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夫からの2度目の誘いのチャンスを活かせなかった私は、このままじゃ
いつか離婚されてしまうかもしれないと考えるようになる。
それほどに3度目があった時のことを考えても、誘いに応じることのできる
自信がなかったのである。
この頃になると、私は離婚というワードで頭の中が支配されるようになって
いった。そして、離婚になった場合のことばかり考えるようになる。
それと共に、淳子の二度目の誘いを断った匠平に対する報復として、匠平と
彼女との間で起きた密室でのことを、彼女が自分に対してあけすけに
暴露してくるのではないかと、しばらくの間、そんなことに怯えながら暮らした。
しかし、この2か月の間、一度スーパーで遠目に淳子を見掛けたものの、
マンション内で待ち伏せされることも偶然会うこともなかった。
少なくとも自分は……。
夫はどうなのだろう。
ここのところ夫婦生活の問題でギクシャクしていることもあって、どちらから
ともなく淳子の話は一切していないから、何もないのか、はたまた一度くらい
彼女に偶然を装われて会ってしまったというようなことはあるのか分からない
けど、ひとまず会ったという話は今のところ聞いていない。
◇ ◇ ◇ ◇
圭子が昔取った杵柄で仕事を見つけたのと同じ頃、再度匠平から引っ越しを
提案された。
このまましばらく現状維持であれ、先で離婚ということであれ、淳子のような
危ない人間の側にいるのは得策ではない。
万が一娘に危害でも加えられたら、それこそ目も当てられない。
そのような理由から圭子も匠平と引っ越しの件については
足並みを揃えることにした。
引っ越せることになり、そのこと自体はちっとも嬉しいものではなかったが、
心のどこかでほっとする自分もいた。
何もしていない自分たちの方が引っ越さなければならないというジレンマは
あったが、常識の通じないエキセントリックな淳子が相手ではそれもしようが
ないと……諦めるしかないのだと、自分に言い聞かせるしかなかった。
引っ越すことが決まってみれば、どうぞその日まで淳子に会わずに
済みますようにと願うばかり。