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無造作に本を奪い取られた。
「この本を私から奪ってね」
物を盗む狐のような眼で、彼女は悪戯に笑う。
「いいの?追いかけてこないの?先回かしら?罠にでもはめる気?油断をさせようって魂胆ね? 物を使うかしら?人かも?私の気をひこうとしてるのね?」
選択肢が一つ増える事に距離をとっていく彼女。僕が聞いてたのはここまで。それからあふれ出る選択肢は山頂を目指すような距離にまで増え、錘のようで手足の原動力を奪い取るようだった。踏み出そうとしない僕を馬のような扱いをして、言葉で鞭を打つ。
「ちょっとやめてよね、また選ばないとか。あるいは選択肢以外とか。同じものはつまらないのよ」
「制限時間は?」
「そうね、一時間以内に」
世界で流れている均等な時間とは違う、衛生のような時間軸で回る彼女の時間。
「貴方が触れただけでも勝ちにしてあげてもいいわ」
既に頂きにいるような鼻の高い狐。彼女の背後に花を添えるように、材料が置いてあるのを見つける。僕はいつの間にか現れたそれらを使って組み立てを始める。彼女は狐の置物になって僕のそばでそれを見物していた。
「あら、何それ。本のつもり?」
僕のそれが出来上がる頃には、狐の魔法は溶けていた。
「奪ったよ」
「何言ってるのかしら」
僕は完成したそれを彼女へ差し出す。優美に見えた狐は、醜く顔を歪める。
「どこをどう見たら同じ本なわけ?私の持っている本を奪ってと言ってるのよ。私が何のために逃げていたかも分かっていないわけ?奪えって言ってるのよ。これを」
彼女は重い辞書のようなそれを勝利の旗のように高らかに掲げる。その姿は何者かに憑依されているよな異質なものだった。
「奪う必要はないよ」
彼女は自分が正常者で、正しい判定者と言わんばかりの目付きをしている。
「あっそ。また選択外を用いるのね。持論なんか聞く必要も無いわ。奪う必要がないから、じゃあ、作ってみたのね?」
言葉は選択肢というよりも、押しつけに近いものになっていた。
「作るなって言ってるの。あ、分かった。条件を作って欲しいのね。分かったわ。作るのもなしよ。全部私が今手にしているこの本で何かしてちょうだい。模型で対応するのは違うわ…本当に」