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「…こんなはずじゃなかったって、思う時があるんだ…」
「こんなはずじゃない…?」 聞き返した僕に頷いて、彼女は続ける。 「うん。例えば私は、もっとうまくやるはずだったし。もっと、良い歌を歌う予定だったと思うの。でもさ…」 彼女の顔が曇る。 苦しそうに目を伏せて、絞り出すように言う。「全部こうなっちゃったんだよ…歌も、曲も。それから、私がやりたかったことまで全部ダメになった。何もかも失くしちゃった…」「だから…」 僕が言葉を継ぐ前に、彼女は顔を上げて首を横に振る。「ううん…もういいんだ、そんなこと…。どうせもう戻れないし。今だって本当は辛いけど、今は前を向くしかないから…」「……」 そう言った彼女が、再び僕の顔を見つめる。 その顔には見覚えがあった。そうだ、夢の中で何度も見ていた顔だ。「ねえ…」 「君の名前は?」 (第1章 終わり) そう聞いた時の、彼女の驚いた表情をよく覚えている。 『え?』(第3章)『私の名前は…』 そう言っていた彼女の表情は…今も時折見る夢の内容にそっくりだったのだ。 第2章:過去 『私は…』 まだ名前も何も持っていなかった僕は、ただ漠然と“僕”と呼ばれていた。 自分が何者かも分からないまま、それでも生きていたかっただけなのだ