翌日。待ち合わせの公園で誠也くんと再会した瞬間、胸がじんわり温かくなった。
まるで何日も会ってなかったような、恋しさすらある。
『今日はちょっと行きたいとこあってん。ついてきてくれる?』
「もちろん。」
誠也に手を引かれ、街を歩く。
人の流れ、店のざわめき、交差点の信号音。
全部が“今”のはずなのに、不意に胸の奥がざわついた。
やがてたどり着いたのは、少し古びた展望台。
丘の上にあって、街が一望できる。
「あれ……ここ……」
私の口から、自然と言葉が漏れる。
『来たことある気ぃする?』
「うん。分からないけど、すごく懐かしい……。ここで、誰かと並んで夜景を見た気がするの。笑ってて、でも……少し泣いてた。」
自分でも意味が分からない。
でも胸の奥が、確かにそうだと言っていた。
誠也くんも黙って景色を見つめていた。
しばらくして、ぽつりとこぼす。
『俺もな……この場所、来たことある。夢で、何回も見たことあんねん。暗い夜で、雨降ってて、誰かの手ぇ握ってて……でも、その顔は思い出されへん。』
ふたり、黙って風に吹かれた。
ほんの一瞬だけ、時間がゆがんだような感覚。
今が“初めて”じゃないなら、いつ私たちはここに来たんだろう。
『記憶、ホンマはどこかに埋まってるんかもしれへんな』
誠也くんの声が、風に乗ってやさしく響いた。