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『偽りの無能、真の覚醒〜転生皇女はすべてを奪い返す〜』
裏切り者の貴族から聞き出した情報をもとに、私たちは帝国の国境を越えた先にある、深く巨大な大地の裂け目『奈落の割れ目』の底へと降り立っていた。
そこは陽の光が一切届かない、
紫色の不気味な瘴気が立ち込める暗黒の世界。
一歩進むたびに、精神を蝕むような冷たい風が肌を刺す。
「ローゼマリー様、お気をつけください。このエリアを満たしている瘴気は、生物の脳に直接作用し、最も見たくない『過去の記憶や絶望』を強制的に見せる精神汚染の魔術ですわ」
ランタンを手に、私の斜め前を歩く侍女のリンが、鋭い視線で周囲を警戒しながら静かに告げる。
前回の夜会で100人以上の暗殺者を一瞬で「お掃除」した元最強の暗殺者である彼女は、
こうした暗殺・精神工作系の魔術の特性にも極めて詳しかった。
「ありがとう、リン。でも大丈夫よ、私にはお兄様が――」
そう言って私が隣を振り返った、その瞬間だった。
「――っ!? ローゼマリー、伏せろ!」
アルベルトお兄様が叫ぶのと同時に、私たちの足元の地面から、禍々しい漆黒の魔法陣が爆発的に展開された。
魔王ディルクが仕掛けた、侵入者を確実に精神崩壊させるための『精神攻撃の迷宮・奈落の幻影(アビス・ナイトメア)』。
刹那、視界がぐにゃりと歪み、最愛のお兄様とリンの姿が、目の前の闇の中へと完全に消え去ってしまった。
◇
「……あれ?」
気がつくと、私は冷たい雨が降り頻る、見覚えのある夜の広場にポツンと一人で立っていた。
この場所は……バロア王国の、あの断罪の夜会が行われた宮殿の外。
身体を見下ろすと、今の帝国の華麗なドレスではなく、かつて前世のシャルロットだった頃の、泥と雨水に汚れたボロ布のようなドレスを着ていた。
「おい、見ろよ。魔法無能の元悪役令嬢、シャルロットだ」
「ふん、聖女エレン様を害そうとした罰が当たったのさ。バロア王国の面汚しめ、さっさと消え失せろ!」
周囲の闇から、かつて私を嘲笑い、裏切ったバロア王国の貴族たちの醜悪な顔と、罵詈雑言の嵐が幻聴となって押し寄せてくる。
さらに、目の前の闇が蠢き、元婚約者のカイルと偽聖女エレンの幻影が、歪んだ笑みを浮かべて現れた。
『シャルロット、お前は無能で、誰からも愛されないゴミだ。そのまま暗闇で孤独に死ね』
冷たい言葉が胸を刺す。これはただの幻影ではない。魔王の呪念が、私の魂の奥底に眠る「シャルロットとしてのトラウマ」を直接抉り、魔力を内側から暴走させて自滅させようとしているのだ。
視界が暗くなり、呼吸が苦しくなっていく。
「私は……、またあの孤独な暗闇に……」
その時だった。
『――いいえ、ローゼマリー様。そんな薄汚い羽虫たちの言葉に、耳を傾ける必要などございません』
凛とした、おっとりとしつつも絶対的な強者の声が、私の精神世界をピシャリと切り裂いた。
「リン……!?」
はっと目を開けると、幻影の世界であるはずの私の目の前に、現実のリンが、凄まじい殺気を放ちながら立っていた。
彼女の両手には、影の魔力を纏った漆黒のダガーが握られている。
「私の魂は、すでにローゼマリー様に捧げられています。たとえ魔王の作った精神の迷宮であろうと、主の危機とあれば、その境界線ごと『暗殺(切り裂く)』して駆けつけるのが、メイドの嗜みというものですわ」
リンは私に優しく微笑むと、次の瞬間、神速の踏み込みで、私を苦しめていたカイルとエレンの幻影の首を、文字通り一瞬でスパスパと跳ね飛ばした。
幻影が悲鳴をあげて霧霧霧と霧散していく。
「ふふ、さすがは私の最強の侍女ね。目が覚めたわ」
リンの命懸けの介入によって、私の意識は完全に覚醒した。
それと同時に、胸の奥から、前世のシャルロットとしての未練や恐怖が、完全に消え去っていくのを感じる。
過去の私を完全に乗り越えた瞬間、私の魂のさらに奥底――100年前の聖女シャルロットの真の力が、今の最強皇女ローゼマリーの肉体と『完全な融合』を果たした。
「……私の幸福を、過去の幻影ごときで揺るがせると思ったのかしら」
ドォン!!!
私の全身から、これまでの比ではない、神々しいまでの黄金と紫の『絶対覚醒魔力』が爆発的に溢れ出た。
その圧倒的な魔力の光は、奈落の底を満たしていた不気味な瘴気や、魔王が作り出した精神の迷宮そのものを、文字通り光の速さで消滅させていく。
バキバキバキ、と空間そのものがガラスのように割れ、世界が元の「奈落の割れ目の底」へと戻った。
◇
「ローゼマリー……! 無事かい!?」
迷宮が崩壊したことで、同じく幻影と戦っていたアルベルトお兄様が、大急ぎで私の元へと駆け寄ってきた。
お兄様は私の姿を見るなり、その美貌を驚愕に染めて目を見開いた。
今の私の背後には、純粋な魔力によって形成された、美しくも神々しい『光と氷の薔薇の翼』が顕現していた。過去のトラウマを乗り越え、真の最強へと至った姿だ。
「ええ、お兄様。リンが助けてくれたおかげで、完全に覚醒しましたわ」
「そうか……、リン、よくやってくれた。後で最高の褒美をとらせよう」
アルベルトはおののきつつも、私の新たな力を愛おしそうに見つめ、それから私たちの目の前を指差した。
迷宮が消え去ったその場所に、禍々しく脈打つ2つ目の『封印の楔』が剥き出しになって存在していた。
『おのれ……、精神の迷宮を力技で叩き割るだと……!? シャルロットぉぉぉ!』
魔導結晶の奥から、魔王ディルクの怒り狂った咆哮が響き渡る。
「うるさいわね。その名前で呼ぶなと言ったはずよ。今の私は、帝国の第一皇女ローゼマリーだ」
私は覚醒した圧倒的な魔力を右手に集束させ、目の前の結晶へと向けて静かに解き放った。
ねむ
74
#転生
コシ
103
耀聖(ようせい)
1,401
287
――『聖絶の氷華(ラグナロク・ローズ)』。
放たれたのは、絶対零度をも超越した、すべてを無に帰す光の奔流。
魔王の2つ目の楔は、防衛の障壁を展開する暇さえなく、光に呑まれて分子レベルで完全に消滅した。
奈落の割れ目に、再び静寂が戻る。
「ふふ、これで2つ目も片付きましたわね」
私は背中の魔力の翼をそっと消し、いつもの気高き微笑みに戻ってお兄様とリンを見た。
魔王の仕掛けた罠を乗り越え、私はさらに誰も手の付けられない最強の存在へと進化したのだ。
「さあ、お兄様、リン。魔王の完全なる破滅に向けて、次の目的地へ行きましょうか」
私たちは確かな絆を胸に、暗い奈落の底から、
次なる戦いの舞台へと堂々と歩き出すのだった。
コメント
3件
暗殺、、!いけいけ〜!! かっこよ、!てかノベル上手過ぎないかい? 文章の組み立て方?が綺麗… 私なんてごちゃごちゃよw
いやもう、リンがかっこよすぎて震えた……! 精神攻撃ごと境界線を「暗♡♡♡て切り裂く」って発想、さすが元最強暗殺者のメイドですね。あのシーンでローゼマリーが完全覚醒して奈落ごと消し飛ばす流れ、めちゃくちゃ胸熱でした。トラウマを乗り越える強さと、二人の絆がしっかり描かれていて、今回も本当にいい話でした!