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#長編
結愛
329
#地雷系
#夏休み
トド村
44
◆◆◆◆
その後、何人かの女の子達と会話をした。
メルラブには姉妹店がいくつかあり、メルラブの女の子が他店舗にゲストキャストとして行ったり、他店の女の子がメルラブに来たりすること。
アイさんは実は副店長で、接客以外の仕事も多くこなしていること。
コンカフェはキャバクラ等に比べると収入は少ないが、(少なくともメルラブには)ノルマは無く、個人戦ではなくチームで仕事を回しており、キャスト間の雰囲気が良いこと。
等々、もしコンカフェを題材とした作品を作る際は参考になりそうな話を沢山聞くことができた。しかし、楽しい時間が流れるのは早いもので、飲み放題の終了時間が差し迫っていた。
「もうすぐお時間ですけど、いかがなさいますか?」
アイさんの質問に対し博巳は指でバッテンを作りこちらを見る。俺も今日聞いた話を一人で咀嚼したい。それに、もう良い時間だ。
「今日は二人とも帰らせてもらおうかな?」
「承知しました。お会計は別々でよろしいですか?」
「別々で。」
伝票を見ると、思っていたよりも少ない金額で済んでいる。夜のお店は謎のTAXで金額を増しているイメージがあるのだが、メルラブではそのようなことは行っていないみたいだ。
支払いを済ませてアイさんからスタンプカードをもらうと、別のお客様を接客しているマイと目が合い、手を振られる。手を振り返すと軽くウインクをして再び接客に戻った。
奥のボックス席を見るとミィが一生懸命接客をしている。テーブルの上にはショットグラスが山積みになっており、お客様は更にテキーラショットを頼んでいる。ミィはフラフラでまともに立ち上がることもできず、ミィを心配した他のキャストがヘルプに入り、テキーラショットをテーブルに置いて、
「代わりに私が頂いちゃおうかな?」
等と言っているが、お客様はどうしてもミィに飲ませたいみたいだ。
ミィはおぼつかない手つきで、塩とレモンを舐めながら、ショットグラスに入ったテキーラをちびちびと煽る。
「コンカフェはノルマは無いため楽。」
などと、今日、マイの後に付いた女の子が言っていたが、やはりどんな職業でも大変なのだろう。
俺は来た時よりも少しだけ軽くなった扉を開けて店の外へと出た。
◆◆◆◆
新宿駅の東口改札まで博巳の事を送る。男性を改札前まで送る必要は無いのだが、博巳に関しては例外だ。顔立ちが女性のようで背も小さい。声も中性的で繁華街を歩くとボーイッシュな女性に間違えられてナンパされかねない。
以前ナンパをされ、何度男だと否定しても引き下がらず腕を掴まれることがあったのだ。
改札前で博巳を見送り、区役所通りから何本か小道に入ると、黄色い看板に黒い文字で「思い出の小道」と書かれた狭い路地が見えた。その路地にある一軒の焼き鳥屋へと入る。
メルラブとは別の意味で近寄りがたいのれんを潜り、店員さんに1名であることを伝えると、奥の2人がけの席へと案内された。終電まで1時間も無いのだが、明日が土曜日であるせいか、狭い店内には何人もの人が座っていた。
俺は焼き鳥を3本とホッピー(黒)の外、そして氷を頼む。今日は既に十分なお酒を飲んでおり明日に残さないためだ。
氷の入ったグラスにホッピーを注ぐと、グラスの中に炭酸と麦の香りが鼻腔をくすぐる。焼き鳥を一口食べてから、ホッピーで流し込むと、口いっぱいにノスタルジックな味が広がった。
今日、博巳に連れて行かれたコンカフェは、全員可愛かった。全員がアイドル級のルックスであり、採用倍率は恐らくとんでもない事になっているだろう。
その中でもアイさん、マイ、そしてミィは特に小説のヒロインとして抜群の人物であり、彼女達の要素を抜き出してメインヒロインを作り出せば……と、考えたが、どのように頭の中でプロットを切っても、主人公とヒロインが幸せになる未来が想像できない。
「私にガチ恋してよ。」
ミィの言った言葉が頭の中で反芻する。もし、推しを見つけてガチ恋をしたら、主人公とヒロインが幸せになる未来が思い浮かぶのだろうか……。
「簡単に、新たな恋ができれば苦労しねぇよ……。」
ぽつりと呟いた言葉を砂肝と一緒に噛み砕きホッピーで流し込むと、見ず知らずの外国人集団に声をかけられた。
「Why do you put ice in your glass of beer?(何故ビールに氷を入れているの?)」
恐らく観光で訪れたのであろう外国人集団は、酒が入っているようで顔を真っ赤にしながら、ホッピーの入ったグラスを指さしながら陽気に声をかけてきた。少し面倒なので「日本人はビールをロックスタイルで飲むんですよ。」とでも答えてやろうかとも思ったが、日本人はイかれていると思われるのも癪なので、ホッピーの瓶を見せながら、片言の英語で回答する。
「This is Hoppy. This is not beer. (これはビールじゃなくてホッピーですよ。)」
お店の焼酎とホッピーの瓶を交互に指さし、笑顔を浮かべながらマドラーでかき混ぜてから飲むジェスチャーをする。
「Shochu. Hoppy. Mixing. Delicious. (焼酎をホッピーで割ると美味しいんです。)」
我ながら嫌になるほどの英語力だ……。まあ、このグラスには割材のホッピーしか入っていないし普通は氷を入れないのだが、それを伝えるほどの気力はない。
それを聞いた外国人の集団は更に高いテンションで俺に絡んできて、口々にホッピーを頼んでいく。こんな英語でも伝わったことは良かったのだが……。
コメント
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第7話、読ませていただきました!コンカフェの賑やかな空気感から一転、焼き鳥屋でホッピーを飲みながら「簡単に恋ができれば苦労しねぇ」と呟くシーン、すごく染みました。ミィさんの「ガチ恋してよ」という言葉が主人公の中でどう響いているのか、その静かな揺れが丁寧に描かれていて好きです。あと、外国人にホッピーを説明しようと奮闘する場面、ちょっと微笑ましくてクスッとしました。日常の小さな出来事の中に、確かに心の動きがあるんだなあと感じる回でした☕️