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分駐所の明かりはほとんど落ちていて、パソコンの液晶の青白い光だけが室内を照らしていた。
志摩が椅子に腰かけたまま黙々とキーボードを叩いている。その横顔をぼんやり眺めながら、私は小さな欠伸をこぼす。
「○○さんを追うものはここには来ない。安心して寝て。」
視線を外さないまま、志摩は静かにそう言った。
その声に背中を押されるようにソファへ横になると、あっという間に意識が沈んでいった。
けれど眠りは穏やかじゃなかった。
――あの事件。押し込められた恐怖。胸がきゅっと締め付けられ、夢の中で叫び声をあげた。
「やだっ…怖い、…っ、もう…やだ…!」
がばっと飛び起きる。汗ばんだ髪が肌に張りついて、息が荒い。
辺りを見回すが、志摩の姿はそこになかった。
代わりに冷蔵庫の前で濡れた髪をタオルで拭きながら、シャツも着ずに牛乳パックを漁っている伊吹がいた。
どうやら分駐所のシャワールームで汗を流していたようだ。
「あれ、起きちゃった?…って、大丈夫?!」
慌ててパタパタとタオルを置き、シャツに腕を通しながら駆け寄ってくる。
「伊吹、っさ…怖い…も、やだ…」
声が震えてしまい、涙が零れそうになる。
「…そっか。」
伊吹は私の肩に手を置き、息が整うのをじっと待ってくれた。
しばらくして胸のざわめきが収まると、私は再びソファに身を横たえた。
それを背中に、床へドサリと腰を下ろす気配。
見下ろすと、伊吹がソファに背を預けて座り込んでいる。
濡れた髪から滴る雫をタオルで拭いながら、にかっと笑った。
「○○ちゃん(くん)を守る番犬はここにいるから安心して寝て。」
その一言に、不思議なほど胸の力が抜けていった。
瞼が重くなり、彼の温もりを近くに感じながら眠りに沈んでいく。
――そして朝。
差し込む柔らかな日差しで目を覚ますと、ソファの横には二人分の寝息。
伊吹が無防備に頭を垂れ、その肩にもたれかかるように志摩が眠っていた。
私一人を守るはずの“番犬”は、気づけば相棒と寄り添いながら眠っていたのだった。