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しかも、マナが予備校に通うのは、親に大学進学のための勉強を真面目にやっているのを見せるためであって、本気になる必要はない。だからといってヤル気になっているマナに、わざわざ理由を確かめるようなことは出来る訳などなく、しばらくの間は様子を見ているしかなかった。
そんなある日、予備校の授業を終えて、外で待っているとマナからメールが入った。
《圭ちゃん、先帰ってていいよ》
《残されてるのか?》
《違うよ、先生に勉強で聞きたいところがあるんだ》
《そうなのか、わかった》
絶対に嘘だ。噂で聞いた話だと、マナは授業中には相変わらず居眠りをしているらしい。そんなマナが居残りをしてまで聞きたいことなどあるハズがない。
「明石くん、もしかして五十嵐さんのことを待ってる?」
「まぁ、そうだけど」
高校のクラスメイトの赤坂幹雄、みんなからはガリベンと呼ばれていた。その名の通り、学校でも自宅でも勉強ばかりしている勉強バカだ。しかも1年の時から所属していた生徒会で、今年は生徒会長と言う大役を任されていた。そんなガリベンだが、偶然同じ予備校に通っていた。
「いいのかい?」
「何がだよ?」
「明石くん、五十嵐さんと付き合ってるんだよね?」
「どうだっていいだろ?」
「実はさ、五十嵐さんと講師の山崎が駅前のホテル街を歩いてるのを見たんだ」
「はぁ? そんなことある訳ないだろ! って言うか、そもそもどうしてお前がそんなところにいたんだよ?」
「ナイショにして欲しいんだけど、元生徒会会長の神崎さんと付き合ってるんだ」
「マジか? お前らそういう仲だったのか?」
「まぁね。それで2人でホテルに入ろうとしたら、五十嵐さんを見たんだ」
「見間違いじゃないのか?」
そうであって欲しいと思った。
「彼女と一緒に見たから間違いないよ」
「元生徒会長はマナのこと知ってるのか?」
「こんな言い方したら悪いけど、五十嵐さんて学校じゃかなり有名人だよ。悪い方でだけどね。学校からも生徒会からもマークされている問題児だよ」ガリベンは俺の表情を気にかけながら言葉を選んで話していた。以前は勉強しか能がない嫌な奴だと思っていたけど、同じクラスになって話をしているうちに、意外にいい奴だというのはわかった。そうじゃなきゃ、元生徒会長の神崎先輩がコイツと付き合うハズはない。
「確かにマナを知らない奴はいないかもな」
「付き合ってる付き合っていないは別として、五十嵐さんのことをもっと気にかけてあげた方がいい。あの山崎って講師、相当女たらしらしいよ。うちの学校の女子生徒でもアイツに泣かされた人が沢山いるらしいんだ」
「何でそんな奴が予備校の講師を続けられるんだ?」
「遊ばれた女子生徒が表沙汰にしなかったから問題にされなかったんだ。きっと被害にあった女子生徒が山崎に上手く丸め込まれたんじゃないかと思ってるんだ。絶対に許せない極悪人だよ。それに講師の山崎を目当てに予備校に入れる親も多いくらい講師としては優秀みたいなんだ。だから予備校側とすれば、スキャンダルくらいは力ずくでもみ消すよ」
いつも冷静で温和なガリベンだけど、正義感が人一倍強いだけに、悪の山崎を許せなかったみたいだ。こいつは本当に他の生徒のことを真剣に考えられる思いやりのある奴だ。やっぱりこいつを生徒会長に選んで間違いなかった。