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星崎視点
「あ⋯で、
⋯⋯⋯⋯か?」
声が緊張で震えて途切れ途切れにしか発音できず、
大森さんに後でいいですか?と聞き返したことも、
おそらくきちんとは伝わっていないだろう。
彼の口からなんと返ってくるのかが予測できず、
僕を呼びにきたスタッフと共に、
聞くのが怖くて返事を待たずに楽屋を出た。
どう見ても不自然な応対の仕方だ。
不愉快な思いをさせてしまっただろうか?
ただでさえ態度が悪いのに、
これ以上は嫌われたくない。
だがそうやって焦れば焦るほどにどつぼで、
どんどんまともな対応ができないのも事実だった。
「今日もお願いします」
コミュ障の僕に合わせて、
スタッフは少数鋭で顔見知りしかいない状態で、
いつも通り撮影が始まった。
ただ一つの違和感を除いてはーーー
「初めまして、
一緒に良いもの作りましょうね!」
この人は誰だ?
新人なのだろうか。
頼りなさげな女性スタッフは、
僕へと気軽に話しかけてくるが、
どうにもこういう馴れ馴れしいタイプはどうにも苦手だ。
それが顔に出ていたのか、
僕が無言でいたからか、
申し訳なさそうにスッと距離を置かれた。
ほら、
やっぱり。
僕の全部どころか一部しか知らなくても、
こうして人は離れていくんだ。
それなら最初から近づいてほしくない。
「うん、
こちらこそよろしくね。
じゃあ早速TASUKU君は、
そこのセットでポージングお願いできるかな?」
「はい」
スタッフの指示に従いながら、
イメトレしてきた成果を見せるために、
ポージングを決めていく。
その度に視線や顔の角度などの指示が飛び交い、
その全てを完璧にこなす。
求められている自分を引き出すために。
本当の自分を隠すように偽ってーーー
撮影した画像を確認しているカメラマンに、
僕が仕上がり具合を聞く前に、
新人スタッフが声をかけてきた。
「あの、
休憩⋯」
「後にして」
相手に手のひらを見せて制した上で、
それ以上に食い下がられないよう、
ピシャリと言い放ったことで、
何も言い返してこなかった。
食い下がられると面倒なので、
ホッとして軽くため息をついた。
その後カメラマンと撮り直しが必要なものがないか、
二人で画像チェックしている間も彼女はずっと脇に控えていた。
ダメ出しを受けたのは全体のうち三枚だけだ。
すぐ終わりそうなので撮り終わってから休憩することにして、
再びポージングをする。
「うん、
良い感じだよ。
お疲れ様!」
「お疲れ様です」
休憩のためスタジオから出ようとした時、
また呼び止められた。
「ちゃんと休憩して下さい」
彼女の手にはタオルとミネラルウォーターがあった。
運動部のマネージャーかよと言うツッコミは、
心の中だけに留めて受け取ろうとした瞬間だった。
よく見るとペットボトルの表面には水滴がついていた。
職業柄僕は急激に冷たいものや極端に熱いものは喉に負担がかかるため、
コンディション維持のために飲み物は全て常温でしか頼んでいなかったはずだ。
「え、
これしか⋯ないの?」
「ごめん、
TASUKU君!
こっちだよね?」
僕が思わず固まっていると、
それに気付いた顔馴染みのスタッフが、
常温の水を渡してくれた。
「ありがとう」
それを受け取ってスタジオを出た。
その後ろから、
僕が常温の飲み物しか口にしないことを新人に説明でもしているのか、
注意を受けている様子が聞こえてきた。
そういえばと次の予定をスマホで確認してみた。
こことは違う現場で歌番組の収録が入っており、
今いるスタジオから近いため、
三十分程度の空きがありそうだった。
(ちょっと一人になって落ち着きたいな)
僕が何気なく廊下に出たその瞬間だった。
「ちょっと!
まだtwins⭐︎devilは到着してないの!?」
「すいません。
渋滞に巻き込まれているみたいで⋯」
「ーーーの機材はどこだ!」
「それなら確かーーー」
一斉に流れ込んでくる騒音、
駆け抜ける複数人に足音、
ビュンビュンと無数に飛び交う慌ただしいスタッフの怒号、
それらが鼓膜へと直に突き刺さるように耳の奥が痛む。
キーンと甲高い耳鳴りだけではなく、
吐き気にまで襲われた僕は、
すぐにその場から離れるために、
両耳を押さえたまま非常階段に移動した。
どうやら最近は落ち着いていたはずの聴覚過敏が、
またぶり返したようだ。
まるで人の声がマイクやスピーカーを通したように、
けたたましく聞こえてしまい不快感でたまらなかった。
一度楽屋へと戻るとアコギの入った、
ギターケースを背負い、
ある目的の場所へと移動した。
「よし」
僕はひとまずギターケースを自分のそばで下ろした後、
非常階段の踊り場に、
ゆっくりと腰をおろした。
誰も入らないため静かで、
地下室みたいな独特の薄暗さは少し怖いが、
一人で落ち着くのにはちょうど良い場所だった。
床からせり上がってくる冷気は、
頭をスッキリさせてくれる効果が十分にあった。
左耳を床にくっつけるように体を横たえると、
先ほどの雑音が全て消えていきそうな感覚に陥る。
まるで何かに呑まれそうな気さえした。
不思議とその感覚に恐怖心はなかった。
おまけコーナー
雫騎の叫び
俺もTASUKUと同じ聴覚過敏持ちですが、
俺の場合は多少の耳鳴りと耳の奥の痛みくらいで、
比較的には軽めです。
それに対してTASUKUは中度くらいの設定で書いています。
ただ自分が軽いだけに、
聴覚過敏が重めの人の感覚が分かりません。
こんな言い回しでちゃんと正確なのか、
表現が迷子中です。
読者様で重めの方がいればこんなんじゃねーよ!でも、
どんな意見でも参考にしたいので、
コメント欄で教えて下さい。