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「こちら、メニューとなっております」
片面1枚のシンプルなメニュー
周囲を見渡すと皆渡されているメニューが違うようだ
高級そうな服を着ている人や幼稚園児、老人まで様々な人が来ている
もしかして人気店なのだろうか
以外にも出されたカトラリーはプロスチック製のものばかりだ
何となくそれが気がかりで思わず聞いてしまう
「どうして、プラスチック製なんですか?」
笑顔を崩すこと無く答えてくれた
「反射を防ぐためです」
イマイチピンと来ないが一応相槌は打っておいた
メニューに値段は書かれておらず少し悩む
「ご安心ください、当店は全てサービスとなっておりますのでお料理も無料ですよ」
そんな馬鹿な話は、と頭をよぎるが何故か夢のようにふわふわとした感覚で納得をしてしまう
「じゃあ、このハンバーグお願いします」
そう言うと男はすぐに頭を下げて、歩いていった
お料理が到着するまでの暇つぶしに、と何やら本を置いて言ってくれた
何故か手元にスマホは無かったため迷うことなくページを開く
‘’私の人生”
‘’あらすじ”
1章 あたりまえ
2章 気づき
3章 後悔
4章 終末
‘’1章 あたりまえ”
ずっと、当たり前だと思ってた
朝起きたら笑顔で迎えてくれる母
シワのない制服に手をとおせる
学校まで送り届けてくれる父
‘’2章 気づき”
家に帰った時、笑顔で迎えてくれる母が居なかった
母よりも先に父が帰宅した
何となく父と2人暮らし
そのまま高校を卒業し、就職した
綺麗な建物に優しい上司
‘’3章 後悔”
見かけだけだった、見せかけだけだった
私の人生は所詮こんなものなのだと
上司は◯◯ハラを全て掛け合わせたようなクズ
お局は私をサンドバッグとでも思っているのだろう
父が亡くなった
本当に終わったのかも
感謝も伝えていないし、救けも私には必要
もっと早く気づけばよかったのにな
‘’4章 終末”
終わりだと思った
近々終わると思ったから自分で終わらせた
限界が来るのを待つだけなら自分から限界を迎えに行こう
羽が生えたようだった
しかも痛い、最悪
無
ただただ無
眩しい、シャッター音が聞こえる
私は見世物じゃあない
パタンッ
数ページの言葉、真っ白な本
「お食事をお持ちしました」
声をかけられはっ、と顔を上げる
「あ、ありがとうございます」
何となく今の現状がわかった
ナイフとフォークを手にとる
口に入れた瞬間じゅわ、と肉が溶けるようだった
「美味しいです」
これは、確実に泣いている
と思ったものの涙は出なかった
「お食事が済みましたらあちらから、何かご要望はございますか」
先程よりも柔らかい笑顔で
「大丈夫です、遺してきたものは何も無いので」
「本当によろしいでしょうか」
一瞬考えて口を開く
「じゃあ、何も遺らないようにしてください。私のいた痕跡をできる限り消して欲しいです」
「かしこまりました」
男は一礼すると手を取り真っ白な扉まで案内をしてくれた
最初の入ってきた扉とは違う小さな白い扉
開けると眩しいほどの光が私を覆った
「いってらっしゃいませ」
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