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階段を降りるたび、空気が変わっていく。
腐った湿気。
冷たすぎる風。
そしてどこからともなく流れてくる微かな笑い声。
ハルカはミチルの腕にしがみつき、震えていた。
「ミチル……ほんとに行くの……?」
「行くしかないでしょ。あの動画……どう考えても“未来の私たち”だよ……」
そんなはずはない。
でも――そうとしか思えない。
階段の途中、ふいにスマホが光った。
勝手に録画モードがオンになっている。
「ちょっ!?なんで勝手に――」
ミチルが確認する間もなく、
録画画面の向こうに“何か”が映った。
階段の下。
真っ暗なはずの空間に――
白い人影が立っていた。
無音のまま、こちらを見上げている。
ハルカが叫び声を飲み込む。
声を出したら、そいつが本当に “来てしまう” 気がした。
ミチルは、震える指でライトを向けた。
――その瞬間。
人影は光に溶けるように、スッと消えていった。
2人は固まったまま、息ができないほどの緊張を抱えながら階段を降り続けた。
階段を降り切ると、
そこは古い病棟のようになっていた。
壁には昔の案内板が残っている。
《B1F:特別隔離室 / 記録保管庫》
「隔離室……?」
ハルカが青ざめる。
ミチルも喉を鳴らす。
「なんか……普通の病院じゃないよね……」
廊下は左右に伸びていて、
両側に、病室のドアがずらりと並ぶ。
ライトで照らすと、部屋番号の下に
“記号のようなマーク” が刻まれているのが見えた。
何かの研究施設みたいだ。
「ここ……本当に病院だったのかな……?」
そのとき、
ハルカのスマホが突然ブルッと震えた。
画面には新しい通知。
『3つ目の動画がアップロードされました』
ミチルとハルカは顔を見合わせる。
「……また勝手に?」
「もう無視できないよ……」
ハルカが再生ボタンを押す。
そこに映っていたのは――
もう1組のミチルとハルカ。
地下のこの廊下で、扉のひとつを必死に叩いている姿。
扉の向こうには、誰かの泣き声。
「やだ……私たち、何してるの……?」
ミチルの声が震える。
そして映像の中の“もう一人のミチル”が
カメラに向かって叫んだ。
『お願い……!
“3番隔離室”を……探して……!
私たちが……閉じ込められてるの……!!』
映像が揺れ、
最後に廊下の奥の部屋番号が映った。
【No.3】
そこで映像は途切れた。
ハルカは涙ぐむ。
「ねぇミチル……どうするの……?
あれ……本当に私たち……なの……?」
ミチルは拳を握りしめた。
「……わかんない。
でも、あれが“未来の私たち”でも、
“別の世界の私たち”でも……」
「助けたいって思う。」
その言葉は、
恐怖の中で唯一の光のようだった。
ハルカは涙を拭き、頷いた。
「……わかった。
じゃあ、“3番隔離室”……探そ……」
ミチルとハルカは歩き出す。
足音が、異様に響く。
――カン……カン……カン……
まるで、誰かが同じリズムで“ついてきている”ようだ。
わずかに振り返ると、
廊下の奥に、白い影が立っている気がした。
ミチルが息を呑む。
「……ついてきてる……?
あの“私たち”じゃないよね……?」
答えは返ってこない。
ただ、影がわずかに揺れた気がした。
暗闇の中に、3つ目の扉が見えた。
【No.3】
赤黒い手形がべったりとついている。
ハルカが小さく声を漏らした。
「……ここだ……」
ミチルは息を整え、ドアに手をかけた。
その瞬間――
中から、はっきりと声がした。
「……ミチル……?」
それは――
間違いなく、ミチル自身の声だった。
「え……?」
ミチルは足がすくむ。
扉の向こうから、さらに声。
「ミチル……助けて……
私、ここにいるの……」
ハルカは震える。
「み、ミチル……これ……ヤバいよ……!
本物のミチルの声じゃん……!」
心臓が壊れそうだった。
でも、逃げられない。
ミチルは覚悟を決めた。
「開ける。」
ハルカは泣きそうになりながら頷く。
「……一緒に開けるからね……!」
2人でノブを握りしめ、
息を合わせて――
ガチャン!
ドアを開いた。
ライトの光が部屋を照らす。
そこにいたのは――
――誰もいなかった。
部屋は空っぽ。
ただ冷たい空気だけが流れる。
「……え……?」
ミチルが呆然とした瞬間。
背後の廊下から声がした。
「見つけてくれて、ありがとう」
振り返る。
そこには――
自分たちと同じ顔をした少女が二人。
ミチルとハルカの“影”が立っていた。
その顔は、涙で濡れていた。