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「ハァ、ハァ……っ! し、失礼しますッ!!」
体育館の重い扉を、壊れそうな勢いで開けて飛び込んできた工くん。
顔は真っ赤、髪は乱れ、心拍数はスパイクを100本打った後より速い。
「……おい、五色。遅いぞ。あと、顔がうるさい」
ネットの設営をしていた白布先輩が、冷ややかな視線を向ける。工くんは「すみません! その、治安維持活動に手間取りまして……!」と、支離滅裂な報告をしながら直立不動になった。
「治安維持? ……さっき校門前で、前原相手に何か叫んでたアレのことか」
「っ、……見、見てたんですか!?」
工くんの顔が、さらに一段階、赤黒く染まる。白布くんはじろりと工くんの足元から頭の先まで眺め、心底呆れたように溜息をついた。
「……お前、さっき『好きじゃなきゃ言わないだろ!』って叫んだだろ。……体育館まで丸聞こえなんだよ。瀬見さんなんか、感動して泣きそうになってたぞ」
「う、うわああああああ!! 全員に聞かれてたのかぁぁぁ!!」
工くんは両手で顔を覆い、その場にガックリと膝をついた。白鳥沢のエース候補、完全沈没である。
「……五色。お前、前原にからかわれるのが嫌なら、さっさと付き合えばいいだろ。……あいつ、お前が赤くなるのを楽しんでるだけなんだから」
「つ、付き合うなんて……! そんな、俺にはまだ、エースとしての修行が……っ」
「……修行の前に、語彙力を鍛えろ。……『察しろ』なんて、少女漫画のヒロインみたいなこと言ってんじゃねーよ。気持ち悪い」「そんなんでエース名乗ってんじゃねーよ」
白布くんの氷点下のトドメ。
工くんは「気持ち悪いって言わないでください!! 俺は精一杯の……ッ!!」と、半泣きで叫びながらボール拾いに走っていった。
その背中を見送りながら、白布くんはボソリと独り言をこぼす。
「……まあ、あんなに分かりやすく好意をバラしといて、まだ『クラスメイト』だと言い張るなら、……一生からかわれてろ」
体育館の隅で、工くんがボールをぶちまけて天童さんに弄られ始める。
白鳥沢の午後の練習は、今日もエースの絶叫とともに幕を開けた。
翌朝。教室の入り口で、私はいつものように工くんを待っていた。
すると、工くんの隣のクラスから、少し派手目な私服(練習用ジャージ)を羽織った瀬見英太先輩が、キラキラとした目でこちらに近づいてきた。
「あ、前原ちゃん! おはよう!」
「あ、瀬見先輩。おはようございます」
「聞いたよ〜! 昨日の工の『察しろ!』ってやつ。いやぁ、あいつ不器用なりに頑張ったよな! 俺、部室で聞いててちょっと感動しちゃってさ」
「せ、瀬見さん!! 朝から何を言ってるんですか!!」
背後から、心臓が止まりそうな勢いで工くんが飛び込んできた。
顔は昨日の余熱が残っているのか、朝から真っ赤だ。
「なんだよ工、照れんなよ。お前があんなに男らしく(?)叫ぶなんて思わなかったからさ。……で、どうなの? 前原ちゃんとは、もうそういう感じなの?」
瀬見さんはグイグイと距離を詰めてくる。
私はわざと、工くんの反応を見るために少し困ったような顔をしてみせた。
「えー。工くん、『察しろ!』って叫んでどこかに行っちゃったから。……私、まだ答え聞いてないんですよ?」
「なっ、……まえ、はら……っ!!」
「えっ、マジかよ工! 言い逃げか!? それは男としてダセーぞ!」
「ダサくないです!! あれは精一杯の……ッ、……察してくださいよ!!」
工くんは必死に瀬見さんに詰め寄るけれど、瀬見さんは「察しろじゃ伝わんねーんだよ!」と笑い飛ばした。
「いいか工。女子にはちゃんと言葉で伝えないとダメなんだ。……ほら、前原ちゃん。こいつ、昨日の夜も『言いすぎたかな……嫌われたかな……』って、部室の隅で小一時間悩んでたんだぜ?」
「瀬見さん!! 余計なことを言わないでください!!」
工くんの叫びが廊下に響き渡る。
私はクスクス笑いながら、工くんの制服の袖をちょんと引いた。
「……ふふ。工くん、そんなに悩んでたの? 可愛いね」
「……っ……、お前……、……うるさい!! 瀬見さんの嘘だ!! 俺は、爆睡してた!!」
「嘘つけ、目が腫れてんぞ」
白布先輩が、後ろから冷ややかに通り過ぎる。
「……前原。こいつ、今日一日使い物にならねーから。……放課後、ちゃんと『答え合わせ』してやってくれ。うるさくてかなわねー」
白布くんのトドメの一言。
工くんはもはや、赤い顔を隠すこともできずに、その場に崩れ落ちた。
「……工くん。放課後、楽しみにしてるね」
「…………っ、……察してくれ……。頼むから、察してくれぇ……」
弱々しく呟くエースの背中。
「クラスメイト」という境界線が、瀬見さんのお節介のおかげで、崩れていくのを感じた