テラーノベル
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バラバラと、叩きつけるような無慈悲な豪雨が、体育館のトタン屋根を暴力的なまでに激しく打ち付け始めた。
数分前までわずかに差し込んでいた西日は嘘のように消え去り、空は一瞬にして鉛色へと塗り潰され、放課後の校庭は、真昼間とは思えないほどの不吉な暗がりに包まれている。
(……帰れない。どうしよう、これじゃ……傘、持ってないのに……)
私は部室の窓の外、白く煙る校庭を眺めながら、言いようのない、胸の奥をかき乱されるような不安に喘いでいた。
手元には、まだ整理しきれていない部員たちのスコアブック。そして、制服の襟元に隠された私の肌には、ついさっき備品倉庫の影で角名先輩に力ずくで刻み付けられた「独占の痕」が、ドクンドクンと生き物のように脈打つ熱を帯びて居座っている。
「……何、そんなに不安そうな顔してんの。俺と二人きりなのが、そんなに嫌?」
背後から、低く、湿り気を帯びた粘りつくような声が、私の剥き出しの鼓膜をじりじりと、火傷させるようになぞる。
心臓が跳ね上がり、振り返ったときには、角名さんが部室の入り口の重い鉄扉の鍵を「カチャリ」と、逃げ場を永久に断つような静かな音を立てて閉めたところだった。
薄暗い部室の中、わずかな隙間から漏れる鈍い光を受けて、彼の三白眼だけが獲物を狙う、暗い情念を宿した獣のように怪しく、鋭く光っている。
「っ……、角名、せんぱ……、なんで、鍵……っ」
「だって、こんな雨の中、誰か来たら邪魔でしょ。……当分止みそうにないし。……ねぇ、紬。こっちおいで。早く」
彼は抗いようのない絶対的な力を持った言葉で命令するように、長机の端に腰を下ろして、長く、骨ばった白い指先で私を手招きした。
目に見えない糸で操られる人形のように、私の足は自分の意志とは無関係に、フラフラと彼の元へと歩み寄ってしまう。
彼の間近に立った瞬間、角名さんの大きな掌が私の細い腰に回され、ぐいと強引に、抗う暇もなく彼の膝の間へと引き寄せられた。
逃げ場のない、骨と肉がぶつかり合うような密着。彼の高い体温と、雨の湿った匂い、そして運動後の彼特有の、脳の芯を麻痺させるような甘く熱い香りが一気に私を包み込む。
「……倉庫の時、あんなに震えて泣きそうだったのに。……まだ、俺のこと怖がってるの? それとも、俺に何かされるのを期待してるの?」
角名さんの細長い指先が、私の制服の第一ボタンに掛かる。
そのまま、ゆっくりと、わざとらしく時間をかけて、布地が擦れる微かな音さえ鼓膜に響くほどの静寂の中で、ボタンを一つ、また一つと、剥ぐように外していく。
開かれた隙間から覗く、彼が力ずくで付けた、どす黒く赤らんだ「独占の証」。
彼はそれを、陶酔したような、どこか飢えた瞳で見つめると、親指の腹でその場所をじりじりと、私の皮膚が悲鳴を上げて熱を持つまで、何度も、何度も、執拗になぞり始めた。
「……っん、……あ、角名、さん……っ、やだ……っ」
外は、すべてを押し流そうとする激しい雨の音。
その轟音が、私の喉の奥から漏れる、熱を帯びた端ない吐息をすべて優しくかき消してくれる。
世界には今、この狭く暗い、部室という名の箱庭の中に、私たち二人しか存在しないかのような恐ろしい錯覚。
「……いいよ。もっと声出して。……雨が全部、誰にも聞こえないように隠してくれるから。……ほら、もっと、俺を呼んで」
角名さんの薄い唇が、私の耳たぶを甘く、けれど逃がさないように強く噛み、そのまま獲物を追うように首筋の脈動へと、這うように降りていく。
彼の熱い、沸騰したような呼気が肌に触れるたび、私の積み上げてきた脆い理性は泥のように溶け、足元から音を立てて崩れ去っていく。
「……紬。君、俺に触られるの、本当は嫌じゃないんでしょ。……頭では否定しても、身体は、こんなに俺を欲しがって、俺の体温に縋りついてる。……正直だね、君は」
彼は私の震える右手を、自分の胸元へと強引に、拒絶を許さぬ力で導いた。
薄いユニフォーム越しに、掌へとダイレクトに伝わる、彼の激しく、そして暴力的なまでに力強い、命の脈動。
私と同じ、いや、それ以上に狂おしく、独占欲という名の炎に焼かれて脈打つ彼の心臓の音が、掌を通じて私の脳の髄まで痺れさせていく。
「……ねぇ、教えてよ。……昨日あんなにたっぷり『教育』してあげたのに、まだ俺以外の男に、あんな無防備な、俺しか知らないはずの顔見せるつもりだったの?」
嫉妬と執着が入り混じった、底なしの沼のような、深く重い囁き。
角名さんは私の顎を、指の跡が残るほどの強さですくい上げると、逃げ道を完璧に塞ぐようにして、深く、重く、そして息が続く限り何度も、何度も、私の唇を力ずくで奪い去った。
雨宿りの密室。
攻略不可だったはずの境界線は、もうこの激しい豪雨と共に流れ去り、どこにも存在しない。
私は、彼の逞しい腕の中で、角名倫太郎という名の、深く、二度と光の届く場所へは浮き上がることのできない甘い沼に、音もなく沈んでいくことしかできなかった。
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