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20xx年、この世の人間全てに新たな『性別』が宿った。
『ネブラ』 母性の象徴、寿命は基本的に無い。
スターから生まれたネブラは、スターより少し長く生きて3人目のインターステラを産むと同時にインターステラとなる。
『スター』 最も輝ける存在、生まれつき何らかの才能を有している。歳を取るにつれ目の色が赤に近づく。
ネブラやインターステラと違いおおよそ百数十歳という寿命がある。
寿命を迎えたら体が真っ白になり、だんだんと冷たくなっていく。
『インターステラ』 全ての根源、不死身。融合してスターやネブラになり、彼らが寿命を迎えれば元の姿になる。
そして全員、然るべき時が来るまでは絶対に死なない。
__ここまで聞いただけなら、寿命が伸びて幸せな世界になったと思うだろう。事実、そのような考えを持つ人はいる。
だが、中には過酷な運命を背負うことになった人々もいる。
『スカイアイリス』だ。
スカイアイリスは、スターの中でも特に体格が大きく、そして文字通り目が空色の人々だ。
そんな彼らの美しい瞳に魅せられれて求婚を申し出る者も少なくないが、スカイアイリスのほとんどは結婚を諦めている。
理由は簡単で重い。短命だから。
ほとんどのスカイアイリスは、中学校の卒業を待たずに亡くなってしまう。政府が結婚年齢の下限を男女共に16歳まで引き下げたもののその年齢になれた人は今までにいない。
国民は何度ももっと結婚年齢を引き下げるよう要求しているが、義務教育のことや搾取の危険性からこれ以上は不可能と一蹴されている。
そんな世界で、もしスカイアイリスとして生まれたら。
彼らに恋をしてしまったら。
どんなに苦しい思いをするのだろうか⋯⋯
俺の名前はソラ、中学生。体の性別は男で、新しい方の性別はネブラ。インターステラが融合してできた、寿命が無いタイプの人間だ。
性別が与えられた代わりに男女での生殖が不可能になったため両親はいない。援助と、政府に認められた労働所で得た金で生活している。
「うっし、今日も散歩行くか」
外の風がやや強く、普段なら長髪の乱れを気にして止めるところだが、何故だか今日だけは行こうという気になっていた。俺は髪を一つにまとめ、着込んで家のドアを開けた。
昨日珍しく雨が降り、それに今朝の放射冷却が加わって道路が冷たく凍っている。車に気を付ける必要がありそうだ。
「……ん?」
いつも通る交差点で、俺は違和感を覚えて立ち止まった。何やら黒い、幽霊のような影が目の前を通り過ぎて行ったのだ。
「ゆ、幽霊じゃねーよな」
俺は気がついたら電柱の影に隠れていた。朝からこんな不吉なものを見てしまうだなんて、帰り道事故にでもあったらどうしよう。朝の爽やかな気分は黒く塗りつぶされていった。そしてこのまま帰ろうとしていた次の瞬間。
信号無視のトラックが交差点に突っ込んできた。
そして、交差点で誰かが硬直している。少年だった。しかも俺と同い年くらい。あの、幽霊に見えた__
「危ないっ!!」
俺は反射的に彼を抱えて歩道に着地した。トラックはその後停車し、俺たちは運転手から平謝りされた。道路が凍っていてブレーキが効かず、信号が赤になった後も進み続けてしまったそうだ。
「俺にも彼にも怪我はありませんけど、気をつけてくださいね」
俺はそう言って運転手を見送った。
「ふう、危なかったな。お前も気を付けるんだぞ」
すると少年はこくりと頷いた。そのまま散歩を続けようとしたが、俺にはひとつ疑問が残る。
彼が目を隠していることだ。
深い黒の前髪に覆われ、目から鼻にかけてが見えなくなっている。
「目出さないと危ないんじゃねーのか?」
また事故にあってはいけないと思った俺は少年の前髪に手をかけた。
「あ、おにーさん、いいの?」
彼の声にふと手が止まる。なにか隠しているのだろうか。
「ん、どうした」
「僕の目を見るとみんな悲しそうな顔をしちゃうから、隠してる」
悲しそうな顔。目。
いや、これ以上この少年の個性を潰す訳には____。
「安心しろ、俺はそんな事しない」
できる限り落ち着いた声で語りかける。落ち着かせた、という方が正しいかもしれない。
「そうなの? ありがとう」
少年はゆっくりと髪を左右に分け、大きく開いた目で俺をまっすぐ見つめた。
「僕はリウ、助けてくれてありがとう!」
「え……」
俺は先程の落ち着きを裏切るように、言葉を詰まらせてしまった。