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「こんなに……!? 浅長様、和宗様に〝家臣は十人余りで構いませぬ〟と申し上げたのではなかったのですか?」
黄色い悲鳴を上げたのは、つい先日邦川家の家臣となった__櫛崎家の正室、良姫であった。
櫛崎家御一行が家となる屋敷に来てから数日。
今日は、これから家臣として働いてもらう者たちと顔を合わせる日だった。
農民から武士に____とは言いつつ、下流武士ということで家臣も五人ほどで良いと主君・和宗に頼んだ筈だったのだが……。
いざ部屋の戸を開けてみるとそこには十二人の武士が平伏していた。
その状況に誰よりも驚いたのが良姫だったのである。
妻の悲鳴を聞いて浅長もうーんと喉を鳴らした。
「確かに殿には五名ほどと申し上げた筈だ」
「本当ですか?」
「無論事実じゃ。元々は農民であって、奇跡的に武士になれたのだから、言うに決まっておろう」
「………」
確かに、と思う。
農民から武士になれるなど(たとえ下流階級であったとしても)稀な事だ。
それ以上欲を言えないのはしっかり分かっている。
「恐れながら」
しっとりとした声が聞こえたと思えば、家臣(になるであろう)男衆の中でも一番歳の行った男が一声をあげた。
「わしらは邦川様に『下流階級でも儂の命の恩人じゃ。しかと世話をするのじゃぞ』と言われており……」
「なんと。それは誠か!?」
「はい。勿論で御座います」
(ならば此奴らは殿からのお達しという事か!?)
後日、直々に文を送って見ると。
「やはり………」
あの数人の男衆は和宗のお抱え浪人であり、『櫛崎家は大切な家となるだろうから』と言って仕えるように手配してくれたものだという。
「殿……。良いのですか? あんなにたくさんの家臣を養えますの?」
良が色々言ってきたが、浅長はキッパリとこう言った。
「彼奴らは殿からの贈り物じゃ。何があろうと面倒を見てやらねばならぬ」
夫君がこう言うので、良も了承するしかない。
「___承知いたしました」
こうして……。
櫛崎家は見事に武家としての一歩を踏んだのであった。