ドスッ。
何かの衝撃を感じた。体が熱い。
「……ふふっ」
僕の隣で、幸せそうに、彼女は笑った。
僕の心臓は、今までにないほどドク…ドク…と、鼓動しはじめる。
「………………っあ」
嫌だ。
こんなところで。なんでだよ。
「…やめ…………」
どうして―――
もう気づいたときには彼女は僕に背を向けてあるきはじめていた。
「……しろ…さ…き………さ…」
僕は力をふりしぼって彼女を呼んだ。
彼女は足を止め、振り返ってぼくをみた。――悪魔のような笑みで。
……そらには…つきがきれいにひかってる。でも、……もうおわりなんだ…
眼の前が暗くなっていき―――
そこで僕の意識は途切れた。
4月――
僕は大麻(おおあさ)高校の2年生になった。
僕は私立の中学から来たので顔見知りはゼロだった。
まぁだけど、1年のころは僕なりに少しずつ友達を作っていた。
そして今年。クラス替えをして僕は2-Dになった。
そこまでは、なんの問題もなかった。
問題は、隣の席の女子だった。
名前を、白崎優奈といった。彼女は小柄で、特別に美人でもなく、特別に運動ができるわけでもないが、かわいい。ミディアムボブの髪の毛は、いつでもさらさら。そして何より、クラス全員の――いや、学年全員、そして教師全員の――目を引いたのは、白崎が頭脳明晰であり、秀才であり、大麻高校の歴史に残る天才だったことだ。小テストではいつでも100点。定期テストでは、必ず3位以内。おまけに、今まで95点以下を取った事がないという。
流石に、やばい。
最初は、僕も白崎のことはただの平凡な女子だと思っていたので、どうでも良かった。だが、2ヶ月も経つと、中身がわかってくる。そして、僕は白崎に惚れてしまったのだ。
そして、ついに。
白崎の誕生日、6月28日の前日に、公園に呼び出して、白崎に、告白することに、決めたのだ。
(//ノдノ)イヤァァァァアア
でも、やっぱ、はずい。
まあとりあえず、あいつに報告するか。
僕は去年、少しだけ友達を作って、その中でも、親友と言っていいぐらい仲良くなったのが、和泉だった。LINEも交換した。
だから。
僕は早くこのことを和泉に報告するべく、スマホを出して、LINEを開き、和泉にメッセージを送った。
悠真:なぁ和泉、聞いてくれよ( ◜◡◝ ) (//ω//)
数分経って、ピロン!とスマホの音がなり、和泉から返信が来た。
拓也:ど〜〜したんだよ〜、椎名。こっちは忙しいんだよ〜〜🍦
拓也:それで?顔文字なんか付けちゃってさ。なんの用だよ
…あいつ、🍦なんか打ってやがる。絶対、忙しくなんかないだろ。どーせ、ハーゲンダッツイチゴ味とか食ってんだから。ww
僕は返信を打った。
悠真:はは笑える。どーせハーゲンダッツのイチゴ食いながらアニメ見てんだろ笑
ピロン♪
拓也:っな!なんで分かるんだよそれ以前になんの用かって俺が聞いてんだろちゃんと質問に答えろよ!!
焦っているときに「!」や「。」「、」を付けないのは和泉の癖だ。
あー焦ってやんの。
僕はまた返信を打った。
悠真:おーけーおーけー。じゃあ要件を話す。実はさ
僕は、白崎に片想いしていることや、公園に呼び出して白崎に今度告白することを伝えた。
ずいぶん長いメールになってしまった。
「…………」
5分ほどたった。アイツは読むのが遅めだから。
ピロン♪
拓也:へ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…ずいぶんと「〜」が多いんだが………。
返信を打つ。
悠真:何だよその反応。文句あんのかよ。こっちは本気なんだぞ(#^ω^)
拓也:笑ってるじゃん。まあ真剣に受け止めてほしかったらこういう場では顔文字を使わないことだな。
拓也:お前にできんのかなって思ったんだよ
悠真:できるって。こっちは本気だっつーの
拓也:わかったわかった!がんばれよ〜(・ω・)٩(ˊᗜˋ*)و
…………………。
悠真:またな
…あいつこそ顔文字とか使ってるじゃん。
僕はスマホの電源を切って、棚の一番上においた。
「……よし………」
本番は明明後日だ。頑張んないとな。
それと、なんかちょっとプレゼントでもしたら、女子は喜ぶんじゃないかな。
白崎は日々勉強をしている。
あとは、なにを渡せばいいのか、だな…白崎が好きなブランドとか、好きな色のものがいいよな。ブランドはわからないから、できるとしたら、色だな。
そこで、学校で見る白崎を思い出してみた。
白崎は日々勉強をしている。
僕は、はっとした。
白崎のファイルや、ノートは、すべてモノクロに統一されている。
だから、白か黒のシャーペンでもあげたらいいんじゃないだろうか。
幸い、今日は日曜日。今は午前11時。
昼飯ついでに、ショッピングモールに行こう。
「行ってきます!!」
昼飯は味噌ラーメンを食べた。(10杯)
プレゼントもいいのを見つけた。
事は順調。明明後日、頑張るぞ。
そしてついに当日!
まず僕は、朝白崎の机に「今日の放課後たこ焼き公園にきてください 椎名」と書いた手紙を入れておいた。(ルーズリーフを切ったやつ)
それで、今は、学校が終わって、放課後。
僕は制服から、できるだけおしゃれな格好に着替えて、たこ焼き公園に走っていった。
公園につくと人気は少なく、奥のベンチに白崎が座っているのが見えた。
「白崎さんっ」
僕が白崎に呼びかけると、
「…あ。椎名くん」
白崎は、少し恥ずかしそうに返事をした。
「来て」
僕と白崎は人目につかないところに行った。
「それで?…ご用件は」
白崎が言った。おお、いい感じ?これで言えるぞ!
「…あの!!」
白崎が目を見開く。
「ずっと前から、君のことが好きでした。どうか僕と付き合ってください!!!」
僕はずっと考えていたセリフを言った。
「…………‼」
白崎は、びっくりして固まっているようであった。
「…っ……………」
僕もなぜか、よくわからないけど硬直してしまった。
「………………」
「………………」
シーンと静まり返る。
何分か、続いたあと。
「………あの」
白崎が喋った。
「ハいいいぃぃぃ!???なんですか!??!」
僕は、白崎が急に喋ったので、びっくりして、変な声を上げてしまった。
「………………」
白崎は、また、黙りこくってしまった。
…あー、何やってんだ、自分。
こんなことしたら、白崎に嫌われるじゃないか。
僕は、急いでいい直した。
「……あ…あの、ごめん。………えっと、それで…何?」
白崎、ごめん…でも、きいてくれ。
しばらくすると、白崎が言った。
「……あの、さっきの…告白、の、返事…考えさせてほしいの。だから…また、明日の6時に、ここに来てくれる?」
うつむき気味、上目遣いで僕のことをみてくる白崎に、ぼくは力強くうんうんと頷いた。すると、白崎はほっと安堵のため息をついた。
そして、さっきの恥ずかしそうな雰囲気とはうってかわって、言った。
「そう。…よかった。んじゃ、私帰るわね。今日も塾があるから、早く行かなきゃなんないのよ。またね」
白崎は小走りで公園からさって行った。
白崎の去った公園で僕は一人佇む。
「…………」
これは。まさか。
もしや。もしかすると。
「振られたわけじゃないんだ!!!」
よっしゃ〜!やったぜ〜!50%の確率で付き合えるぞ!
「よし、これを早く和泉に報告せねば。…あ、スマホ、家だ」
そうだ。僕は、こないだ、和泉とメールしたあと、電源を切って棚の上においたんだった。
じゃ…メールできないじゃん。
外は少し日が暮れている。でも冬には真っ暗なんだから、これは夏限定の景色なんだ。
…などとくだらないことを考えつつ。
………。
…………。
「帰るか」
僕も小走りで、家まで駆けていった。
*
家につき、自分の部屋にいく。
リュックを開けると、包装紙に包まれたものが出てきた。
「あ…プレゼント。渡すの、忘れちゃったな」
そうだった。あのときは、焦っていたし、緊張していたから忘れていたけど、プレゼントも用意していたのだ。
「まぁ……でも。明日来てって言ってくれたし、明日渡せばいいか」
僕は、プレゼントを再びリュックにしまい、棚の上からスマホを出して、電源を入れた。
「げ」
スマホには、和泉からのLINEが大量に来ていた。
拓也:告る言葉とかって、もう決めた?
拓也:白崎を傷つけないようにしろよ
拓也:お前に告白は100年早いww
拓也:無視すんな
拓也:いよいよ明日だな!ガンバ!
拓也:٩(ˊᗜˋ*)و
拓也:(・∇・)
拓也:乙カレーw
最後のLINEは、ついさっき送られてきたものだ。
…うるせーよ。だいたい乙ってなんだよ。告ったし。振られてないし。
僕は和泉に返信する。
悠真:何なんだよその上から目線、それに僕振られてないし。傷つけてない。100年早いのはお前だろ
思いつく限りの仕返しを送る。
しばらくして、ピロン♪と通知音がなる。
拓也:まじで?
悠真:まじで。聞きたい?
拓也:いえす
悠真:…………
拓也:お願いだよ。乙は取り消す
悠真:おk
拓也:やったーー
じゃ、教えて
…ほんと、エラソーな奴だな。ま、それはともかく。
僕は今日、手紙を入れたことから白崎が去ったことまで、できるだけ詳しく書いた。
また、長いメールになってしまった。
…7分後。
ピロン♪
拓也:わ。ヤバ
悠真:だろ。プレゼントは渡しそこねたけど
拓也:何してんのお前。それこそ乙じゃん
悠真:黙れ。白崎は「考えさせて」って言ってたからな。振られてないからな
拓也:へいへい。どーせ付き合ったらリア充自慢ばっかだろ。ま、せいぜい頑張れ
…………。
悠真:じゃあな
僕はまた、スマホの電源を切って、棚の上にしまった。
また、同じことをした。
まあ、あいつはどーでもいーけど。
(白崎さんに、振られませんように…!!)
そのことだけを考えて、僕は深い眠りに落ちた。
次の日。
僕は学校が終わって、白崎との約束との約束どおり、6時きっかりにたこ焼き公園についた。
まだ、誰もいない。
しばらくすると、白崎が来た。
「……あっ!椎名くん。早いね」
「白崎さん!……そんなこと、ないよ照( ・´ー・`)ドヤ」
やっぱり……声も可愛い、かも。
白崎のことばかり考える。
だが僕はここで重要なことを思い出した。
「……あ、の、白崎さん。昨日、これ、渡したかったんだけど……忘れてて」
はい、と僕は包装紙につつまれたものを差し出す。
「…!ありがとう」
白崎は、それを受け取る。
「開けていい?」
白崎に聞かれて、僕は、うん、と頷く。
パリ…バリ…と包装紙を広げるおとが聞こえる。
そして、中から出てきたものは――
「…これ、ペン……?」
そう。僕が選んだのはインクが黒で外側は水色のボールペン。白崎の持ち物はモノクロにまとめられているけど、たまには色のついたものもいいと思ったので、白崎に一番似合いそうな水色にしたのだ。ちなみに、ボールペンにしたのは、文房具が一番いいと思ったからだ。
気に入ってくれるといいけど。
「どう………かな……?」
恐る恐る聞いてみる。
「………………ちょっと、こっちに来て」
「え」
白崎が、ひと目につかないところへ行った。
「こっちに来て」と言われたので、とりあえずついていく。
そして、白崎が言った。
「告ってくれて、ありがとう。うれしかった」
…!!これはもしや!!
――と思ったのもつかの間。
白崎は僕が贈ったペンを両手に握って、折った。
ボキッ。
硬いものが破損する音が、聞こえた。
………。
……………。
「………え――」
白崎は僕が贈ったペンを、折った。
僕は、はじめ、状況が理解できなかった。
地面には、ボールペンの欠片が、落ちている。
「…あの…なん、で」
僕は言った。
「…青色、好きじゃなかった?そしたら、新しいの、買うから――」
「そんなんじゃないわ」
僕の言葉は、白崎に遮られた。
彼女は、楽しそうに笑っている。だけど、その笑みがいつもと違うことは、確かだった。
「いらないから、折ったの。ただ、それだけ」
「………………」
――僕だって、一生懸命プレゼント選んだのに…それをいらないって言って折るは、ないだろ……。
僕は、一瞬だけ、白崎を睨んでしまう。が、その視線を、すぐ足元に落とす。そこには、ペン〝だった〟ものが、ちらばっている。
なんで。そんなに嫌がられること、しただろうか…………。
…………。
「でもね。私、昨日、椎名くんが告ってくれて、すごくうれしかったの。これで、家族の使命を果たせる、って」
白崎が言う。
それは、どういうことなんだ。
「それは、振ってるの?」
僕は聞いた。
白崎は、ふふっ、と笑った。
「うーん…………それはちょっと振ってるとも振ってないともはっきりとはいい難いわ」
白崎は考え込むしぐさをして、よくわからないことを言う。
……。
…………。
…………………。
「何なんだよ」
僕が吐き捨てるように言うと、白崎は目を丸くした。
あ…。どうし…よ。
僕は言った。
「あの……そんなんじゃ、よくわかんない、って……こと、なんだよ。あんな言い方して…その、ごめん。………なんかあるなら、いってくれる、かな?」
緊張して途切れ途切れになってしまったけれど、僕は白崎に謝った。
振られた…のかもしれない。けど、あんな態度を取ったのは、明らかに僕が悪い。それに、振られたんだとしても――僕は、白崎のことが好きだから。
「………………」
白崎は、しばらく黙っていた。しかし、口を開いた。
「……そうね。私も、さっきのは悪かったと思う。だから――だから、椎名くんに、ちゃんと〝真実〟を教えてあげる。でも、あなたは、覚悟しておいた方がいい。あなたは――必ず――深い絶望を、味わうことになる」
………?
絶望とは、どういうことか。振られるということか。
でも、白崎の目が、〝それはお楽しみ〟と語っている。
……なら。それなら。
「覚悟を決める」しかない。
「いいよ。何を話しても」
僕はいった。
白崎の顔が、ほころんだ。
「うれしい。では話すから、そこに座って」
白崎に連れて行かれて、ベンチに座る。
空には、月が昇っている。
「…それで。どんな話?」
僕は話を促す。
白崎は、にこりと笑っていった。
「いいわよ。私の家ではね――」私の家ではね。とある決まりがあるの。…まぁ、その決まりについては、あとで話すわ。
まず――ずうっと前から続いてるらしいけど、私は全部は知らなくて――私が知っているのは、ひいおばあちゃんのころから。
ひいおばあちゃんは、中2のころ、はじめて田中くんという男子に告白されたらしいの。ひいおばあちゃんは、そのとき嬉しかったから、OKしたんだって。でも付き合って次の日に、ひいおばあちゃんは、死んだ。
これが、事の発端。
私のおじいちゃんは、小5のときに――あ、おじいちゃんは。モテモテだったの――学年1美少女の杉野さんっていう子に、告られたんだって。でも、おじいちゃんは、断った。――そしたら、おじいちゃんは、1ヶ月後、骨折したの…まぁ……今も生きてはいるけど。
そして、私のお母さん。お母さんは、おとなになって、はじめて、勅使河原さんという人に告白されたの。お母さんは、OKした。お母さんは、告白される時期が遅かったかもしれないけど…5日は何もなかった。お母さんはひいおばあちゃんとおじいちゃんのことを知ってたから、自分ももしかして…と思ったの。
そしてある日、ついにお母さんは――勅使河原さんを、殺した。
そしたら、何もなかった。それどころか、そのときから風邪すら一回もひいていないくらい。そのあと、お母さんは他の人と結婚したの。そのひとが、私のお父さんね。お母さんは、お父さんのことは殺してないわ。結婚しても何も起きてないの。
ねぇ――これがどういう意味か、わかる?
…え?どうしておじいちゃんから後が生まれたかって?さあ。それはわからないわ。ふふ…
まあとにかく――これがわかった日、お母さんは家訓をつくったの。「はじめて彼氏か彼女ができたら、殺す」――ってね。
白崎の話を聞き終えたとき、僕は頭が追いついていなかった。
物騒な言葉が、あった。
何分かして、僕は話を理解した。
「…………え」
僕は、驚いた。驚いて、何も話せなかった。
僕が黙っていると、白崎が口を開いた。
「私、椎名くんのこと、好き。付き合ってあげる」
僕は、その言葉を聞いて、嬉しくなり、大声を上げてしまった。
「ほんと!?」
あまりに大声を出したので白崎は少し驚いたが、また、にこりと笑って、いった。
「うん。でもね――」
白崎は、僕によってきて、耳元で囁いた。
「――私、あなたが初めての彼氏なの」
………?
どういうことだ。
告られたのは、初めてってことだよな。それが、何だ。
思わず、口に出していた。
「それは…どういう」
「いったでしょう?深い絶望を味わうことになるって」
ふふ、と白崎は笑う。その笑みは意味深な、腹黒い笑みだった。
――ああ。もしかして。
僕の頭を嫌な予感がよぎる。
ほんとうに、絶望だ。
白崎はベンチから立ち上がり、ぼくに近づいて覆いかぶさるようにした。
彼女の息が、体温が、顔の左側から伝わってくる。
僕の心臓が、激しく鼓動しはじめる。
「……嬉しいの。ありがとう。私、これで一人前」
――自分たちのために、人の命を犠牲にするのか。
次の瞬間。
ドスッ。
なにかの衝撃を感じた。
僕のからだを、激痛が襲った。
「……‥!!」
白崎が去っていく。
ぼくは見た。自分の胸に刺さった銀色に光るものを。赤く染まるトレーナーを。
体が、熱い。
「…ふふ」
僕の隣で、幸せそうに、彼女は笑った。
僕の心臓は、今までにないほどドク…ドク…と、鼓動しはじめる。
「………っあ」
苦しい。
やめろ。
嫌だ。
「…やめ…………」
どうして―――
もう気づいたときには彼女は僕に背を向けてあるきはじめていた。
「……しろ…さ…き………さ…」
僕は力をふりしぼって彼女を呼んだ。
彼女は足を止め、振り返ってぼくをみた。――悪魔のような笑みで。
ぼくは、わずかにのこる、意識のなかで、夜空に浮かぶ満月を、見た。
《END》
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す … す ご …ッ 。 俺 こ ん な ん か け ん …ッ!!!!