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三人の王妃たちが作り終えたパン生地は、城で働く専属のパン職人に渡して石窯で焼いてもらう。
現在の時刻は午後3時過ぎ。パンが焼き上がるまでの待ち時間にお茶会……などという貴族の発想はランナにはない。
三人が調理台の前でエプロンを外すと、ランナは次の提案を二人に持ちかける。
「次は三人でお風呂に入りませんか!?」
突然の誘いにモニカとポーラは目を丸くして固まる。ランナとしては親睦を深めるためのプランは『パン作り』と『入浴』に決めていた。
モニカがどう返そうか迷っていると、ポーラがすかさず飽きれ顔で返す。
「お風呂って、まだ午後3時よ?」
「だって今しか一緒に入れる時間がないし! いいでしょ、絶対に楽しいよ!」
ランナの押しが強くてポーラは言い返せない。確かに王妃の三人が集って自由にできる時間は今しかない。
それにヒルの人格が出ている時間帯は、モニカとポーラを縛る呪いの効果が少しだけ弱まっている気がする。
それに加えてパン作りが功を奏したのか、ポーラの微笑みも柔らかい。
「まったく。私はいいけどね。ランナと一緒にお風呂なんて何年ぶりかしら」
ポーラに続いて、モニカは頬を赤らめて恥ずかしそうにして同意する。
「私もぜひ、ご一緒したいですわ。今朝、アサ様とご一緒に軽く入浴しましたけど、もう一度入りますわ」
さり気なく大胆発言をするモニカに反応してランナの方が赤面してしまう。
「え!? モニカ様はアサ様と一緒にお風呂入るんですか!?」
「はい、朝風呂ですわ」
「あら、私も夜はヨル様と一緒に入浴するわよ」
「姉さんまで!?」
(……私もヒルくんと一緒に昼風呂しようかな……)
モニカとポーラの発言にランナは驚きの連続だが、限られた時間帯の中で常に一緒にいたい気持ちには共感する。
そうして三人は厨房から大浴場へと移動する。どちらも昼の城の一階にあるのですぐに着いた。
脱衣所に入っただけで、その扉の先にある浴槽の湯に浮かぶ薔薇の香りが漂ってくる。
それぞれがドレスを脱いで白いタオルを体に巻くが、ランナはモニカの胸元に釘付けになった。
(う、わ、モニカ様のスタイル、バスト、すごい……!)
見事にくびれた細い腰と、タオルで隠しきれないほどに盛り上がるバストの山と深い谷間は芸術品のようだ。
銀髪と碧眼という神聖で清楚なイメージのモニカからは想像がつかない大胆なスタイルから目が離せない。
ランナでこうなのだから、アサはどうやって理性を保っているのか……あの涼しげなアサの笑顔は尊敬に値する。
浴室に入ると、金色の柱に囲まれたプールのようなサイズの浴槽が絶景となって目に飛び込む。一度に10人以上は入れそうだ。
ランナはいつも自室の小さなバスルームで入浴していたので、大浴場は初めて見る。華やかで甘い香りの源は、湯に浮かべられた白薔薇の花びらだった。
驚きと感激のあまり絶句して立ち尽くすランナの隣でポーラが忠告する。
「ランナ、泳いじゃだめよ」
「……うっ」
さすがは付き合いの長い姉。見事に思考を読まれてしまった。そんな二人を見たモニカは声を出して笑っている。
まず体を洗い流した後に三人で一緒に浴槽に入る。プールのように広い浴槽ではあるが、三人は隅で寄り添うようにして座った。
お互いの顔が見えるように三角形の位置で座り、肩まで湯に浸かっている。ランナの視線はモニカとポーラを行ったり来たりで落ち着かない。
「ランナさん、どうかいたしましたの?」
「あ、いえ……モニカ様とポーラ姉さんのスタイル、すごく良いから……」
「あら。ランナも最近、色っぽくなったわよ」
すかさずフォローを入れてくれるポーラの優しさが嬉しくて、ランナは心まで温まる。
三人は入浴時も結婚指輪を外さない。いや、呪いで外せない。それでも今、この時間だけは呪いに支配されてないような気がする。
体が裸になると心も素直に曝け出せる気になる。ランナは思い切って自分の思いと願いをモニカとポーラに伝える。
「あの、私、ヴァクト陛下の人格を『救う』方法はないかなって思うんです」
三人の王妃は、三人格が殺し合っている事は知っている。そんな中でもランナだけは人格を殺す以外の解決法を模索している。
聖女の能力で人格が殺せるなら、人格を救う事もできるのではないかと。ランナの魔法薬の調合の能力だって本来はそうありたい。
恐る恐るモニカとポーラの反応を見ると、二人とも目を丸くして純粋に驚いている様子でいる。
「ランナさんの発想、興味はありますわ。争いは良くありませんものね」
呪いで倫理が崩壊しているはずのモニカの口から聖女らしい意見が返ってきた。これは期待できるかもしれない。
モニカに続いて、ポーラも穏やかな瞳と口調でランナに言葉を返す。
「ランナらしい考えよね。私も詳しく聞きたいわ。何か良い案でもあるの?」
最も強い呪いに支配されているポーラでさえ否定せずにランナの意見に乗ってきた。このチャンスを逃す訳にはいかない。
「私たちは聖女だから、三人の能力を合わせれば奇跡の力が生まれる気がするの」
つまり三人の王妃が心を一つにして力を合わせる。先ほどのパン作りみたいに、三人で同じものを作り上げる事で奇跡が生まれるのだと。
しかしランナの意見は抽象的すぎて内容が伝わらない。そこはポーラが冷静に指摘する。
「つまり具体的に、私たちの力で陛下をどうしたいの?」
「例えば三人格を分離して、三人が別々の体を持って、アサ様、ヒルくん、ヨル様、三人の人間にしたい!」
今度は空想的すぎてポーラは呆気に取られてしまう。確かに三人格が別々の人間として存在すれば、それが理想だろう。
しかしヴァクト陛下の体は1つ。人格を分離できたとしても体は分離できないし増やす事はできない。
ポーラとモニカが黙り込んでいる前でランナは熱弁を続ける。
「つまり私たち王妃は争うんじゃなくて、力を合わせましょう! 団結しましょうってことです!」
ランナは勢い余って立ち上がり、腰から下だけを湯に浸けた状態で堂々と胸を張って宣言する。
真面目なはずなのに、なぜかおかしくてポーラとモニカは吹き出して笑ってしまう。
「分かりましたわ。私は今日、お二人と過ごして楽しかったですし、今後も仲良くしたいですわ」
「そうね。私も目が覚めた気がするわ。ランナに冷たく当たってごめんね。今後は協力するわ」
「モニカ様、ポーラ姉さん……」
ランナは目を潤ませながら再び座って肩まで湯に浸かる。左手だけを湯の上に出すと、手の甲を向けて二人の前に差し出す。
「じゃあ、約束の証。手を合わせましょう」
モニカとポーラは同時に頷くと、ランナの手の甲の上に手を重ね合わせる。
三人の左手の薬指にはそれぞれ、白銀の指輪、金色の指輪、漆黒の指輪。朝と昼と夜の王妃の心が重なった瞬間でもあった。
しかし、本来は金色であるはずのポーラの瞳は漆黒のまま。
呪いは消えた訳ではない。約束という不確かなもので絆を結んだ気でいるランナは、残酷な現実に目を向けてはいない。