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真っ暗な部屋、ポップコーンとコーラのセット、そして画面には――『異霊巣村〜水面に映るのは〜』
いふがリモコンで再生を押すと、初兎がぴくっと肩をすくめた。
「……ほんまにこれ、怖くないやつ?」
「え?うん、全然。ホラーの中ではライトな方ってレビューに書いてたし」
「……あやしい」
「なにビビってんの~?さっき“別に平気やし”ってドヤ顔で言ってたやん?」
「いや、それは……まろちゃんがホラー観たいって言うから……」
「ふふ。じゃあ、観よっか。しょにだのために、明るさちょっと落とそか」
「待ってそれはちょっと本気でやめて」
いふがニヤニヤしながら部屋を暗くし、映画が始まる。
オープニングで既に「水に引きずり込まれるシーン」が出てきて――
「うっわ!!今の目ん玉逆向いとった!!」
「やば……演出凝ってんなぁ~。おっ、ここ絶対くるで。3、2、1……」
「うわああああ!!!」
ばっ!と、隣にいた初兎が、いふの腕にしがみつく。
「え!?しょにだ!?今のとこ、まだ前振りやったのに!?」
「今の音が無理やねんって!!なんか“バキャッ”とか“ドゴン”とか!!」
「擬音のレパートリーすごいな……」
「っていうかもう無理や、怖い、やっぱ無理!!」
そのまま初兎は、ずるずるっと体をいふに寄せ、完全にもたれかかる体勢に。
いふは吹き出しながらも、そっと初兎の肩を抱いた。
「はいはい、怖いの我慢しただけえらいよ~」
「バカにしてるやろ!!」
「してないしてない。むしろ、こーゆーときしか“しょにだが自分からくっついてくれるタイム”ないし、こっちとしてはご褒美やけど?」
「黙れ変態」
「ちなみに今の状態、ソファで密着+手握りコースいけるけど?」
「うるせえ。おれの精神安定のためやからなこれは」
「うんうん。じゃあ、“彼氏役”やらせてもらいます」
そう言って、いふは自然な流れで初兎の手をそっと握る。
そのまま、画面に集中するふりをしながら――
ぽんぽん、と、初兎の頭を撫でた。
「ひっ……! な、なにすんねん……!」
「落ち着かせるための頭ポンポン。しょにだ、ホラー向いてないから、もう俺に甘えてよし」
「うっさいわ……でも、そのまま……」
「はーい」
映画が進むほどに、画面よりも近くなっていく2人の距離。
怖い映画は苦手だけど。
この時間だけは、嫌いじゃないかも――なんて、初兎はこっそり思っていた。