぁ所詮は伝説ですから、真相は闇の中です。『四聖獣』達にまつわる古代遺跡は多々残っていますが、それらの国が実際にあったのかどうかすら、今となっては何とも」
「そうか。じゃあ誘拐した奴が誰かはわかっているのか?」
「えっと……あれ?手紙によると『白虎』が拐ったそうっすけど、まだ生きてるんすか?まぁ聖獣だったら生きてるもんなんっすかね」
『白虎』と聴き、焔の頬がぴくっと動いた。
「いいえ、流石にそれは無いかと。四聖獣達も麒麟の神子も、子を成した後は国を統合する為にその力を使い果たし、他界した事になっています。そしてその子供の末裔が王族となって、国を収めていたそうなので」
「じゃあ犯人は『白虎』の名を語った何者か、という事か」
「そうなりますね」
『でも、何故わざわざ『白虎』を語るのでしょうね?』
「四聖獣の名を持つ四人の神官が今も居るそうなので、彼等の団結力に亀裂を入れたいとか……でしょうか」
「……もっと単純な理由な気がするが……まぁいい。直々に頼まれたのなら、やらんとな」
「お!やりますか、主人さん」
「そうなると、詳細を訊きにギルドへ行くべきか?」
『そう、ですねぇ……。えっと、クエストの詳細は書かれてはいますが「目的地への鍵を渡したいから、現地の冒険者ギルドに来られたし」と締めていますね』
「鍵?それって誘拐犯の根城が既に判明済みという事ですか?……計画性の無い奴ですね」と、リアンが呆れ顔で言った。
「バレても奪われない自信があるっちゅー事じゃないっすか?」
「……むしろこれは、冒険者達を誘っているんじゃないのか?誘拐なら、身代金だとかの要求があるだろ。なのに、その点については書かれていない。要求も言わずにただ根城だけをバラすのは、誘い込みたい者が居て、その餌としてたまたま『神子』が選ばれただけなんじゃないのか?」
それだ!と言いたげな顔で顔面を指さされ、五朗の手を焔が叩き落とした。
「あ、あり得……ますね」と呟いたリアンの声が震えている。部下達が高レベルの召喚士である焔を狙って罠を張っている可能性が頭をよぎり、口元を固く引き結んだ。
「それならそれで、それごと解決するまでだがな」
スクッと椅子から立ち上がると、焔が出掛ける用意を始める。
剥ぎ取り用の短剣を腰に装着しながらソフィアに向かい、「必要はないと思うが、念の為に回復薬を多めに持っておいてくれないか?あとは、そうだな……包帯と空の薬瓶があってもいいかもな」と指示をした。
『了解です、主人。それ以外にもステータスUP系の薬も何本か持って行きましょうか』
「そうだな。五朗が使うかもしれないし、そうしよう」
テキパキと準備を進める焔を見ながら、五朗が「自分……戻ったばっかなんっすけど」と呟く。
『何か言いましたか?さぁ、五朗さんも準備準備!一緒にお出掛けしましょうねー』
いかにも演じている感のあるソフィアに急かされ、それでも元気に「うい!了解っす!」と敬礼をしながら五朗が応える。演技だとわかってはいても好きなモノに構ってもらえるだけで素直に嬉しかった。
「……っ」
『辞退しませんか?今回のクエストは』と 言いたくてリアンが口を開いたのだが、声が出ない。まるでその発言には制限がかかっているみたいに一切の音が出せなかった。
(……?——どういう事だ。何故声が出ない?)
喉を押さえ、制限を解除出来ないかと試みるが何も変化が無い。進行度に関わる問題なのならリアンであってもどうにも出来ず、このクエストは避けて通れないものなのだと悟った。
(という事は、完全にこれは罠だ。 そうだとわかっていながら、焔を危険に晒すのか?)
不安で胸がいっぱいになるが、反対意見を出せない以上参加するしかない。幸い焔自身の戦闘能力はズバ抜けて高いし、リアンもこの世界でならトップクラスだ。五朗のレベルも既に七十二まで上がっていて『魔毒士』としても魔法は全て解放済みだし、そう簡単には追い込まれはしないだろう——と、リアンは胸元をギュッと掴み、何度も自分に言い聞かせた。
「どうした?リアン。出掛ける準備はしないのか?」
リアンの様子がオカシイと気が付いた焔が、用意を中断して彼の背中にそっと手を当てた。 ハッとし、「すみません。今私も用意しますね」とリアンが答える。
「体が辛いなら、今回は残っていてもいいが」
「いいえ!大丈夫です、ただちょっと、犯人側の意図が何なのか考えていただけなので」
「そうなのか?」
「はい」
「わかった。だが、無理はするなよ?」
そう言って、焔が優しくリアンの頭を撫でてやった。小さい手だがとても温かくて自然と瞼を閉じてしまう。撫でてもらえてとても気持ちがいい、好きな人の手とあっては尚更だった。
「……ありがとうございます、主人」
瞼をゆっくりと開き、真正面に立つ焔の顔をしっかりと見ながら、リアンが礼を言う。
主人の事は絶対に自分が守り通す。そして、もしコレが部下達の罠だったとしても、絶対に城へは連れ戻されない様にもしよう。
目隠しに隠された焔の瞳の位置を見詰め、リアンはそう固く誓ったのだった。