テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ズキズキと痛む頭。
思考が纏まらず、散り散りになっていく。
ダメだ。
早くこの設計図を完成させなければ。
これからの作業には、この設計図が必要不可欠なのだ。
ここで休むわけにはいかない。
「うおおおお!!!ヤべー!!!」
外でクロムが叫んでいる。
大方、千空の描いた設計図に感動でもしているのだろう。
「すごいんだよこれ!!」
スイカの声も聞こえる。
ああ、もう少し、声を押さえてくれ。
頭に響く。
「ーーーっ」
外にいるクロムたちの声が、ぐわんぐわんというわけの分からない音に変換されて千空の頭を襲う。
ざあざあと耳鳴りが酷くなる。
……身体が痛い。
数秒遅れて自分が倒れたのだと何とか認識した。
「…………!」
誰かの声が聞こえた気がしたが、それを認識する間もなく千空は意識を失った。
「ヤべーなんだこれ!!」
「どうなっているのだこれは…」
複雑な構図のカラクリに目を見張るクロムたち。
「そういえば、千空が戻ってこないんだよ?」
スイカに言われて気が付く。
結構長い時間千空の姿を見ていない。
小屋に篭ったままなのだ。
「設計図を仕上げると言っていなかったか?」
「言ってたけど…時間かかりすぎじゃねーか?」
今まで、こんなに時間がかかった事はなかった。
時間がかかるなら、一言くらい自分たちに声をかけるはずだ。
何やら無性に心配になってきて小屋に向かおうとした、その時。
「!!?」
「な、なんだ今の音は!?」
モノが複数割れるような激しい音がした。
「小屋の方からだ!!」
クロムが駆け出した。
「千空!!どうし……」
小屋の中を覗いたクロムが固まった。
散乱したフラスコ類と、うつ伏せに倒れている千空の姿が見えたのだ。
「千空…っ!!」
クロムは慌てて千空に駆け寄った。
「あっつ…!」
千空の身体に触れた手を反射的に退かす。
人間の体温とはとても思えない。
「何があった!?」
コハクやゲン、スイカたちも小屋に入ってくる。
「せ、千空が…!!」
クロムが千空を抱き起こし、泣きそうな顔で振り返る。
「っ、酷い熱だ…!」
コハクが言う。
荒い呼吸を繰り返す千空は、かなり辛いのだろう。
眉を寄せたままぐったりとクロムに身体を預けている。
反応が全くないのを見ると、完全に意識はないのだろう。
「な……なんかヤべー病とかじゃねーよな…?」
ずっと高すぎる体温を抱き込んでいるクロムが不安そうに言う。
「……………、」
ゲンが千空の様子を見て考える。
今のところ見て分かる症状は発熱のみだ。
他に症状があるかどうかは、千空本人にしか分からないのだ。
病気の種類も、この3700年後の世界では増えているかもしれない。
症状が変わっているものもあるかもしれない。
そもそも、病気なのかどうかも分からないのだ。
「…………ぅ……っ、」
「!!!」
僅かに呻き声が聞こえたため、慌てて視線を下げる。
「千空…!!」
「………………、」
うろうろと視線をさ迷わせているところをみると、まだ意識がはっきりしていないのかもしれない。
「千空ちゃん、俺が分かる?」
ゲンが声をかける。
「……げ、ん……?…けほっ」
掠れた声で名を呼ばれる。
だが、この様子だと喉もやられていそうだ。
「どこか痛いとか、苦しいとか…ある?」
なるべく理解しやすいように、ゆっくりと話す。
「………あたま、が…」
「頭?痛いの?」
「………われそう…」
虚ろな目で言う千空に、これはヤバいのではないかと思う。
いつもの千空なら、頭が割れそうなんて言葉は使わないだろう。
話し方も幾分か幼い。
相当熱でやられているとみえる。
「千空ちゃ……あれ…?」
ゲンが再び千空に目を向けると、目を閉じていた。
「千空!?」
「……また寝ちゃったみたいだね…」
寝たというよりも気絶に近いが、どちらにせよこの状況は良くない。
科学王国の頭脳である千空が動けないという事は、先に進めないという事だ。
それに、千空以外に薬の知識のある者がいない。
そこが一番の問題だ。
「誰か解熱剤の作り方知ってる人いる…?」
「げねつ…?」
「……………」
一抹の望みをかけて問いかけてみたが、コハクたちは首を傾げるのみ。
「熱を下げる薬なんだけど…」
「そんな薬があんのか!?」
ダメだ。クロムが知らないという事は、誰も知らないのだろう。
「けほっ…けほっ!」
「!」
話している内に咳き込む声が聞こえてくる。
「けほっけほっ…げほッ!」
「せ、千空…!」
咳が酷くなっていく。
苦しげに咳き込む姿は、かつてのルリを思い起こさせるには十分すぎる光景だった。
「げほごほッ!……はぁっ…げほッ!」
症状的には風邪だ。
だが、ただの風邪だと侮ってはならない。
このストーンワールドでは病気=死だと度々言うように、風邪一つでも死に繋がるのだ。
しかも、1度こじらせれば肺炎になる可能性がある。そうなってしまっては厄介だ。
千空は一度サルファ剤を作っていたが、予備はない。作るのには時間がかかる。
「はぁっ…はぁっ…」
せめて熱だけでも下げる事が出来れば、体力の減少を少しでも抑える事が出来るのだが。
「とりあえず俺、なんか使えそうな草摘んでくるぜ!!」
クロムがそう言って小屋を飛び出した。
この村の住民が熱を出した時は、もちろん薬などないため寝て治そうとするらしい。
その際に漢方になる草を煎じて呑ませ、少しでも体力や免疫力を補助するという事だ。
「とりあえず寝床に運んでやろう。ここでは満足に眠れんだろう」
コハクの言う通り、ここは実験を行う場所だ。休むには適さない。
「うーん…天文台が一番いいかなぁ」
あそこなら清潔になっているし、千空にとっても安らげる場所だろう。
「決まりだな」
「えっコハクちゃん…」
ゲンが固まる。
ここで動けるのはゲンとコハクしかいない。
となれば必然的にモヤシではあるが自分が千空を運んでやる事になる…と、思っていたのだが。
「?ゲン、何をしている?」
コハクが首を傾げる。
ぐったりとした千空を横抱きにしたまま。
「……バイヤー…」
忘れていた。
コハクを普通の女子の枠に当て嵌めてはいけなかった。
「にしても軽すぎるな…本当に男か?」
そんな事を呟きながら天文台へと向かった。
「げほっ…げほごほッ!」
「……………、」
ゲンが床に布団代わりの布を敷き、寝かせた千空の上に毛布をかけてやる。
「はっ…はぁっ…」
「…濡らした布を持ってくる」
真っ赤になっている顔に、荒い息。
僅かに震えているのをみると、まだ熱が上がるのかもしれない。
「夜が怖いねぇ…」
熱は夜の方が上がりやすい。
昼間でこれなら、夜になったとき千空は耐えられるのだろうか。
コメント
2件
わーーー待ってました!!😭✨✨千空の体調不良系大好きで…🫶🏻️💞千空を軽々と運ぶコハクちゃん勇ましいし冷静に判断するゲンがかっこよすぎてほんとに尊いです…🫠ありがとうございます…︎💕✨