テラーノベル
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水路の終点、上の池への入り口は以前、『旅立ちの扉』と呼ばれる禁忌の場所であった。
その後、ナッキが破壊しつくした事で、子供たちや卵が安全に過ごす事が出来る浅瀬への、言ってみれば通学路のような役割に変化していたのだが、今ナッキの目前に広がっている光景は、のどか所か物騒そのものであった。
戦場である。
そもそも下の池に比べ水深が浅い上の池ではあるが、そうは言ってもナッキの体高の数倍の深さはある。
その底、水草の茎が途切れた場所でアカネ達侍と、ブル率いる力士達が敵であるヤゴと対峙していたのである。
ヤゴの姿は、茶褐色や黒、深緑の体色に、六本の手足を持ち、丸く短いもの、細長く大柄なもの、体の大きさに対して異常に手足が長いもの等々、姿形が違って見え同一の種族とは思えなかった。
共通しているのは特徴的な下顎である。
素早く伸縮する顎には、鋭い鋏(はさみ)状の歯が付いて居り、それを次々と繰り出してカエル達を攻撃している。
対するアカネ達ヤマアカガエルの侍達は、地上から拾って来たのであろう木の枝を器用に振るって、下顎の攻撃を払っているようだ。
「ど、どすこいっ! くっ! みんな頑張るでごわす! どすこーいっ!」
『うっしっ! どすこい! どすこい!』
ブル率いるウシガエル達は素手で鋭い下顎に張り手を繰り返しているようだが、当然無傷では無く、揃って傷を負っているのが見えた。
「ああ、ブル君と仲間達が! くっ、ど、どうすれば!」
ヤゴ達はあまり上手に泳げないらしく、水底を歩いて移動しているようだ。
ブルたちを応援しようにも、基本泳いでいるナッキ達にはどうする事も出来ない。
鰭を使って激しく水底に体を叩きつければ大ダメージを与える事は可能だろう。
そこまで考えたナッキは横に並んだウグイのティガに声を掛ける。
「ティガ、体当たりとか駄目だからね! ブルやアカネ達にもダメージを与える事になるんだから! それ位、君でも判っているよね!」
勢いを付ける為だろう、一旦池の水面まで上がって体を翻していたティガは、慌ててその場でクルクル回って勢いを殺しながら答える。
「お、おう…… と、当然だよ! お、俺はこれからの作戦を考えてこうして回っていたって訳よ!」
「へー」
「回ると思いつくんだね?」
「お、おうよっ!」
いい作戦を思いつくまで永遠に回り続ける事が決定したティガの事は、放って置く事にした二匹は、ちゃんと答えが出る様に相談を始める。
「どうしようかサニー」
「うーん、そうだねぇ…… っ! あれは! 簡単な言葉だったら通じるってあれ! 水鳥たちにもちょっとだけ通じてたじゃない? 挑発とかしてブルやアカネ達から引き離せばいいんじゃないかな?」
なるほど、仲間たちから引き離しさえすれば、今も現在進行形で蓄積され続けている、無駄な回転エネルギーも使えると言う事か……
ナッキは内耳(ないじ)を澄ます。
…………
どすこいと言う気合の連呼に混ざって、ギギッ、と短い声がそこかしこに響いている事が判る。
「確かに何か言っているみたいだね、通じれば良いんだけど…… やるだけやってみよう」
「だね、ブルたちも疲れて来てるみたいだし、あいつ等『死ね』とか『喰ってやる』とか物騒だよ、やってみてナッキ」
「え!?」
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