テラーノベル
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そのニュースはあまりにも衝撃的に、日本中を駆け巡ったのだった。
女子高校生、それも大手銀行頭取の娘が、自室で惨殺死体として発見されたからだ。
少女の名前は――蓮見楓。
彼女はベッドの上で血まみれになって倒れていたのだが、これを倒れていると言っていいかは疑問だ。というのも、その死体はほぼひき肉といっても過言ではない有様だったのだから。警察は箝口令を敷いたようだが、人の口に戸は立てられなかったらしい。歌が朝起きた時にはネットニュースにもなっていて、少女の死にざまが詳細に広まってしまっていたのだから。
彼女の直接の死因は、内臓損傷と大量出血によるショック死。
性的暴行を受けた上、鋭い刃物のようなものを膣にねじこまれ、内臓を著しく損傷したことによるショック症状での死亡だとされている。彼女は散々暴行を受けたあと、女性の尊厳を破壊するようなやり方で殺害されていたのだ。
それだけではない。
彼女の体は、四肢以外が全て原型を留めていなかった。
引き裂かれた腹部からは腸や肝臓などの肉片が飛び散っており、折れた肋骨と背骨、骨盤までもが露出しているような状態だった。
乳房は鋭い刃物でえぐり取られ、断片が近くに落ちているという状態。
首は比較的綺麗だったが、顔面は鍬のようなもので耕された形跡があったという。上唇より上が損壊し、元の顔の面影さえ残っていなかったという。むき出しの歯茎、折れた歯、潰れた舌、引き裂かれた唇――何処にあったかもわからない鼻と、眼球がなくなってぽっかりと開いたままの眼窩。さらに、頭皮ごと髪の毛が引きはがされ、割れた頭蓋骨からは脳も零れ落ちていたという。幸いだったのは、それらの殆どが死後行われた暴虐であったらしいということか。下半身の傷以外に、生活反応は出なかったという。
不可解なのは、彼女が死んでいた場所と、状況。
彼女の家は邸宅の二階であったそうなのだが、一階には両親も、祖父母も、使用人たちも寝泊まりしていた。それなのに、彼女が殺されていることに誰一人気づかなかったのである。確かに広い屋敷ではあるが、レイプされて少女が悲鳴を上げなかったとは考えにくいし(傷からして、意識のある状態で殺されたと思われる)、薬物反応も出なかった。何より、あれだけ人の体を派手に損壊しておいて、物音一つしなかったとは思えない。しかも、痕跡からして複数人による犯行が濃厚。
いくら両親と使用人の部屋が少し遠かったとはいえ、まったく気づかないなんてことがあるのだろうか?
もっと言えば、屋敷は二重、三重の密室だった。
蓮見邸に入るためには、広い庭を抜けなければいけないが――この家には夜勤の警備員が、交代で見張りをしている。防犯カメラもあるし、センサーもある。最新の防犯システムの数々を潜り抜けて、暴漢が屋敷に入ることがまず困難極まるのだ。
勿論、屋敷の窓、ドアにも全て鍵がかかっていたし――それは、蓮見楓の部屋も同じ。彼女は両親の言いつけを守って、夜は必ず部屋に鍵をかけ、窓にも内側からしっかりと施錠してあったのである。彼女の部屋の鍵は、内側からしか開錠・施錠できないタイプ。よって、同じ屋敷にいる両親や使用人でさえ、彼女が内鍵を開けてくれない限りで入るすることができなかったのだ。
では自殺か、事故か?――死体の状況からして、どう考えてもそれはあり得ない。
その場合は、人間の手に見せかけるような大掛かりなトラップ装置がなければいけないし、何より現場からは凶器が見つかっていないのだ。
同時に大量の血痕ゆえ誤魔化されそうだが――今の鑑識は優秀なのだ。その場で飛び散った血か、あとで流れた血かは調べればすぐわかる。後に、犯行現場は、あの部屋ではなく別の場所であり、彼女はよそで殺されてあの部屋に運び込まれた可能性が高いということも判明したとか。
つまり、不可解な点が多すぎるのだ。
まるで、不可能犯罪。完全すぎる密室で殺された、名家の御令嬢。しかも、彼女の生前の写真がネットに出回ったことにより、ますます人々の関心を引くことになったのだ。それもそうだろう、本人にどれほど自覚があったかはわからないが――生前の楓は、十人いれば九人は振り向くだろうと思われるくらい、美しい見目をした少女であったのだから。
『あの部屋には、きっと特別な仕掛けがあったんだよ。実は秘密の通路があって、そこから誰かが侵入したんだ!』
『それはミステリー的にはノックス十戒違反じゃねー?あと、部屋を調べた警察が秘密の地下通路に気付かなかったら、それはザルすぎると思うんだけどな』
『じゃあこういうのはどうだ?実は、部屋に鍵なんてかかってなかった!家族が共犯で、鍵がかかったふりを……』
『部屋の前に防犯カメラがあって、ばっちり鍵かかってるのが映像で残ってるから無理だろうよー。あと、ドアが開けられなくて家族が最終的に鍵屋呼んで壊して貰ってるんだしな』
『これは実は、お嬢様が寝る前から部屋に誰かがいて、ずっと隠れてたってのはどう?あんな綺麗なお嬢様なんですもの、きっとモテるだろうし、男の一人や二人!』
『そうかなあ?貞淑で上品、男の気配なんか一切なかったって噂で聞いたけど……』
『他の人が隠れてた痕跡があったらそれも警察が気付いてるに決まってる。はい論破』
#怪異
耐え内
233
#怪異
阿炎快空
123
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
『これはミステリーではなく、ファンタジーなんだと見た!誰かが、お嬢様を逆恨みして、黒魔術で呪い殺したのさ!』
『ここまでくるとそれもなんかありそうに思えてくるのが怖いわwwww』
『おおおおおおおおおおおおおおおおお盛り上がってまいりましたああああああああああああああああああああああああああああああ!みんなで推理するどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
『ていうか、皆さん不謹慎だと思わないんですか?若い女の子がレイプされて殺されたのに面白がるなんて!』
『いい加減にして。本当にいい子だったんだよ。死んだあとまで玩具にしないで!』
『ふしだらな噂なんかあるはずない。蓮見さんはそんな人じゃなかった!!』
『ネットなんてこんなもん。意味不明な死に方する方が悪い』
『ああ、この国も終わってなー』
『マジでやばすぎて草生えるわ』
インターネットでは、多くの人々の面白半分の声や憐憫の声、怒りの声などが溢れていた。少女の生前の評判が良ければ良いほど、彼らにとっては面白い推理材料でしかなかったのだろう。無論、それに怒り、いい加減にしろと怒る者も少なくなかったわけだが。
歌が、そんな人間たちの中でどれだったかは言うまでもない。
学校から電話がかかってくるよりも前にテレビでニュースを見て、そのまま茫然と動けなくなってしまったのだから。
「あ、あ……か、楓、ちゃ……」
信じられない。あまりにも、信じたくない現実。
先生から電話で、今日は学校全体が休みになるという連絡が来た時も、ただぼんやりとその声を聞き流すしかなかったのである。
『……長谷部。ショックを受けているのはわかる。でも、自分が悪かったとかは絶対に思うなよ。犯人は、警察が必ず捕まえてくれるはずだ。だから、お前も辛いだろうが……刑事さんが家に来たら、捜査協力してほしい』
「……先生」
先生は一生懸命、歌を励ましてくれた。その心が無駄だなんてまったく思わない。思わないけれど。
心のどこかで、冷えた気持ちがあったのは事実だ。
完全な密室なんて、あり得ない。鍵がかかった部屋で、誰にも気づかれず、少女の惨殺死体を運び込む。そんなことが本当に可能なのか、否。
ニンゲンの力でできるとは、とても思わない。
そして警察も恐らくは疑っている。何故なら、昨日浮島冬香、羽柴由衣の二人が奇怪な死に方をしたばかり。そしてこの三人が全て同じクラスの、仲良しトリオであったともなれば。
――不可能に見える犯行であっても。……動機がある人物なら、警察だってすぐに突き止める。他のクラスメートのみんなだってきっと証言する。……三人を殺したいほど憎んでいるとしたら、それは綾乃ちゃんだって。
綾乃は、本気で自分が捕まらないと、疑われないとでも思っているのだろうか。
――いずれにせよ、その前に……ちゃんと、話をしなきゃ。
***
さて、どうしたものか。
スマホを弄りながら、綾乃は部屋で考えていた。歌を問い詰めることは決めた。彼女の返答次第では見逃してやることも一応考えてはいるが、状況的に見て彼女が楓に連絡先を伝えたのはほぼ確定的である。あいつらと結託して綾乃を裏切っていた――それがはっきりとわかれば、もう歌もただの裏切り者だ。彼女を始末することになんら躊躇いはない。
問題はふたつ。
できれば会って話をしようと思っていたが、学校閉鎖になってしまったために簡単には会いに行くことができないこと。彼女の家の住所はわかっているが、そこまで行くのは正直面倒くさい。ならば電話で話すしかないが、昨夜と違って今は家族が起きて部屋にいる。あまり大きな声でしゃべることはできない。内容を聞かれたくないのもそうだが、口うるさい母にガミガミ言われるのが目に見えているからだ。
もう一つは、歌にどのような罰を与えるのか、ということ。
楓にやりそこねたことを代わりに歌にやろうかとも思ったが。なんだか、それもそれで味気ないというか、面白味がないような気がしてしまう。もっともっと、人を苦しめたり、恐怖させる方法はないものか。物理的暴力と性的暴力で追い詰めるというのはもう十分やったからいい。もっと他に、じわじわいたぶれるような拷問がないものか――。
――どうせ、暇だし。デスゲーム系ホラー映画でも見ようかしら。なんかアップロードされてないかな。
パソコンを立ち上げ、YouTubeの画面を出す。お金を出して映画やアニメを見るなんてもったいない。どうせ、誰かがこっそり映画を再編集したり、ファスト映画と言う形でアップしていたりするのだ。自分みたいなお金のないフツーの女子高校生が、そういう無料動画を楽しむくらい別に構わないだろう。悪いのはアップする人間なのだから。
そもそも、映画にしろDVDにしろ高いのがいけないのだ。クソみたいに稼ぎ捲ってお金をためこんでいる老害どもから、もっともっと税金でもなんでも搾り取ればいいのである。自分達若者は、いろんなものをもっと安価で、あるいは無料で買ったり見たりできるような仕組みにならないものだろうか。
――ほんと、世の中クソな大人ばっか。大人の都合の良いことばっか。これだから老害って言われんのよ。
適当に検索していた時、一つの映画タイトルが目に留まった。“悪魔カーティスの館”。数年前に流行ったハリウッドのホラー映画ではなかったか。確か、カーティスという悪魔と契約した男が、自分を陥れた女たちに次々魔法で復讐していく話である。なんだか、今の自分の状況によく似ている。
――そういえば……澪とかいうあの女。全部終わったら対価を後払いで徴収するとか言ってたけど。今のところ姿を現さないわね。
それは、綾乃の復讐がまだ終わっていないからなのか。
あるいは――綾乃が殺した連中の痛みや苦しみが、綾乃が受けた苦痛とぴったりと釣り合っているから対価が必要ないのか。
きっと後者だろう、と綾乃は思った。だって、自分はこんなにたくさん苦しいいじめを受けて、傷つけられて、虐げられてきたのだ。奴らへの拷問が行き過ぎなんて、そんなことあるはずがない。むしろ、まだまだ全然足りないくらいだ。
そう、無論これから歌に対してしようとしていることに関しても――。
「ん?」
その時、スマホがぴろんぴろん、と音を奏でた。LINEの着信だ。綾乃は眉をひそめる。
表示された名前は、長谷部歌。
今まさに、どこかに呼び出してやろうと思っていた相手であったのだから。
コメント
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うわっ…第22話、めっちゃ重い展開だね。蓮見楓の遺体描写がとにかく生々しくて、読んでて息が詰まったよ。あれだけの惨殺で完全密室って、どう考えても人間業じゃないし、ネットの推理合戦もなんか生々しくてリアルだった。 歌の茫然とする気持ち、すごく伝わってきた。親友がそんな死に方したらそりゃ動けなくなるよね。最後の綾乃の「もっといたぶれる拷問」発想がまた怖すぎる…。楓に続いて歌も標的にされるのかな。次が気になるわ🔥