「わあぁっ! 何だか不思議な感じがする所ですね~」
「シーニャは全く分からないのだ」
村の人に案内され、おれたちは宮殿の中に入った。宮殿の中は荘厳な感じでおれたちを迎えてくれる……かと思っていたが、何とも不思議な感じを受けた。
様子を眺めていることを察したのか、すぐに声がかかった。
「期待外れで申し訳ございません。シシエーラ村の宮殿は実は教会なのです。天に近くなるようにと込められて外観こそ立派な建物にしておりましたが、中は村の人間が集うただの教会なんですよ」
外観は立派な作りで空を仰げるほど高い建物の中に入ってみると、そこは村の人にとっての憩いの場のようなものだった。通常なら身分の高い人間が一人くらい姿を見せてもおかしくはない。しかしここで話を聞かせてくれているのは老齢な村の男性だけ。
「マスタァ。あそこに何か祀《まつ》られているなの」
「ん?」
フィーサが指し示す奥に目をやると、祭壇のような段差が見える。何か小さなものが置かれているような感じだ。
「すみません、あれは?」
目視で気付けなかったが、よくよく見ると石のようにも見える。
「……さすが神の使いなるお方。あれは魔石と呼ばれていたものでした。今はただの石ですが……」
「魔石? 魔石がこの村に?」
「さようでございます。ですが、今この村にいるのは力を持たぬ人間のみ。その石はかつてここで指導していた司祭《プリースト》さまが儀式の際に使っていたもの。ですが今は……」
司祭の儀式か。何か強大な力を呼ぶつもりがあったようだ。
「その司祭さまは……?」
「神と神に近い存在を求め、村を飛び出したままでございます。消息など分からないままで」
「魔石を使って神を呼ぼうとしていたと?」
「いいえ、その石に宿っていた神の力を引き出そうとしておりました。ですが一向に現さず、違うものと分かり祀ることもやめてしまった次第にございます」
宿っていた神の力か。言ってることは嘘では無さそうだが、どうも怪しい気がするな。
「……なるほど」
「村の者も司祭さまに協力しておりました。連日のように火を起こし、火を灯して魔石を照らし続けて――」
ガチャをしているから理解しているが、そもそも魔石は魔力の結晶。決して魔石自体そういう存在じゃない。司祭が何を求めていたのかは分からないが、使い方を誤ったのは確かだ。
祭壇まではほんの数歩。少しだけ動けば手が届きそうだがどうするべきか。だが僅かな距離なのに石からは特に何も感じない。
「マスター? 何も感じないなの?」
――何も感じない。そう思っているとフィーサが声をかけてきた。
「……ああ」
「それはおかしいなの。わらわは何かを感じて仕方がないなの! マスターが手に取れば何か分かるかもしれないなの」
「ただの石なのに?」
「近付いて手にすればそうじゃないかもなの」
おれには感じない何かをフィーサが感じ取っている。しかもあまりいい感じでは無さそうだ。
「近付くが、危なくは無いよな?」
「イスティさまならそんなことにはならないなの!」
神族国に近づいているせいかいつになくフィーサの押しが強い。宝剣だからこそ何か感じるものがあるのかも。
「ルティとシーニャは、そこで待っているんだぞ?」
何かが起きるとも限らないが起きないとも限らない。ルティたちには警戒を強めてもらうか。
「はいっっ! 分かりました!」
「どうするのだ? アック」
「祭壇の石に近づいて確かめる。なぁに、何も起きないと思うぞ」
「分かったのだ! 何かあったらすぐに突っ込むのだ!」
「あぁ、ありがとう」
獣の腕のままだからか魔力そのものを感じることが出来ない。村の者に神の腕と思われているのはいいとしてもだ。だがこのままではスキルはおろか、精霊魔法もろくに使えなくなる。
力と体力の恩恵を受けていることはすぐに分かったが魔力が感じられない。それに気づいたのは、フィーサが真っ先に気付いた石について言われてからだ。獣の腕だけ残っても何も悪いことなど無いと思っていた。それがまさか、魔力感知が出来なくなっていたとは。
とにかくかつて魔石だった石に近づいて確かめるだけだ。
「すみません、その石に近づいてもいいです?」
「ええ、もちろん構いません。神の腕を持つあなたさまなら何も問題はありませんから」
お墨付きをもらった以上、石に触れるのみだ。
司祭が諦めた石が果たしてどうなるのか。
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