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ぺぽ゜
11
138
けー
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ビビリ柳どりゃあと妖魔の策略の話。
「コザカシーがいて…。近くに住んでいる私の家にも時々来るんです…。」
そんな依頼者のひと言から、任務できた廃病院。山奥にあり、「いかにも」な雰囲気を醸し出している。
入口はボロボロすぎて入れそうにないので、仕方なく屋上から入ると、何とも言えないどんよりとした空気に包まれた。
伊波作の懐中電灯をつけて、夜の病院をずかずかと進んでいく。
叢雲「コザカシーも小賢しいよなぁ。こんないかにもって所で人脅かしとるなんて。」
伊波「くだらねぇよな〜。」
星導「うん。」
しばらくそんなくだらない話をしていると、星導があっと思い出したかのようにくるりと後ろを振り返った。
小柳の気配が0に近かったのだ。
星導「あれ。小柳君、一言も発してないけど。」
それに気付いたカゲツも声をかける。
叢雲「狼、大丈夫か?」
小柳「…別に?余裕余裕。」
ビクリと反応した彼。腰の刀に手を当て、震えた声で強がる。誰が見ても分かる、明らかビビってる小柳に呆れる3人。
伊波「ふーん。」
歩くたびカツカツ靴がなって、それが廊下に反響する。風が軽く吹くと、窓がガタガタと音を立て、ドアもキイキイ揺れる。
小柳「ひ……ぅお…。うあ!?…ぅう…。」
物音が鳴るたびに刀を構えガタガタしている小柳に再度呆れる3人。せめてもの優しさで小柳を真ん中にして、また歩き出す。
途端、ビュウッと強い風が吹いて、病院に飾られてた壺がガシャン、と大きな音を立てて割れた。破片が辺りに大きく散らばり、いくつか足元に当たったりもした。
小柳「うわ”ぁ”!?…もぉやだぁ……。」
大きな音にブルブルと震え、遂にはうずくまる小柳に、流石に呆れより心配が勝ったカゲツとライが、小柳を何とかしようと屈む。
星導は割れた破片を足でカシャカシャ蹴りながら、何かを考えていた。
伊波「小柳大丈夫?ここで待っとく?」
小柳「……やだ…。」
叢雲「じゃあ進むぞ。気配強なってきとる。」
小柳「…いや……。」
伊波「ええ…。(困惑)」
しばらく沈黙が続く。病棟には浅い小柳の呼吸だけが響く。イヤイヤ期に入ってしまったビビリ狼をどうしようかうんうん考えていると、星導が口を開いた。
星導「うーん、今回の任務、確か妖魔系のも関わってるんだよね。」
伊波がこくんと頷く。そう。この病院、コザカシーだけでなく、かなり強い妖魔も住み着いているらしいのだ。
つまり今回の任務は、依頼のついでにコザカシーと妖魔、どちらも討伐せよという無茶なものだった。
星導「ならライと小柳君でここに残りな。」
伊波「ええ…?(困惑)」
星導の口から放たれた理不尽な指令に、伊波は再度困惑した。ただでさえ広い病院内を、2人で駆け回るなど効率が悪いと思ったのだ。
星導「…住み着いてるのは妖力の強いバケモノだよ。それも一匹じゃない。そんな所に人間のライが入ろうもんなら一瞬でやられちゃう。」
星導が、いつの間にか拾い上げていた壺の破片をパキリと割った。その何とも言えない不気味さに、小柳とライは不意に背筋を伸ばした。
叢雲「僕もそれがええと思うわ。狼もビビって使い物にならんし。」
小柳「ビビって…ねぇし…。」
星導「うずくまりながらは無理があるよ。小柳君とライはここでお留守番。念のため通信機は持っといてね。」
伊波「はーい…。」
渋々了承し、星導達は更に下の階へ。この狼はどうしようかと彼の背中をさすりながら考えていると、小柳が震える口を開いた。
小柳「ご、めん…。迷惑、かけて…。」
小柳からの素直な謝罪に、ライは驚いたが、すぐにニコリと笑って隣に座った。
伊波「ま、誰にだって苦手なもんの一つや二つあるよ。お前も謝れるくらい素直になってる事に対する驚きの方が迷惑より上かな。」
小柳「は…うるさ…。」
隣にいる、弱く脆いはずの人間が、小柳には暖かくて、心強くて仕方がなかった。
伊波「るべたちが戻るまでなんか話そ。そうだなぁ…ロウはなんでお化けが怖いの?」
一息つき、小柳が少し落ち着いたのか口を開く。
小柳「…切れない、から。」
伊波「切れない?ロウ、妖魔剣士でしょ。お化けも妖魔の内じゃないの?」
小柳がぎゅうっと自分の羽織を掴む。フードのような部分も目深に被って、顔を膝の上に置いた。よっぽどお化けが怖いらしい。
小柳「違う。地縛霊…だったりとか、所謂人間の言うお化け…は、声が聞こえる。」
伊波「声?恨めしや〜みたいな?」
小柳「んや…。助けて、とか…苦しい、熱い、とか、私の子供はどこ、とか…。生々しくて、何処か生きてる人間みたいで、やだ…。」
伊波「そっか〜。お化けの声、俺には聞こえないからな〜。」
小柳「うん…。人間には聞こえない。俺たち人外にだけ。人外は…人外に歓迎されないから。」
ライが驚いたように尋ねる。
伊波「え!嘘。俺お化けに歓迎されてたの!?」
小柳「んふ。人間は妖怪に護られて生きてるようなもんよ。ライもカゲツも。カゲツだって人里離れて生きてただけで人間だしな。」
伊波「はぇ〜…。」
小柳「星導…は見えてるかもだけど、カゲツは見えてない。気配が分かるだけだ。」
少し落ち着きを取り戻してライに妖魔について教える小柳。これからの任務にも関係あると思い、真剣に聞くライ。
少し話していると、いきなり小柳の耳元で、低く、悍ましい声が聞こえた。
「ほゥ…ヨくシッていルではナいカ…。はクろうのコよ…。」
小柳「ひぁっ…!?」
あまりに突然の事に、小柳は手で耳を抑え、目にうっすら膜を浮かべた。
伊波「ロウ!?どうかした…?」
ライが明らかな異変を感じて声をかける。
隣には伊波の裾をぎゅっとつまみ、ふるふると震え、うずくまっている小柳。
小柳「こ、え…きこえる…。そこ、いる…。」
時を戻して討伐組。星導がゆるゆるとカゲツに尋ねる。星導は、妖魔は見えるとはいえ気配は感じられない為、カゲツに頼る必要があった。
星導「カゲツ〜。気配強くなってる〜?」
叢雲「ん〜…?急にこっちの強そうな妖魔の気配消えたんやけど…。この辺なんかある?」
星導「ん〜。分かんない。あ、でも、強い妖魔以外にもう二匹くらいいたよね。」
叢雲「ん、もう一匹ならそこの病室や。後もう一匹、この病棟にうようよしとる。」
星導「失礼しまーす。……ぉお…。」
ガラガラと扉を開けると、そこには人のような、でも違うような妖魔が立っていた。
星導の反応を見て、カゲツが呟く。星導が引く程とは、かなり強いのではないか、と考えたのだ。
叢雲「なんや、強いんか…?」
しかし、そんな心配とは裏腹に、ふにゃりとした否定が入ってきた。
星導「いやぁ…?もう妖力もほぼ無いし、原形留めてない…。すぐ消えるよ。」
カゲツがクナイをビュッと投げると、星導の宣言通りに妖魔はザラザラと消えていった。
星導「………?」
叢雲「次あっち。一匹おる。」
星導「…分かった。」
てくてくと標的のところへ向かい、またしても簡単に妖魔を倒す。最後の一匹は上の方の階にいるらしい。
自然と二人は早足で進んでいた。病棟に靴音が響く。
何かモヤモヤする。二人ともそう思っていた。
叢雲「なぁタコ。依頼主の言っとったコザカシーはどこや?」
唐突にカゲツが口を開いた。お互い前を向いていて顔は見えていないが、星導にはカゲツが何か異変を感じていることが分かった。
星導「やっぱおかしいよね。コザカシーが見当たらな………。」
突然、キョロキョロと歩いていた星導が、ピタリと足を止めた。カゲツが不思議に思い目を向けると、事務室のような場所。中には、歴代院長と思われる写真が、1列に壁に掛けられていた。
星導「ねぇ、カゲツ。依頼主、どんな顔してた…?」
叢雲「?どんな、って…。白髪のお爺さんで、目元に傷みたいのがあって……。」
必死に思い出し、特徴を頑張って説明しようとするカゲツを遮り、星導は指を指した。
星導「…それって、あんな感じ?」
星導が差したのは、壁に掛かった写真の、真ん中より少し左の老人。真顔だが、依頼人によく似た顔立ちをしていた。
心なしか、星導の指が少し震えている。カゲツもなにか分かったのか、それとも最悪のケースが浮かんだのか、星導にボソリと問いかけた。
叢雲「…なぁ、星導。悪いお化けってさ。死人の中に乗り移って悪さしたり、勝手に操ったりするよな。」
星導「…ねぇ、こっちにそのお爺さんの死体あるんだけど。結構昔だよ。つい最近じゃない。」
震える声で会話を続ける。と言っても、どちらとも事実と疑問を交互に述べるだけで、会話が成立していない。
しかし、この会話で、星導の中に散らばっていた違和感のピースが、どんどんと繋がっていく。
星導「やけに弱い妖魔が2体、追ってたけど消えた強い気配、随分前に死んでる依頼人。」
叢雲「ビビって留守番してる狼とそれに付き添ってる人間の伊波…。」
状況を整理しようとブツブツ呟くと、カゲツもそれに被さってきた。きっと考えていることは同じ。
星導「ねぇカゲツ知ってる?お化けって、怖がってビクビクしてる奴を狙うんだよ。心から恐怖してる奴の魂って、お化けにとっては頭が溶けるほど美味しいんだって。」
叢雲「は、は…。…星導、急ぐぞ!狼が危ない!」
星導「ええ。まだ喰われてないことを祈りましょう。」
嵌められた。最初からコザカシーがいるなんてのは嘘で、妖魔が小柳君を孤立させるための罠だったんだ。小柳君とライが危ない。
きっと作戦はこうだ。何らかの情報で小柳君がお化けが苦手だと知り、死体を操り嘘の依頼をする。
任務中、案の定小柳君はビビリ散らかして待機、つまり孤立しざるを得なくなる。
ライが付いていたのは想定外だっただろうけど、人間が一人いた所で、妖魔にとって人間は埃と同じようなもの。
俺たちが倒した二体の妖魔から妖力を吸い取って自身を強くし、その妖魔を下の階に配置。
ギリギリまで俺らを下に引っ張って、その隙に小柳君たちを喰らおうっていう算段だろう。
叢雲「やばいで…!」
先を走るカゲツをタコ足で止める。階段で上がっても恐らく間に合わない。
叢雲「おい!星導!ふざけとる場合やないんやぞ!」
星導「…ここ、丁度小柳君達が待機してるところの真下。カゲツ、瓦礫に気をつけてね。」
カゲツをタコ足で抱えて、トランクを力いっぱい放り投げる。トランクは真上に飛んでいき、一階、二階、三階分の床を壊して手元に帰ってくる。
星導「さ、飛びますよ。」
叢雲「はは。ナイス。」
タコ足を伸ばして上の階になんとか辿り着く。俺の読みは少しズレていたようで、小柳君たちの姿は見当たらない。
ドーン、と穴が空いたそのさらに奥、小柳が妖魔の方に震える刀を向けながら叫ぶ。
小柳「ライ!喰われるぞ、走って逃げろ!」
伊波「ロウ!?戦えんのか…!?」
刀を持つ手に、より一層力が入る。震える声でなんとか絞り出した言葉は、小柳ロウの本音そのものだった。
小柳「お化けなんかより、仲間が喰われる方がよっぽど怖い…。さっきの音、星導達が来てるはずだから…!」
小柳がばっと振り返ると、ライは目を見開いていた。伊波に見えていたのは、形は見えはしないけど、小柳の後ろにある明らかに危ない霧。
伊波「馬鹿、ロウ!前見ろ!」
小柳「っは…。」
小柳には、はっきりと映った。妖魔が爪を立てて振りかぶっている最中が。もう爪が振れそうなくらいに相手は動いていた。
喰われる。
どうやったら喰われるかも分からないのに、小柳は本能的にそう感じた。
目を瞑る。もう逃げられない。喰われるのがライじゃなくてよかったな。あ、でも乗っ取られたらあいつらに迷惑かけちゃうな。ごめんな、カゲツ、ライ、星導。
俺、死ぬ…
星導「諦めんなっ…バカぁ!!!」
後ろから聞き慣れた声。いつもの飄々とした声じゃなくて、怒りと恐怖の混ざったような、力強い怒声。
横から見慣れたトランクが飛んできて、妖魔にクリティカルヒット。驚いて2、3歩後ずさると背中からカゲツの声。
叢雲「狼、喰われてないか?」
耳元から聞こえる声に、ばっ、と振り返ると、カゲツの顔。
ストンと膝をつく。力が抜けた。刀も握れない。カランカラン、と刀が手から滑り落ち、地面に当たって音を立てる。
安心して、張り詰めていた気持ちが崩壊して、俺がライを守らないとっていう使命から解放されて、気が緩んだんだ。別に怖かったわけじゃないから。
男だろ。白狼だろ。暗殺集団(ぼっち)の首領だろ。そんな脳の制止もうまく効かず、ずっと溜まっていた恐怖が目から零れ落ちた。
止まらない。仲間に見せたくなかったのに。嗚呼もう、格好悪いなぁ。
小柳「よかった…よかったぁ……。」
叢雲「ちょっと待っとれ。すぐ倒す。」
そこからは星導、カゲツによる暴力のオンパレード。妖魔にも効くトランクと妖術のかかった武器。圧倒的な強さに、妖魔はあっさりとやられた。
俺はただ、震える身体を抑えることもできずにぼーっと見つめることしかできなかった。
伊波「小柳、ありがとう。お疲れ様。」
小柳「ぅん…。もうやだ…。」
星導「ふぃ〜。間一髪セーフ。小柳君、大丈夫?」
叢雲「さ、はよ帰るぞ。こんなとこもう懲り懲りや。」
拠点にて。
小柳「剣士ともあろうものが刀落とすなんてな…。」
ソファで布団にくるまりながら小柳が呟く。隣にはライ、カゲツ。
ライが笑っていやいや、と口を挟む。
伊波「でもロウ俺の事助けてくれたじゃん。」
叢雲「依頼主が死んでるって分かった時はほんまにゾッとしたわ。」
小柳「…思い出させるなよ…。もう嫌だ…。」
星導がふっと笑って、ココアを持ってくる。
星導「ココア。みんなの分もあるよ。いや〜。トランクで三階分ぶち抜いたときは気持ちよかったな〜。」
小柳「…そ。」
きっと、俺を安心させるための嘘。そう分かっていても、言わなかった。彼なりの気遣いだと分かっていたから。
猫舌の俺でも飲めるように少し冷まされたココアと一緒に、彼らの暖かい思いやりも静かに飲み込んだ。
あとがき
翠蓮です。挨拶はもうすっ飛ばしますね。
今回の話は、怖がってる小柳さんが書きたいな〜(唐突で草)と思い、頑張って伏線を意識して書きました。
ドキドキして頂けましたでしょうか。星導さんによる妖魔の策略の種明かしのシーンで、「うわぁ…。なるほどね?」となって頂けたのなら幸いです。
物語の終わりが急展開すぎて締まりが悪いですが、また何処かで会いましょう。
(2026/10/13)
コメント
1件
わあ…淡雪さん、最新話読みました!🖤🤍 小柳くんが「お化けよりも仲間が喰われる方が怖い」って言ったところ、本当にぐっときました…。ビビって震えてたのに、ライを守ろうと刀を構えた姿、めっちゃかっこよかったです。あと「切れないから」って理由が切なくて、聞こえる声が生々しいっていう設定もすごく好きです。 星導のトランクで階突き破るシーンも熱かったし、最後のココアの気遣いにじんわりしました。続き、すごく気になります…!