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「チーフ、おはようございます」
会社で部下が挨拶をしてくる。
現在、蔵馬は社会人。
勤務先は義父が社長をしている会社だ。
高校で成績優秀だった彼は、大学進学をせず就職してしまった。勿論、周りの人間は止めたが、数千年生きている彼にとって大学に行くより働くほうに興味をひかれたのだ。
カップにコーヒーを注ぎ、自分のディスクに向かう。今日は午後からある会社に営業に行く予定である。そこを取れたら結構大きな成果になる。
蔵馬は資料を整理した。
今日は快晴、気温は30度ごえ。ノーネクタイOKクールビスの蔵馬の会社だが、今日は他の会社にお邪魔するのでバリバリのスーツ姿にならなくてはいけない。
他の社員から激励をうけ、彼は目的の会社に向かった。
受付嬢に通された応対室で待つこと10分。
その会社の部長がやってきた。お茶はあらかじめ女子社員がだしてくれていた。ちなみに社内で「イケメンが来ている!」と話題になっているのは蔵馬のあずかり知らぬところ・・・。
資料を見ながら部長の対応は、表面上良いとふるまっている。だが、ライバル会社のほうがいい条件を出しているのかもしれないーと蔵馬は直観的にそう思った。
そのとき、香ばしい臭いが漂ってきた。
コンコン
ドアがノックされる。
「どうぞ」と言われて入ってきたのは、小柄で目のくりくりした女の子だった。
「ああ、水瀬くん。いい匂いだな」
「はい、私もつられて買ってしまいました」
と、熱いほうじ茶を出した。
「うん、おいしい」
と、部長。
「では、失礼します」
と、水瀬と呼ばれた女性は部屋を出て行ってしまった。
部長は新しく出されたお茶を一気に飲み干し、「検討してみます」と言って蔵馬を帰す。
(まあ、まだ入る余地はあるってことかな?)
炎天下の中、さっさと自分の会社に戻りネクタイを外す。上司が「どうだった?」と声をかけてくる。蔵馬は「野となれ山となれですかね?」と答えておいた。
帰り道、本を見たくて大きい本屋へ寄ることにした蔵馬。
その時、見覚えのある後ろ姿に気が付いた。
先ほどほうじ茶を出してくれた女性だ。
「こんばんは、先ほどはお茶をどうも」
というと、一瞬誰だか分からない顔をした。少し傷つくーが、「ああ、先ほどのお客さまですね」とぱっと笑顔になる。
「どこかの若社長さんですよね?」
「へ?違うけど。一従業員です。君は秘書?」
「はい、部長付きです」
「ところで、なぜオレが若社長なの?」
「だって、ディラーさんが誂えたスーツですもの」
確かにこれは新入祝いに蔵馬用に誂えたものだった。義父ご用達の店で制作。
「よく分かったね、これは特別なんだ」
「そうなんですか、とてもお似合いですよ」
「どうも」
「それじゃあ」
彼女は一礼して行ってしまう。
蔵馬は彼女ともっと話がしたかった。
「水瀬さん、良かったらちょっとお話いいですか?」
すると彼女はきょとんとしていたが、少しなら・・・とOKしてくれた。
書店の地下にある喫茶店。そこで蔵馬と水瀬は話すことになった。
「今、オレが扱っている商品のライバル会社って教えてもらってもいいもの?」
そう聞くと彼女は、困った顔をした。
「ごめん、気になって」
「私は何も言えませんが、部長とコネクションを持っている会社はあります」
「そうか、そっちのほうか・・・」
「部長はあんまり製品には興味ないと思います。ご自分が使うものでありませんから」
これは見込みがなさそうだ。
蔵馬はちょっとため息をついた。
「・・・私の知人の勤めている会社なら、紹介できますけど」
「え?いいんですか」
「はい、ただ小さい会社ですが」
「いえ、紹介してもらえるだけありがたいです」
「では、名詞をもらえますか?すみません、こちらは名詞がないんですが」
「いえ、結構ですよ。連絡待っています」
水瀬に名詞を渡し、蔵馬は喫茶店を去った。彼女はゆっくりしていきたいということでおいてきてしまったことが心残りではあるが・・・しかたがない。
「だたいま」
「おかえりなさい」
「おかえり」
家で待っていたのは、義父と母だった。
「暑い中、営業お疲れ。どうだった?」
「内々で、決定されていたよ。まぁ大手だからね」
「そっか」
「それはともかくとして、小さな会社は紹介してもらえることになったんだけどね」
「へ~、そんなコネが。凄いじゃないか」
「秀兄ィ、女を誑し込んで教えてもらったんじゃないの?」
いつの間にか帰ってきていた義弟の秀が口をだす。
「う~ん、違うけど・・・そこの会社の秘書をしている女性に聞いたんだ」
「ほら、やっぱり。秀兄ィモテモテだもんね」
「いや、彼女は親切な人で・・・」
と言っても、義弟は信じていないようだった。
「チーフ、お電話です」
次の日内線で”倉田”と名乗る人物が電話をかけてきた。倉田は水瀬から紹介を受けたといい、こちらの都合に合わせてくれるならーという条件で商談の場を開いてくれた。
(水瀬さんに感謝だな)
向かった会社は若い人で構成されている新規の会社で、とにかく質問ぜめにあった。まあ、こちらも色々アピールできて良かったが・・・。
1週間後、契約が成立。
その後もその会社から別の会社へーと噂が広がり、合計3件の契約がとれた。
(これは一度彼女にお礼をしたほうがいいな)
そう考えていると、いきなりのスコール。
「いや~、何?今日は晴れじゃないの?」
「傘持ってきてないよ」
「待てばおさまるかな?」
その時、彼女も困っているだろうーと蔵馬は車で彼女の勤めている会社へ行ってみた。
すると、折り畳みの傘で帰る彼女を発見。
「水瀬さん!」
蔵馬は雨に負けないくらいの大声で叫んだ。
すると彼女にも声が届いたようで、お辞儀をされる。
「乗って」
信号待ちの時に助手席のドアを開けると、困った顔をしていたが、蔵馬は強引に乗せてしまった。
「凄い雨だね」
「はい」
「家まで送っていくよ」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、夕食奢るよ」
「いいえ、結構です」
「この前、紹介してもらったおかげで契約が取れたんだ。この位のお礼はさせてよ」
「それは内容が良かったからで、私のせいじゃないですから」
とかたくなに拒否する。
「あ、もしかして彼氏がいた?」
「え?あ、はい」
「そっか、じゃあここで」
「お気遣いありがとうございます」
彼女がバスに乗るのを見送った後、蔵馬も家に帰ることにした。
「雨凄いわねー」
と母が空を見上げて言った
「帰り傘なくって困った子、沢山いただろうになぁ」
と義父。
被害にあった義弟は今、風呂に入っている。
蔵馬は自室に行った。そして水瀬のことを思い出していた。
彼氏がいても不思議じゃないけど、食事くらいはしたかったな。見つかったらまずいのだが・・・。
しかし、彼女とはこれきり。お終いだ。彼女の会社とは関係が無くなった。
はぁーとため息。
オレは彼女と親密になりたかったのだろうか?中学から高校まで女性にたいして興味は全然湧かなかったのに・・・。
一方、水瀬は昨日の残りのカレーを温めなおしていた。彼女に彼氏がいるというのは嘘で彼女は単に男性不審であった。
だから今日も強引に車に乗せられたとき、思わず叫び出しそうになったほど。
普通にいい人で良かった。と彼女は思っていた。
鏡の前でくくってあった髪の毛を下ろす。
ふと、違う自分になっている気がする。昔から見ていた夢なのだが、自分には兄妹がいて仲良く暮らしていたという記憶がある。
それがおかしなことに、自分は人間ではないのだ。動物の耳もあるし尻尾もある。毛は栗色。瞳は琥珀色だ。
たまにしか帰ってこない兄妹は銀色の髪に金の瞳を持っている。とっても好きだったのにいつのまにか一人になった。
兄妹に結婚相手ができたか、遠くにいってしまったか。それは定かではないが大人になったら一人で生活をしていた。
いや、1度だけ会った。
でも、とても悲しかった記憶がある。
水瀬海は裁縫道具を出して、昨日の続きをはじめた。小さいことろから針仕事が好きで趣味でパッチワークをやっている。
最近は個人でも出品することができ、客のオーダーを受けることもあった。
「付き合ってください」
と、街中で赤いバラの花束を渡されたら、どういった対応をしたらいいのだろう。
見知らぬ男性から突然声をかけられて、海は困惑していた。
「ごめんなさい。これは受け取れません」
「決まった人がいるんですか?」
「・・・はい」
見ると行く人々がこちらを見ている。
「では・・・」
と、言って海は足早にその場を去った。
男が追ってくる気配はない。
まだ心臓がどきどきしている。全然知らない人なのに・・・なんで?海はパニックを起こし、とりあえずコーヒーショップに入った。
カプチーノを頼んで、呼吸をととのえていると、頭の上から声がした。
「水瀬さん」
上をみると、この間会社にきた南野だった。
「あ、南野さん。偶然ですね」
「うん、買い物?」
「はい」
「何買いに来たの?」
ここまで聞かれるとは思わなかったので
「布です」
と正直に答えた。
「へぇ、裁縫好きなんだね。うちの母もこの間パッチワークを買っていたけど」
「そうなんですか?私は作るほうです」
「へぇ、出品とかしているの?」
「たまにですが・・・」
「南野さんも買い物ですか?」
「ああ、母の日のね」
「お母様に?優しいんですね」
「普段親孝行していないからね。良かったら選んでくれる?」
「え?私に・・・ですか?」
「うん、何が欲しいって聞いても答えてくれないからさ」
「あ、そうなんですね」
海は南野の買い物に付き合うことになった。
デパートを見て回るのは久しぶり。
色々見て回ったところで、上品な傘を見つけた。
(あれ、よさそう)
そう思っていると、南野が「あれがいい?」と言ってきた。
「そうですね。上品で素敵だと思います」
「じゃあ、決まりだ。あれにするよ」
「ええ?そんなに簡単に決めていいんですか?」
「いいよ。値段も丁度いいし」
と、意外にすんなり買い物が終了した。
「花の予約もしてくるか」
「あ、カーネーションですか?」
「まぁ色々アレンジメントしてもらおうと思って」と、花屋へ向かう。
ついていった花屋で、海は紅茶色の薔薇をみつけた。名前は”ジュリア”。ちょっと驚いた。元自分と同じ名前があるなんて・・・。
「それが気に入ったの?買ってあげようか?」
と、背後から言われ海はびっくりした。
「いえ、うちに花瓶がないので結構です」
「そう?じゃあ別のものにしよう」
と南野。
「いいです。そんな大層なことをしたわけじゃありませんし」
「彼氏はそんなにやきもちやきなの?」
と、彼氏ネタを振ってきたので「そうなんです」と慌てて言っておいた。
「そっか。じゃあせめて送っていくよ」
「いえ、まだ明るいですし」
「そうだね、今日はありがとう。じゃ」
そう言って南野は行ってしまった。
ジュリア
今日花屋で偶然見かけて、びっくりした
彼女と同じ名前の花があるなんて・・・。
まだ、本格的に盗賊となる前だ。蔵馬は樹利亜を殺した。
家を出てからは、定期的に樹利亜の様子を使い魔に聞いていた。が、あるとき消息不明になってしまい蔵馬自ら探しに行った。
樹利亜はとらえられており、助けに行ったときには手遅れだった。彼女は懐妊していたのである。
勿論、望んだものではなく妖狐の雌からは強い妖怪が生まれるということで、目をつけられ監禁されていた。
彼女は解放されることを望んでいた。
だからー殺した。
もしもーはないが、もしあのまま一緒に暮らしていたらどうなっていただろう?
それはいくら考えても、答えが出なかった。
「水瀬君は結婚を考えていないのかね?」
突然部長にそう言われた海。
「はい・・・特には」
「良かったら誰か紹介しようか?」
「いえ、結構です」
「そう?君ならいい奥さんになれると思うんだけど」
流石の海も察した。
このところの不況で肩たたき~いわゆるリストラが海の勤めている会社でも起きていた
(秘書なんて一番いらないのかもね・・・)
家に帰ってネットで求人を探すもアルバイトばかり・・・。
(せめて大学とか出ていればなぁ)
ーと、落胆するも海は両親を亡くし施設育ちだ。どうせ辞めるなら退職金が出るうちに辞めたほうがいいのかも・・・。
とうとう海は会社を辞めることになった。
部長はしきりにお見合いの話をもってきた。
「本当に、いい話なんだ」
でも、海は結婚は考えていない。
で、とりあえず見つけたのが洋食屋さんのウエイトレスのアルバイト。
とにかく美味しい店ということで、客がひっきりなしに来る。開店前のサラダの盛り付けから閉店まで。
家に帰っても、とにかく寝るだけの毎日。
「いらっしゃいー・・・ませ」
「どうしたの?水瀬さん」
来た客は南野と弟と思われる男の子。
「色々あって今はここで働いているんです。何になさいますか?」
「う~んと、ハヤシライスセットとコーヒー」
「オレ、フライセットとコーラ」
海はメニューをメモすると厨房に飛んで行ってしまう。
客の接待でいっぱいいっぱいの様子で、蔵馬は話しかけるのをやめた。
(お店が終わってからにしよう)
「海ちゃん、今日もご苦労様。気を付けて帰ってね」
「お先に失礼します」
そう言って海はお店を出た。
すると店の外に南野が立っている。
「何か忘れ物ですか?」
「いや、ちょっと話をしようと思って」
「なんでしょうか?」
「前の会社で何かあった?」
「ああ、人為削減対象になりまして」
「そうなんだ。もしよかったらだけど、うちの会社で働かない?」
「え?求人があるんですか?」
「まあ、営業の世話をしてもらったし。恩返し」
「私、高卒ですが・・・パートですか?」
「オレも高卒だけど?」
「ええええ?南野さん、高卒なんですかー?」
「変?」
「変ですよ!」
「そうかなぁ、とりあえず話通すから待っていて」
「え?通すって???」
「まあ、ちょっとね。もう遅いから送るよ」
「いえ、まだバスがあるので」
「そう?気を付けて帰ってね」
「ありがとうございます」
なんだかよくわからないが、ついている。正直立ち仕事は海にはきついのだ。
その日、蔵馬は義父の書斎に行った。
「親父、うちの課で職員を雇いたいんだけど」
「え?そんな話は聞いてないけど。総務は、前から1名欲しがっていたから補充はするけど」
「そうなの?じゃ、もう1人ってのは無理?」
「秀一君のほうは、十分成果を上げているし問題ないと思うけど」
「いや、オレの推薦で入れたい人がいるんだけど」
「う~ん、人事部に相談してみるが・・・」
「よろしく」
そして数日後。
「採用する人が決まったよ」
と義父から報告があった。
「なんて言う人?」
「水瀬海さんって人」
「良かった・・・。実は知り合いなんだ」
「そうだったんだ。いや、いい子そうだったから採用したんだけど、秀一君のお墨付きなら安心だ」
しかし、総務とは・・・。蔵馬は営業なのでどうせなら営業に入れたかったが。まぁ昼には会えるからいいかーなどとのんきに考えていた。
ーが、昼になっても食堂に海はこない。やっと来たと思ったら総務のチーフも一緒だ。
「あ、あの子ですね。新人の子」
「可愛いですよねー、彼氏とかいるのかな?」
ーと、蔵馬のいる営業でも早くも注目の的だ。
「彼氏はいるらしいよ」
「え?なんで南野チーフが知っているんですか?」
「彼女が勤めていた会社に営業に行ったことあるから」
「へ~、残念」
と、男性社員はこぼしている。
「海ちゃんは仕事覚えるの早いね。助かるよ」
と言っているのは、総務の多田チーフ(独身)だ。
(ここじゃ話せないな・・・)
そう思った蔵馬は夜に電話することにした。
呼び出し音が数回鳴って、海が出た。
「南野さん?どうかしましたか?」
「今日どうだった?何か問題とかは?」
「全然ないですよ?皆さん優しくて働きやすそうです」
「そう、良かった」
「今度良かったら、お食事でも奢らせてください。色々お世話になりっぱなしで心苦しいので」
「それじゃあ、ご馳走になります」
「良かった。好きな店選んでおいてくださいね」
「了解。じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
食事か・・・どこに行こう?
フレンチ、イタリアン、和食、中華・・・やっぱり普通にフレンチにしておこう。日にちはー
指定したレストランと日にちをメールすると、了解の返事が届いた。
「お疲れ様です」
「お疲れ。仕事帰りなのにごめんね」
「いえ、気にしないでください」
予約したのは、フレンチレストランの窓側
席に案内するサービスマン。
「ワインリストになります」
蔵馬が眺めて、「ボトルでいける?」と聞いてきた。
「すみません、私あんまり飲まないのでお一人でお願いします」
「じゃあ、シャンパンでいい?」
「はい」
蔵馬がシャンパンを注文すると、すぐにグラスとシャンパンを持ってサーヴィスマンがやってくる。
シュワシュワと小さな音をたて、グラスにシャンパンが注がれた。
「はい、乾杯」
「あ、はい」
蔵馬はシャンパンを半分飲んで言った。
「水瀬さん、彼氏いるのって嘘だったんだ」
「え?・・・いますよ。何でですか?」
「だって今日は君の誕生日でしょ?普通、彼氏がいたら祝ってくれるよね?」
「・・・いえ、祝ってくれるような人じゃないんです。無口で何考えているか分かんです」
これはもろ、海の中に出てくる蔵馬の感想だ。
「ふ~ん」
と、意味ありげに蔵馬は微笑んだ。
と、同時にアミューズが運ばれてきて会話はいったん中断した。
「で、何やっている人?」
と突っ込む蔵馬。
「普通にサラリーマンしています」
「普段、どんなデートしているの?」
「家でごろごろしていますよ。あとは特になんも」
「退屈じゃない?」
「いえ、別に」
ここまで話してみて嘘っぽさがないなーと蔵馬は考えていた。でも、誕生日も祝うことないなんてありえないだろう・・・。
一方、海のほうはもくもくと食べている。
それを見ているとなんとなく面白くない。デザートの代わりにバースディケーキと薔薇を出してもらう。
「すみません、ケーキまで・・・。これジュリアですよね」
「うん、好きなの?」
「薔薇はそんなに好きではないんですが、最近この紅茶色の薔薇を知って好きになりました」
「それは良かった。じゃあ出ようか?」
とフレンチレストランの会計を蔵馬がして、慌てる海をバーに連れて行った。
海の頼んだのはいちごのマティーニ―。蔵馬は日本のウイスキー。
「彼氏のどんなところが好きなの?」
と、再び蔵馬の尋問が始まる。
「ん~小さい時から一緒だったから。どこといわれても」
「それは単なる幼馴染じゃない?」
「そう・・・なのかな?」
「むこうはそう考えているのかもよ?」
「・・・南野さんって結構意地悪ですね」
「うん、まあね。できれば別れればいいって思っているし」
「酷いなぁ、別れる気なんて全然ないもの」
(酔ってきちゃったかな?そろそろ送ってこうか)
「もう、帰ろうか。送っていくよ」
タクシーを呼んで、海の家まで行く。
ドアの前で、蔵馬は海にキスをした。
「・・・苦い~」
「ごめん」
「もう寝る」
海はそのまま家の中へ。
(海、今の彼氏と間違えてたな)
と思うと同時に、がっかりきた。
彼氏ともああいうキスをしているかと思うと、府に落ちない。誕生日も祝わない男のどこがいいのだろう?
次の日、海はけろっとした顔で出社していた。やはり酔っていたらしい。キスされたことなどすっかり忘れている。
まあこの時点では、忘れてくれた方が良かったのか、悪かったのかは分からないが・・・。
「ねぇ、今年のケーキ。2個頼んでもいい?」
元気よく言ったのは義弟の秀一だ
「食べれるならいいわよ」
「本当?これとこれがいいんだ」
と、見せられたのは有名パティシエが作るクリスマスケーキだった。
コンビニのクリスマスケーキよりもゼロの桁が一つ多い。
その光景を見ていて、海と彼氏はクリスマスは一緒に過ごすのだろうなと思った。
クリスマスがきたら、すぐに正月。会社も休みに入る。あれから社内で会ったら挨拶はするものの、食事の誘いはさりげなく断られ次る。
(思い切って、家に行こうかな?でも彼氏がいたらー)
蔵馬も流石に盛り上がっているところを見たいわけではない。だが、もしクリスマスも祝ってくれないような男だったら・・・そう考えるとデパートでケーキの予約とシャンパンを買ってしまう。
そして24日。
海はいつも通り退社していった。
「南野チーフはこれから彼女とクリスマスですかー?」
なんて聞いてくるやつもいる。
花屋で薔薇を・・・と思ったが、薔薇は嫌いとのことだったのでカサブランカにした。
海の部屋に行ってみると、明かりはついていてもテレビの音しか聞こえない。
思い切ってチャイムを押した。
ピンポーン
「はーい」
ひょこっと海が顔を出す。
「え?南野さん?どーしたんですが!」
「お祝いに来ただけだよ。メリークリスマス」
「イブですよ。今日」
「じゃあ、イブってことで」
「お夕食食べました?」
「いや、これから。これ差し入れのケーキとシャンパン」
「すみません。親子丼で良かったら作りますけど」
「うん、食べたい」
そう言うと、海はエプロンをつけ玉ねぎを切り始めた。
流石親子丼だけあって、10分後には出来上がる。
「はい、お口に合うか分かりませんが」
とお茶と親子丼が目の前に置かれた。
「いただきます」
卵がとろとろの親子丼は美味しかった。こっちをじっと見ている海がいて、なんだかおかしい。
「ケーキ食べないの?」
「あ、いただきます」
と、一口食べて満足そうに微笑んだ海。
その様子を見ると、手を出したくなって困る。蔵馬がよからぬことを考えながらシャンパンを開けた。
「コップでごめんなさい」
「いいよ、飲めれば別に」
そう言いながら、2人でシャンパンを飲んだ。
「今日は彼氏、来ないの?」
突然、そう聞かれた海はちょっと慌てて「遅くなると思う」と言った。
「じゃあ、彼氏が来るまでここにいるかな?」
「え?それはちょっと。困ります」
「困らないでしょ、来たら帰るって言っているんだから」
「いえ、南野さんの家の人も心配するだろうし」
「オレをいくつだと思っているの?」
余裕の表情を見せる蔵馬に、ついには海も折れた。
「南野さん、今日は彼氏来れないんです。お願いだから帰ってください」
「最初っからそういえばいいのに」
「ごめんなさい」
「意地悪だな、海は」
そう言って蔵馬は海を抱きしめた。
蔵馬に抱きしめられた海は、どうしていいのか分からず硬直。
そのすきに、蔵馬は海の髪の毛をほどいてしまった。結構長い海の髪の毛。それが樹利亜を思わせた。
樹利亜の弱いところ、耳をあまがみすると「辞めて~」と言ってくる。それでもしつこく責め立てると
「こそばいよ、蔵馬」
(え?)
一瞬、固まる蔵馬。
(オレ、自分の名前言ってないよな?)
海のほうを見ると、真っ赤になって顔を背けている。
「樹利亜・・・なのか?」
「南野さん?」
「オレの本名は蔵馬っていうんだけど」
「? 南野秀一・・・ですよね?」
「南野秀一は人間界での名前で、本当は蔵馬。事情があってこの体に憑依しているんだ」
「え?」
理解できていない海にキスをする。
「本当に・・・蔵馬?」
「ああ」
そのまま押し倒そうとしたが、海が「蔵馬、帰ってこないから心配したんだよ」と言って抱き着いてきたとき、手を止めた。
もしかして・・・出て行った原因の記憶がない?
もしそうならば、抱くことはできない。
それに、死んだときの記憶も。
特に、死んだときの記憶は思い出させたくなかった。でも、一つ言っておくことがある。それはー
「海、オレと付き合って」
「私達兄妹だよ?」
「今は違うでしょ?」
「そうだけど」
「オレじゃ嫌?」
「嫌じゃないけど・・・お付き合いしている人いないの?」
「残念ながらいない。あのときは一緒に居られなかったけど、今度こそは一緒にいたい」
「うん、私もずっと一緒にいたい」
その日、2人は抱き合って眠った。
翌日、帰った蔵馬に食いついてきたのは義弟の秀一。
「秀兄ィ、朝帰り!?ついに彼女できたんだ!」
「秀が思っているようなことじゃないよ。着替えに帰っただけだから、朝食気にしないで」
母は
「気にしないでって言われても・・・あ!お弁当は持っていくんでしょ?」
「うん、ありがとう」
「運転・・・気を付けて」
義父がよくわからないことを言った。
「分かっているよ」
蔵馬が家を出て行ったあと、3人は顔を見合わせた。
休み時間、海が携帯をチェックすると
”今日、行きたいところある?”
とメールが入っていた
”イルミネーションが見たい”
と返信すると即
”了解”
との返事。
「水瀬さん、彼氏でもできた?」
そう聞かれ
「はい」
と、答えると「え?そうなんだ」と落胆の多田チーフ。
それを聞いていた蔵馬も、嬉しさを隠しきれなかった。
イルミネーションを見た後は、海の家に行って食事。そして蔵馬は現在の魔界のことを話し始めた。
友人ができたこと、人間の母親を尊敬していること、魔界が平和になったこと。
聞いている海は目を丸めていた。
「海、仕事が終わったら3日までここで暮らしていい?」
「いいよ。けど家族はどうするの?」
「いいよ。子離れもできているし、両親も新婚気分のままだしね」
「弟さんは?」
「宿題を手伝わされないから、楽」
「じゃあ、了解とったら一緒にいよう」
海がオレの首元に頭を寄せて言った。
「年末年始、オレ彼女のところに行ってくるから」
と、蔵馬が言うと義父、母、義弟は固まった。
「ちゃ・・・ちゃんとあちらのご両親には挨拶しているのよね?」
と言ったのは母。
「し・・・失礼のないようにな」
と言ったのは義父。
「えー。誰が宿題やるのさ!」
と言ったのは義弟。
「彼女の両親は早くに亡くなっているから。あと心配するようなことは何もないから大丈夫」
そう言い残して、蔵馬は海のアパートに向かった。
「おせちちょっとだけど、作ってみたの」
部屋に行ったらいい香りがする。
「面倒なことはしなくても良かったのに」
そう言って蔵馬はコートを脱いだ。
「これからしばらくは一緒だね」
「そうだね」
そうして2人はのんびり過ごした。
新年までのカウントダウンが済んだとき、蔵馬は指輪を取り出した。かつて夜店で買った指輪だ。
それを見た海は驚いていた。
「蔵馬が持っていたの?」
「うん。海、オレと結婚してください」
「え?結婚?」
「そう。これはエンゲージリングがわり」
「・・・」
「嫌?」
「そうじゃなくて、想像できないなぁって」
「じゃあ、想像できるようになるまで婚約ってことで受け取って」
「うん」
海は笑顔で指輪を受け取った。
1月3日。
実家に帰ってきた蔵馬は家族の異様な雰囲気を感じ取っていた。
両親とも何か言いたげだが、言いだせずにいるみたいだし、秀一なんかは蔵馬が一人になるのを待ち構えている。
なんとなく想像はできたが、残念なことに想像とおりではない。海にとっては今の状態はただのじゃれあいにすぎず、蔵馬にとっては一体いつ次のステップに進めばいいのか悩んでいるのである。
もういっそのこと結婚してしまおうか?と考えもするが、果たして海が理解してくれるのかはまた別の話で・・・。
「え?魔界に行く?」
「まあ、月に一度は元の姿に戻りやすいんで行っているんだけど」
「ええ!私も行ってみたい」
(そうくると思った)
「無理だよ、海の体は人間なんだから。行ったらあの世行きになるじゃないか」
「そうなの?ならこっちで待っている」
「なにかお土産に持ってきて欲しいものはある?」
そう聞かれて海は考え込んだ。
樹利亜の時だったら、”蔵馬”と答えてたが、それ以外となるとー
「ヤマモモ」
「ヤマモモ?それでいいの?」
「うん、大好きだったの」
「ふーん、ヤマモモ・・ヤマモモ」
「ある場所分かる?」
「まあ、大体」
そう言って、蔵馬は魔界へと向かった。着くと同時に髪がもとの銀髪にもどり思考も変わってくる。
「おう、蔵馬。来てたのか」
ニコニコしながら話しかけてくるのは、同じく人間界に住んでいる幽助だ。
彼は変わった経歴の持ち主。元人間で、一回死んで霊界探偵となり、また死んで魔族として生まれ変わった。
無類の喧嘩好きで、彼の友人は多い。
「ああ、久々に手合わせしないか?」
今の蔵馬の中は戦いたい衝動がおさえきれない。不思議と人間界にいるときにはそんなことはないのだが・・・。
一息ついた後、蔵馬は幽助に海のことを打ち明けた。
「へぇ。お前の女って、言われてみると意外だな」
「そうか?」
「なんか何人もいたーという気はするけど、今いるっていうのはな。おふくろさんに紹介したか?」
「いや、なかなか紹介する機会がなくてな」
「じゃ、今度オレんとここいよ。桑原とか呼んで騒ごうぜ」
「ああ」
ちなみに”桑原”だけは人間だ。今は妖怪である雪菜という氷女と暮らしている。
そして、その双子の兄。飛影。彼と会うことは滅多になくなった(というより、昔もだが)多分、2人を見守りーいや、監視しながら魔界で生活している。
「え?妖怪の友達が人間界にいる?」
「ああ、オレが高校時代に知り合ったんけど今はラーメン屋をやっているんだ」
「ええ~。蔵馬の友達って楽しそうな人だね。会ってみたいな」
「そう言うと思った。これから会いにいかない?」
海は行く!と即答。
会社帰りに行くと、それなりに席が埋まっていた
「おーい。こっちだ。こっち」
簡易テーブルに座っている桑原がこっちを向いて手を振っている。
「桑原君、久しぶりだね」
「おう!こちらが蔵馬の彼女?」
「水瀬海と申します」
「海さんか~。こっちは雪菜さん」
「初めまして」
「初めまして。氷女さんなんですって。やっぱり夏は苦手なんですか?」
「いえ。そんなことはありません。海さんは妖狐さんなんでしょ?やっぱり化けれるんでしょうか?」
お互い絵本の中しか知らないーといった感じである。
ついでに雪菜が捕らえられた話になると、「刑務所からでてこなければいいですね」とすっかり人間の世界と魔界の生活がごっちゃになった発言をしていた。
しかも途中で幽助の彼女で幼馴染の”瑩子”が出てくると、話は暗黒武術大会になり「お母さん、そんなにうち開けて心配しなかった?ケガしなかった?」と蔵馬に質問。
流石に、いや。そういうレベルではーと誰もが突っ込みそうになっていた。
そして客がいなくなってから幽助が加わり、海から質問攻めにあった。
「人間のお父さんとお母さんがいて、魔族のお父さんと人間のお母さんがいるんですか?私から見れば、魔族のクオーターって感じですが妖怪なんですよね?」
「あー、そうか?オレもよく分かんねーんだわ」
「お母さん、妖怪になったって言ったらびっくりしませんでした?」
「うちのおふくろそんなこと気にしないから」
「そうなんですかー。私だったらびっくりします」
「でも、おめーらの場合も結婚したら子供は妖怪なんじゃないか?」
「え?」
海は蔵馬のほうをみて「そうなの?」と聞いた
「まあ、その話はおいておいて・・・幽助のラーメンおいしいだろ?」
「とても!」
「そりゃ~良かった」
「でも、考えたら魔界っていろんな人がいたのよね~。私、ずっと村からでないで暮らしていたから雷禅さんとか躯さんとか黄泉さんって知りませんでした。
でも、一番びっくりしたのが黄泉さんと蔵馬が幼馴染ってことですけどね」
と、海が笑ったので蔵馬は複雑な気持ちになっていた。
会社での昼休み。
海は職場の先輩にこう聞かれた。
「海ちゃんの彼氏ってどんな人?」
はて?
海は考え込んでしまった
元は2人とも妖怪で、兄妹で、今は私は人間で、彼は元のままで。
でも人間として生活していて自分と同じ会社に勤めていて・・・
「ごめん、なんか悩ますような質問だった?」
「すみません、情報過多で一言では」
「海ちゃんが好きなら、それでいいのよ」
その先輩はそう言ってくれた。
それを聞いた海は、いいんだろうか?と考え込んでしまう。
蔵馬は優しいー。うん、それはそう。
でも意地悪なときもある。例えばくすぐるのをやめてくれないときとか・・・。キス魔とか。
でも変わったと思うときもある。昔は口数が少なかったのに、今はおしゃべりだ。
ネアカになった???
それに私が人間ということは、昔の私はもう死んでいるってことで、どうして死んだのかーとか、その時蔵馬は傍にいたのかーとか・・・
「海、お帰り」
会社の近くで蔵馬が車に乗って待っていた。
「・・・ただいま」
「どうしたの?なにかあった?」
「うん、あのね。私ってどうして死んだの?」
突然投下された爆弾発言に蔵馬は黙った。
「なんでそんなこと聞くの?」
「なんか不思議に思っちゃって。蔵馬はその時どこにいたの?」
「・・・傍にいたよ」
「そうなの?」
「ああ」
「じゃあ、幸せだったのね。滅多に帰ってこなかった蔵馬が帰ってきていたんだから」
そう言うと、蔵馬が海の頭を撫でた。
「今度、旅行に行かないか?」
「旅行?どこに?」
「どこでもいいから、海の好きなところ」
「私はドライブで十分だよ?」
「じゃあ景色のいい温泉とか」
「温泉。なんか田舎の秘境みたいなところがあったらいいね。昔、入っていたあそこみたいな」
「そう?じゃあ調べておく。連休にでも行こうよ」
「うん」
そんな会話をして、蔵馬は海を家まで送ってくれた。
鏡の中に映っている自分。それは自分であって自分じゃなかった。これは・・・樹利亜だなと分かるのに少し時間がかかる。
腰まで伸びた栗毛としっぽ。指には蔵馬に買ってもらった指輪がある。
家の中は相変わらず、樹利亜しかいなくて静かだった。鏡の中の樹利亜は16歳ほどに見える。
海は目が開いても、暫くぼんやりしていた。私何するんだっけ?ゆっくり起き上がって部屋をみて、びっくりした。
(私の部屋だよね??)
起きて水を飲む。今日は土曜日。会社は休みで蔵馬が遊びにくることになっていて・・・。
体が嫌に重い。もしかして熱でもあるんじゃ?と思って測ったら9度を超えていた。これはマズイ。海は携帯を取り出して蔵馬に予定のキャンセルメールを送った。
”都合が悪くなりましたので、今日はキャンセルさせてください”
そのメールを見たとき、蔵馬は不審に思った。電話をかけてみるもでない。都合といっても思い当たる節もなし。なのでその足で海の家へ向かった。
チャイムを押しても、応答なし。でも中からはいる気配がする。蔵馬は合鍵を使って入った。
1DKの部屋で海は倒れていた。
「海!」
抱き上げると、凄い熱。
(とりあえず、解熱剤・・・あったかな?)
と、薬箱を探る。
薬はあったので、とりあえず粉にして飲ませてみたが、2時間たっても効果がでない。
(原因は分からないが、とりあえず魔界の薬草を飲ませるしかないな)
そう思った蔵馬はいったん家に引き返していった。効きそうなものを手あたり次第持ってきて、得意の薬を作る。飲ませて何とか7℃台に落ち着いた。
「蔵馬?」
「海、大丈夫か?」
「うん、約束キャンセルしてごめんね」
「それはいいから、ゆっくり休んで。何か食べれる?」
「今はいい」
と、言って再び眠ってしまう。
そして夕方になっても、熱は下がる様子はなかった。家に事情を話し、海の家に泊まり込むことに。
熱が引いたのは、翌日の夕方だった。
「明日は会社、休んだ方がいい。オレは退社と同時にこっちに帰ってくるから」
と、蔵馬は言うが海のほうは何ともないのだ。
「大丈夫、もう下がったんだし」
「そうだ、オレの部屋で休めばいい。母さんもいるし」
「いえ!そこまでお世話になるわけにはっ」
と、引く海だったが言いだしたら聞かない蔵馬は結局、畑中家に連れてきてしまった。
おかげで海は蔵馬の部屋にいる。
(本が沢山・・・。蔵馬、相変わらず仕事熱心なんだ)
と、ぼんやり考えていたら部屋がノックされた。
はい、どうぞーというのも妙だが、海はそういうしかない。すると蔵馬の母親が生姜湯を持ってやってきた。
「具合はどう?」
「大丈夫です。熱が出たのは昨日ですし・・・」
「でも、ぶりかえしたら困るわよ?昼ごはん、なにか食べたいものある?」
「いえ、なんでもいいです。すみません、すっかりお世話になっちゃって」
海は今更ながら、そう言った。
「いいのよ、おかげで秀一の彼女を見ることができたんだから」
ふふっと笑う彼女を見て。
(ああ、この人にとっては秀一なんだな)
と、改めて思った。
そして実はお義父さんが自分の勤める会社の社長ということもびっくりした。
今まで苗字が違っていたので疑いもしなかったのである。