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ある日の17時すぎ。深澤はカフェに1時間ぼーっといた。
仕事が早く終わったのに、誰も捕まらない。でも、まっすぐ帰る気もしない。
ポケットからスマホを取り出して、
グループスケジュールを何気なく開く。
(……全員、今日はバラバラか)
暇そうなのは一人だけ。
阿部亮平。今日は夕方まで取材があったらしい。
深澤は少し迷ってから、1行だけ送った。
[メシ行く? 暇なら]
⸻
🍻
「……ほんとに、暇だっただけ?」
焼き鳥をつまみながら、阿部が笑う。
「んー? 暇だっただけ。何、誘われたこと嬉しかった? かわいいな」
「いや、別に?」
「素直じゃないな、阿部ちゃん」
深澤はビールを煽って笑う。
テンションはいつも通り。
でも阿部は、どこかちょっと違う温度を感じていた。
⸻
🛋
「泊まっていい?」
「いいけど。別に何も出ないよ、うちは」
「知ってる。阿部ちゃんの部屋も冷蔵庫の中も」
深澤は阿部の家に上がるとソファにダイブするように転がって、靴下を脱いで、テレビをつけて、リモコンを放り投げる。
「ふっか、誰の家でもそのテンションでくつろぐの、やめな?」
「だって居心地いいんだもん。阿部ちゃん、文句言わないし」
「……言っても聞かないだけじゃん」
⸻
🌒
ふっかはリビングの床でゴロゴロしていた。
「あーあ、なんかしてぇな」
「何を?」
「なんか、面白いこと。暇って、なんもしたくないときより、手持ち無沙汰でつらくね?」
阿部は、低い声で答えた。
「……じゃあ、する?」
深澤は顔を向ける。
「何を」
「お前の“暇つぶし”になれること、俺ひとつだけ知ってるけど」
沈黙。
深澤は笑った。
「マジで言ってんの、それ」
「断ったら、寝る。断らなかったら……寝る前に、ちょっと遊ぶだけ」
深澤は一瞬、目を細めて――
「……一回だけな」
⸻
🌘
翌朝。
深澤はソファの上で目を覚ます。
隣にいたはずの阿部は、もう起きていて、静かにコーヒーを淹れていた。
「おはよ。帰るならタクシー呼ぶ?」
「んー、いや、帰るけど……お前、昨日のこと、」
「覚えてるよ」
アイドルスマイルの阿部に、深澤は言葉を失う。
「え、いや……お前、ああいうの、気まずくなるタイプじゃん」
阿部は淡々と答えた。
「ふっかとなら平気」
深澤は、そのときまだわかってなかった。
それが“毎月来る”きっかけになるなんて。