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「大丈夫だよくるちゃん、映画狂でも僕のことは知らないだろうな、僕はテレビや映画には出演しないからね 有名人の一歩手前と言う訳でもないし・・・
まだ学生のときにテレビのコマーシャルをいくつか撮ったけど、今は日本の芸能業界は日本人の「通名」を使った背乗り半島人しか有名になれないんだ」
くるみが初めて聞く単語に顔を傾げた
「半・・・島人? 」
「朝鮮半島の事だよ、中国人、韓国人、朝鮮人が今のテレビや映画業界を仕切っているんだ、彼らは日本人のフリをしてテレビに出演しているんだ
僕は生粋の日本人だから、彼らのシステムの中ではどんなに頑張っても有名にはなれないんだよ、よっぽどの枕営業とかしないとね」
くるみは驚いて口に手を当てた
「え?・・・そうなの?テレビに出てる人はみんな日本名を名乗ってるから日本人だと思ってた」
「そこがテレビのからくりでね、みんなそうだと思ってるけど違うよ。先日も朝のニュースの顔のアナウンサーがポロッと漏らしていたよ、自分は日本人だからこれ以上は出世できないって、とにかくテレビや映画業界は半島人達が作っているメディアだから偏向報道が酷いんだ」
くるみは眉をしかめた
「何だか騙された気分だわ!」
ハハッ
「まさにそうだよ!」
洋平が柄の長いフォークをクルクル弄びながら言う
「学生の頃CMに出演した時もスポンサーが半島の広告会社だったものだから三日かけて撮影した僕より、後から連れて来た韓国人を使った方がずっといいと言って、僕の演じた部分を全部カットされてしまったんだ。
ショックだったよ・・・
でも僕は内心自分を高くかっていたから、どうにか立ち直ったのさ、それ以来テレビや映画とは距離を置いて舞台で働いてきたんだ」
「そんなことされたのに・・・
くじけなかったのね洋平君・・・尊敬するわ 」
くるみは目をしばたいた、それから自分が口を開いたまま洋平を見つめていたのに気がついた、すっかり今まで抱いていた彼の軽いイメージが吹き飛んでしまった
彼はそれほどでも・・・とえへへと笑った
くるみはテーブルの上に乗った彼の手をじっと見つめた
奇妙な期待と興奮にぶるっと震える
心は決まった
たしかに彼は学生時代はテレビで出世出来なかったかもしれないが、それにくじけず今では舞台で活躍するほどの俳優だ
お人好しで田舎者で人をこれっぽっちも疑うことも知らないうちの家族の結婚式の客のために、国際金融家を演じるくらい彼にとっては容易い事だろうと思ってきた
そう・・・週末だけでいい
麻美と誠が結婚してしまったら・・・
その時チクンとくるみの心は痛んだ
だが無理やりそれを振り払った
麻美と誠の式が終わったら、母に電話をかけて私の大ロマンスは終わったと告げよう
五十嵐渉の仕事の都合で、二人の交際は続けられなくなった
それで自ら深みにはまった嘘は終わりになる
「だから僕でよかったら君の為に一芝居打てると思うんだけどな」
「あなたは、ちゃんとしたプロの役者さんなのよね?」
「そうだよ」
「それならキチンと報酬をお支払いするわ、金曜日から日曜の夕方まで一泊二日で50万円はどう?」
洋平は長いことくるみを見つめた
「50万といえば大金だよ?そんなのただでも行くのに」
くるみは希望が湧き上がるのを抑えた
「無料でお願いできるほどあなたと私は親しくないわ。キチンとしたビジネスにして報酬をお支払いする方が、私が借りを作らなくて気が済むの、契約書を作成するわ」
洋平は無表情のまま、くるみのグラスにまたワインを注いだ
それからグラッセをしたニンジンを一かけらフォークに刺してフォンデュに浸し、クルミのお皿に落とした
そろそろチーズが硬くなる、
洋平は自分のためにもう一度同じことを繰り返してから口を開いた
「それでいいよ、次に君の(五十嵐渉)の事を聞かせてよ、僕の方でもシナリオを作るよ。
彼はどうやって億万長者になったんだ?落ちめの会社を買い漁っては買収していったとか?
ビットコインで大金を得たとか・・・それともアメリカ人に僕が開発したOSのシステムを売った・・・・とかいうのはどうだい?」
クルミは驚いた
「そんなの考えたこともないわ
正直言って、私の両親は自分の銀行口座を貸借無しにしておくことすら満足に出来ない人達なの
難しい国際金融の話なんて論外だわ、五十嵐渉がどうやって大金をものにしたかなんて、今まで一度も聞かれた事なんかないし・・・
うちの家族はどんな作り話でも信じるんじゃないかしら」
「へぇ~・・・一度も聞かれなかったなんて驚きだな」
肩をすくめて言う
「両親に会ったらわかるわよ、父は患者さんの病気を治して、健康にしてあげる事にだけ生きがいを感じてるの。
母は子供を育て終えて、今度は近い未来に生まれて来る孫のおやつを作る事しか頭にないわ
国際金融なんて、あの人達にとってはどこか遠い世界の話・・・だから、あなたは何でも好きなように話してくれていいわ、決して詳しく質問されたりしないから」
う~ん・・・と洋平が脚を組んで顎を人差し指と親指で挟む
「だったら遺産をもらったことにしよう!」
クスクス・・・
「ダメ!ダメ!それは安易すぎるわ、あなたが額に汗して稼いだほうが家族に理解してもらえるわ」
「国際金融家は汗なんかかかないよ、最初に投資して利ザヤが膨らんだところで売りに出すんだ。
んでまた安くなったら買い戻す・・・外国為替市場が開いたら一日中パソコンの前で電話をしているからね、エアコンがガンガンに効いた部屋で」
くるみはぷっと吹き出しそうになるのをやっとこらえた
「あなたの口調を聞いていたらまるで本当の金融ディーラーみたいね、もうお芝居に入り込んでるの?さすがだわ」
おっと・・・と洋平は奇妙な顔をしてなんだか楽しそうな含み笑いをした
それからも洋平はどんどん五十嵐渉についてシナリオを作ってくるみを驚かせた
不思議な事に彼は国際金融業で財を成すのは
ドー ナツを作るのと同じくらい簡単そうに話をした
くるみの秘書勤め社会人三年の経験からすると
お金を儲けるのは傍から見るほど楽ではないのを身にしみて知っていた
一生賢明働いても、税金で給料の半分は消え、社会保険に、年金、市民税、高い光熱費、物を買えば高い消費税・・・・
あきらかに人間一人が生活していく給料と毎月国から引かれるお金は辻褄が合っていない
その中で節約しながらも毎月少しづつ貯金が出来ている人などどれぐらいいるだろう
きっと税金など彼は払っていないのかもしれない、彼は俳優だ、毎月決まった収入がないのかもしれないし、彼が経済界の落とし穴について知らないのも当然だ
くるみは言った
「洋平君!簡単にお金が作れるような言い方は良くないわ、本物の金融家はもっとみんな必死に努力しているものよ!」
チッチッチッとクルミが眉をしかめて人差し指を振る
「難しいのは最初の一億を作るまでだよ?
やっぱり・・・覚えてないんだな・・」
洋平はじっとくるみを見た
くるみは笑った
「あなた本当に上手な俳優さんね・・・
今のは本当にあなたが国際金融ディーラーだって思わず信じそうになったわ」
洋平も笑った
「褒めてくれてありがとう!監督に言っておくよ
それじゃ決まりだな!僕は君の恋人の国際金融ディーラーで大金持ちの五十嵐渉だ!」
「ありがとう・・・・」
くるみはなぜか笑えなかった
背筋がかすかな予感に震え、ドキドキと不安が交互に襲って来た
「それで君の実家は何処なの?」
「奈良だけど観光地からは少し離れている田舎町なの、人口は千人ほど、教会が一つと、キャンプ場が二つあるわ。新しくショッピングモールが出来たけど、都会ほど大きくはないわ」
「のどかで良さそうだね」
洋平は微笑んでテーブルにあった紙ナプキンを一枚取り、ボールペンでサラサラ何やら書き始めた
「五十嵐渉の人間性は何となくわかった、次は君のご家族の事だな。あらかじめ聞いておかないと、恋人から何も聞かされていない間抜けな彼氏になる
まず妹さんから始めよう」
「妹の名は麻美、25歳よ、私より2歳若いのとても美人で髪はそうね・・・
最近茶色に染めたって言ってたわ、私達仲良しなの」
「姉さんの元カレを取るのが仲良しの妹がすること?」
くるみは少し落ち込んだ
「いぢわるな言い方ね・・・
でもこればっかりはしょうがないと思うわ・・・それに・・・私達の事はもう終わっているし・・・
夫になるのは山下誠君・・・私達幼馴染みで小さい頃からいつも遊んでいたの」
誠の名前を出しても心が痛まないことにくるみはホッとした
「 お父さんはお医者さんなの?」
「ええ、母は看護婦だったし、妹の麻美も看護師の資格を持っているわ」
「男の兄弟は?」
「いないわ」
「どうして君だけ医療に携わっていないんだい?」
洋平は気楽に言った、その言葉がどれほど的を射ているか彼は知らない・・・・
「・・・簡単じゃなかったわ」
くるみは小さく言った
「私が奈良でも有名な看護学校ではなく都会の秘書養成学校に入学した時は、両親はがっかりしたわ」
「でも、今ではすっかり機嫌を直してるんじゃない?君は立派に秘書業を務めているよ」
そう言ってもらえて嬉しいがくるみは小さく微笑んで首を振った
「私が人の命を救うより、どこの誰かわからない社長の世話を焼いて時間を無駄にしているのがあの人たちは理解できないのよ・・・
もちろん、私が自立して道を切り開いたことは喜んでいるけど」
ふぅ~んと洋平はペンをくるくる回した
「つまり、ご両親は君を動かしているものが何であるか少しもわかっていないんだな、そして君の方はご両親が君の仕事に理解を示さないことに責任を感じている」
くるみは図星を付かれて戸惑った
それはこの三年間自分が作り上げてきた自分への信頼を壊す危険がある、くるみはわざと明るく言った
「そんなものなんじゃない?
親なんて子供を理解しないものよ、洋平君・・・・
ただいつまでも小さな子供みたいに愛するだけで、うちの両親もその点は文句なしなんだけど」
両親に自分は一人前だと認めてもらうには
この結婚式で大きな嘘が必要だ
今週末結婚式で仲良くする麻美と誠を目の辺りにする時がやってくる
その時に自分を支えてくれる力強い腕が欲しいと思うのはわがままなのだろうか