「柊……。俺の好きな人は、お前もよく知ってる人だ」
「……そうなんだ」
「ああ。ずっとずっと……お前の側にいた人」
「えっ……」
「すまない、柊。俺、柚葉が好きなんだ」
柊は、時間が止まったみたいに固まった。
「……柚葉……を好き?」
「ああ。柊と結婚がダメになって、俺はあいつが落ち込んでるのをずっと側で見てた。それがつらくて、たまらないくらい苦しかったんだ」
そう言った後、俺は、自分が柊を裏切って、柚葉をずっと好きだったことを話した。
そして、もう付き合ってることも。
柊は、とても驚いている。
当たり前だ、兄の彼女を会う前から好きになるなんて……ひどい男だ。
柊にどう思われても文句は言えない。
「そうか……。良かったじゃないか。柚葉を悲しませたのは僕だから。でも……僕の中では、悲しませるつもりはなかったんだ……」
「……」
「お前が言ったみたいに、僕は病気なんだよな? 恋愛の病気。だから……僕は柚葉を幸せにできないんだよな。だったらさ……樹が柚葉を幸せにしてやって……」
柊……
寂しそうに笑う顔が切なくて苦しくなる。
俺を責めるわけではなく、柊は……自分を責めた。
「本当にすまない……」
「謝らなくていいよ」
柊は、いつだってそうだった。
子どもの時から、ずっと俺は柊に助けられてきた。なのに、こんな形で裏切って。
「柚葉と結婚は? しないの?」
柊が聞いた。
「俺は……すぐにでも柚葉と結婚したい。だけど、あいつの心にはまだお前がいる。忘れようと努力はしてるみたいだけど、でも、そんな簡単じゃないことはわかってるつもりだ。焦る気はない、ずっと待つ……」
「そっか。柚葉と結婚できるといいな、樹」
柊は、温かいお茶を飲んだ。
ニコニコしながら……
でも、俺にはわかるよ、柊もまだどうしようもなくつらいんだって――
「樹。会社はこれからも頼むよ。ISは僕達の会社だから」
「ああ、もちろんそのつもりだ。柊と一緒に、まだまだISを大きくしたい」
「ありがとう、心強いよ。春には、樹に副社長になってもらって一緒に頑張りたいんだ。ISを必ず世界一にする」
「柊、ISって……どういう意味なんだ?」
今さらだけど、意味を聞いたことがなかった。
「知らなかったの? まさか嘘だろ? 僕、言わなかった?」
「悪い、1度も聞いたことがない。ずっと気になってて……」
「そっか。僕1人だけしか知らなかったんだな。柚葉にも話したことなかったから」
「そうなのか? 柚葉にも?」
「ああ。隠してるつもりはないけど、ちょっと照れくさかったから。樹のIと、柊のSなんて。単純過ぎて笑えるよな」
樹のIと、柊のS――
確かに単純だ。
でも……柊……俺は、涙が出るくらい嬉しい。
柊は……
どんなことがあっても、俺の大切な、優しくて頼りになる立派な兄だ。
世界一の、兄。
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