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同じ日の午前8:00頃、神奈川県横須賀市 横須賀中央駅裏手の教会で、ある集会が開かれていた。聖堂奥の正面の十字架と、祭壇に飾られた香炉。
そこから香る桜の花の煙が、朝日を浴びながらゆらゆらと天に昇っている。
壁際の年代モノのオルガン。
聖母マリア像。
会衆椅子には大勢の人々が座っていた。
神父の姿はなく、聖堂をゆっくりと歩くスーツ姿の男は、黒縁の眼鏡をかけ、身体つきは頼もしく自信に満ち溢れた表情で、
「ここにいる皆さんは、きっと選ばれた人間なんです。偶然なんかではない。必然です」
と、笑った。
長髪の赤毛を後ろで結わえ、褐色を帯びた肌とグリーンの瞳の色はどこか謎めいて、エキゾチックな印象を相手に与えるには充分だった。
それこそが、男の武器なのだ。
上念 フィッツジェラルド海斗は、会衆ひとりひとりに語りかけるように、優しく丁寧な口調で話を進めた。
鷹野佑宝は、その語り口調に頷きながら聞き入って、式根島から着いたばかりの栗原ケイも、感心しながら耳を傾けていた。
元中学教諭の甲本は、不動産業を営む小島と何やら会話をし、時折メモをとりながら険しい顔をした。
上念の声は響き渡る。
「私達は間違っていたのかも知れない。ヒトは常に傲慢でありながら、そのくせ非力ではないでしょうか…深く深く、思い知らされました…」
上念は涙声で続けた。
「東京ジェノサイドは試練でした。私は…いえ、私も…ここに居る皆さんもそうでしょう。愛する者を救えないまま生きている。生かされているとは言えません…その言葉が罪に感じてしまうからです。しかし、私は信じているんです。そんな罪深い人間は、罪深い人間だからこそ、未来を!この国を変えられるんだって!」
鷹野の目からも、涙が零れ落ちた。
東京テロで救いきれなかった、名も知らない人々の事を思い返していた。