僕が緊急搬送されたことがネットニュースになってすぐ、チーフマネージャーから発表する詳細の確認電話が来た。
『”栄養失調”はちょっと聞こえが悪いから、”過労”で点滴打ったらすぐ帰ったって発表するよ。』
「分かりました。それでお願いします。」
『今は体調どう?』
「大丈夫です。毎日若井に介護されてますから。」
僕が倒れてから若井は、【僕の家から仕事に行く→ここに帰って来る→次の日ここから仕事に行く】を繰り返していた。
『いいじゃん。これを機にもう一回同居してみたら?』
若井との生活は苦ではなかった。以前同居していたこともあって、お互いのプライベートでの距離感は把握しているし、過干渉はないけれど栄養あるご飯を作ってくれたり、練習に没頭していたら気にかけてくれたり、時には一緒に練習したり。むしろ一人だと思考が暴走するから結構快適だったりする。ただそれはあくまでも僕側の感想。
「若井にずっと介護させるの申し訳ないですよ。」
『その介護士の若井君今いる?」
「今夜の食材買いに行ってます。」
『じゃぁ帰ってきたらさっきのこと共有しておいて。』
「了解です。」
チーフマネージャーからの電話が終わった後、なんとなくネット記事を見てみた。
まだ事務所発表がないので緊急搬送されたという短い文章のみだったが、コメントが500くらいついているものもあった。
「・・・・。」
見ちゃ駄目だと思いつつ、コメント欄を開く。
ほとんどが僕を心配してくれるファンのコメントだったけど、中にはやっぱり心無いコメントもあるわけで。
「・・・大丈夫。こんなのは何も知らない人たちが言ってるだけだ・・・。」
――『一番働いてない奴が過労て(笑)』
――『もうこのまま引退してくださいお願いします』
――『よく休むよね。他の二人いい迷惑じゃん?』
――『キーボードはメインにいらん。サポーターで十分』
――『迷惑かけてるって自覚ないんかね?』
(あ、やばい・・・。)
過呼吸になる。
大丈夫、落ち着いて、吸って・・・吐いて・・・。
「涼ちゃん?!」
若井が帰って来たらしい。リビングの床に蹲る僕を見て、スーパーの袋を放り出し駆け寄ってきた。
「涼ちゃん?!大丈夫?!」
コクコクと頷く。辛うじて呼吸はできてるから、意識は保てていた。
「いい?涼ちゃん。俺の手を見て。これはローソク。ローソクです。」
ローソク・・・?
「誕生日ケーキみたいに5本のローソクを1本ずつ吹き消して。ほら、フーって。」
「フー・・・。」
「そう、上手。もう一回。」
「フー・・・。」
僕がフーっと息を吹きかけると、若井は一本ずつ指を折り曲げていく。
「大丈夫?息を吸ってー、フー。」
「フー・・・。」
最後の1本を消した時、かなり落ち着いていた。
「ありがと、若井・・・。」
「歩ける?とりあえずベッドに行こう。」
「うん・・・。」
若井に肩を貸してもらい、寝室のベッドに横になった。
「だいぶ楽になった。ありがと、若井。」
「何かあったの?」
「チーフマネージャーが今回のことについて連絡してきたんだけど・・・。そのあと気になって記事とコメ欄見たら・・・。」
「アンチコメ見たんだね。」
ため息をつく若井。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「迷惑かけてごめんなさい・・・。」
「迷惑だなんて思っていないよ。また搬送・・・みたいなことにならなくてほっとした。」
「あの、ローソクの火ってなに?」
「あれはグラウンディングテクニックを元に作られたパニックや緊張を落ち着かせる対処法だよ。深呼吸するから過呼吸にもいいかなって覚えてた。」
「調べたの・・・?」
「うん。涼ちゃんにまた何かあった時すぐ対処できるように。役に立ってよかった。」
「・・・・。」
僕はなんて情けないんだろう。自分で対処しなければいけないのに・・・。
「また自分でどうにかしなきゃって思ってない?頼っていいんだよ?仲間なんだから。」
「頼るだけが仲間じゃないでしょ?頼って頼られて・・・。でも、僕は迷惑しかかけてない・・・。」
堰を切ったように涙が溢れてくる。
「僕なんかいない方がいいんだ!」
――『よく休むよね。他の二人いい迷惑じゃん?』
――『迷惑かけてるって自覚ないんかね?』
本当にその通りだ
僕は二人にとってお荷物で
邪魔でしかない
――『もうこのまま引退してくださいお願いします』
僕がいない方が
僕なんかいない方が
「涼ちゃん!」
ぎゅっと抱きしめられた。
「若井・・・。」
「大丈夫だよ。大丈夫だから。」
「うっ・・・。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
まるで子供のように、若井に縋って泣いた。
プライドや体裁なんてどうでもいい
ただひたすらに泣きじゃくった
コメント
8件
泣けるぅぅ(´;ω;`) 涼ちゃん居なきゃあかんでぇぇ
最高すぎて何回も読み返してます😭続きも楽しみにしています✨
本当に大好きです、続きお待ちしています☺️