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愛して、溶かして

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愛して、溶かして

1 - 愛して、溶かして

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2025年01月19日

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「オーカルン!今から帰るとこ?一緒に帰ろ! 」


駄箱で靴を履き替えていたところ、いつものように綾瀬さんに声をかけられる。


「綾瀬さん…はい、帰りましょうか」




この前こんなことがあったとか、オカルトの話、他愛のない会話を交わしながら帰路につく。

この他愛のない会話が、この日常が、たまらなく幸せで心地よい。

自分にとって綾瀬さんと過ごす時間は何よりも大切で尊く感じる。


そして、最近はあることに気づき始めた。


『綾瀬さんのことが好きかもしれない』


けれど、この恋は実らないし、実ってはいけない恋なのだ。


綾瀬さんの朗らかで暖かい性格とは反対に、彼女の体はおどろくほど冷たい。


そう、綾瀬さんはアイスだ。


この世には男女とはまた別で「アイス」と「ジュース」の特殊体質をもつ人種がいる。

一般的な人よりも体温が低い特徴があり、ジュースと結ばれると溶けて水になってしまうアイス。

見た目は普通の人となんら変わらないが、アイスを溶かしてしまう力をもつジュース。

そしてさらに厄介なのが、アイスとジュースはお互いに惹かれてしまう、というところ。

けど自分は、綾瀬さんがアイスだからとかいう以前に、人として綾瀬さんのことが好きだ。


もちろんこの気持ちには蓋をしておくつもりだし、この気持ちを伝えるつもりも無い。

何より、自分の勝手で綾瀬さんを傷つけたくなかった。


願わくば、自分と、ジュース以外の人と結ばれて幸せになって欲しい。こんな自分より、それが綾瀬さんにはふさわしいだろう。


「ん?」


ふと、頬に冷たいものが触れた。

2人で顔を見あげると


「「雪だ…」」


はらはら、と小さく白雪が降っていた。初雪だ。


「おお、初雪じゃん。オカルンと見れて良かったわ-」

「そ、そうですか…」


不意につぶやかれた言葉に、ドキッと心臓が跳ねる。


またそんなこと言って、勢いで告白してしまっていたらどうするのだろうか。


「…寒いから、手繋いでも良い?」

「手、?あ、ああ…はい…」


含羞みながら手を差し出すと、綾瀬さんの冷たい手が重なる。


「う〜…オカルンあったかい…」

「…綾瀬さんは冷たいですね。自分の体温半分分けたいくらいです」


自分よりもひとまわり小さい手をぎゅっと、そっと包み込む。


心の奥からじーんと温まるような、そんな感覚に浸った。




数ヶ月後


未だに綾瀬さんとは友達のまま。また、綾瀬さんは誰かと結ばれて溶けることもなく、いつも通りに過ごせている。


「んー…あっつ…」


隣で綾瀬さんが胸元を仰ぎながら言った。


「そうですね…クーラーの温度下げますか?」

「んー…おねがい…」


今は夏の全盛期。さすがの綾瀬さんも、アイスとは言ってもやはり暑いようだ。


そして今日は星子さんが仕事でいないらしく、休日ということもあり綾瀬さんの家にお邪魔させてもらっている。


なのだが、さきほどから綾瀬さんの様子がおかしい。

なんというか、やけに口数が少ないというか暗いというか。ただ単に暑さにやられているということもあるかもしれないけど。


「…ねえ、オカルン」


綾瀬さんは机に伏せていた顔をあげ、まっすぐな目でこちらを見つめる。


「はい、どうしましたか?」



「ウチ、オカルンのことが好き」



シーンとした空気の中、沈黙が続く。

しばらくして、綾瀬さんは再び口を開いた。


「…ウチ、他のアイスと違ってかなり体温が低いらしくて。今年はやけに暑いじゃん、だから…」


『だから、今年の夏を越えられない』

おそらく、そういうことだろう。そう考えざるを得なかった。


「…どうせ死ぬなら好きな人に溶かして欲しい。ねえ、オカルン」


彼女の大きな双眼に、今にも零れ落ちそうな雫をためながら。


「オカルン、オカルンはウチのこと好き…?」


もちろん、好きだ。好きに決まっている。

けど、自分が答えを出してしまったら、彼女は…


「なんで…綾瀬さん…」


誰に対してかわからない怒りと悲しみが込み上げてきて、気づいたら綾瀬さんをぎゅっと抱きしめていた。このまま離したらどこかへ行ってしまいそうで、ぎゅっと、強く。


「綾瀬さんは、自分以外と結ばれて、幸せになって欲しいって…それが綾瀬にとって- 」

「何それ、意味わかんない…ウチの幸せを勝手に決めないでよ…」

「それでも、!」

「ウチにはオカルンしかいないの!」


きゅっ、と胸が締め付けられるような感覚がした。

大きく深呼吸をしてから、再び彼女を抱きしめ直す。


「…自分も、綾瀬さんが好きです」


その途端に、彼女から大きな涙がこぼれ落ちる。


「オカルン…嬉しい…ウチも、ウチも大好き」

「はい、綾瀬さん、大好きです、」


そして、冷たかった体は徐々に人並みの体温へと変わっていく。


「綾瀬さ…」


パシャリ


と水のはじける音がした。


ついさっきまで腕の中にいたはずの彼女はもういなくて。

彼女の匂いだけが、微かに部屋に残っていた。

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