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あれから何年経っただろうか。滅茶苦茶に破壊された町は少しずつだが以前の姿を取り戻しつつある。
そして、娘もあの時から立派に成長し私と肩を並べるくらい大きくなっている。
大きくなった娘を見ていると小さかった頃を思い出す。あの時は幸せだった。
本人に話せば、「小さかった頃の話でしょ」と少し照れながら返すだろう。
いつか、そんな会話をする日が来るだろうか。
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真っ白な雪が降り積もり、雪かきに追われる日々。雪原と化した庭を楽しそうに駆け回る娘。
見ているだけで微笑ましくなる。大変な雪かきを娘を見ていると元気をもらえた。
雪かきの一区切りがついた頃、暖かい風が肌に当たった。季節外れの風だった。
でも、春の訪れを感じた瞬間でもあった。
懐かしい記憶だ。
冬が過ぎ、春になった。春風が娘と私を優しく包み込むように吹いている。
近くの公園に行き、娘の遊びに付き合った。蟻を見て、「頑張れ」とエールを送っている娘の姿。
自分も昔はしたなと懐かしい気持ちになった。
娘がどこかからか持ってきた植物の種を植えた。
いつか花が咲いたらいいねと笑いあった。
これも懐かしい記憶だ。
気が付けばあの時の情景は消え去り、復興中の町を歩く成長した娘の姿が見える。
手元には花束が握られている。大切そうに抱えている。
昔、よく行った公園を通りかかった。娘は公園をちらっと見るだけだった。
私は歩みを止め、公園のほうを向いた。
公園には一輪の花が咲いていた。この花を見る人がどれだけいるだろうか。
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迫りくるうねりから必死に逃げている。
娘を抱え、高台まで全力で走っている自分の姿が見える。
私にとっての宝をこんなところで失うわけにはいかなかった。
妻を早くに亡くし、傍にいたのは私だけだった。
娘には幸せになってもらいたかった。
私の願いは叶っているだろうか。
娘はその後、親戚の家に預けられた。
ずっと傍にいてやれなかったこと、それだけが後悔だ。
でも、娘は慣れない環境の中で必死に頑張っていた。
私は娘を見届けることしか出来なかった。
――――――――
「お父さん、私17歳になったよ」
娘が向かっていたのは私の墓だった。墓標には私と妻の名前が書かれている。抱えていた花束をそっと供え、手を合わせた。
あの時から10年が経ち、娘は見違えるほど大きくなった。
父として誇らしくもあるが、私の知っていた娘では無くなっていくような気がして寂しかった。
「色々大変なこともあるけど、私は頑張ってるよ」
「お父さんはあの世でお母さんと仲良く暮らしてる?」
「私もいつかはそっちに行くことにはなるけど、まだ行く気は無いから。いつか会ったら楽しく話そうね」
そう言った娘の顔は穏やかだった。私も今こっちに来られたら困る。
娘がどんな人生を歩むのか、しっかりと見届けたい。
「じゃあね。また来るから」
娘はそう言うと同じ制服を着た男子の元へ向かっていった。
二人の頭上には大きな桜が咲き誇っていた。
いつかは幸せになる君へ。
敬具