「綾? どうした?」と聞いてくれる匠。
「あ、うん、そうだ! さっきね、沖縄の写真を見せてもらってたら、思い出したんだけど……」と、
私が高校生の頃、沖縄県に修学旅行に行った時のことを話し始めた。
「うん」
「修学旅行で沖縄本島に行って、首里城とか行くでしょう?」
「うん」
「首里城だけは、先生と生徒全員で入ったのね」
「うん」
「その後は、グループ行動で、何時までに全てのポイントを回ってホテルに戻るっていうルールだったの」
「そうなんだ」
匠は、私の話を頷きながら、嬉しそうに聞いてくれている。
「うん。でね、事件が起こったの!」と言うと、
「何? 事件って?」と興味津々で聞いてくれる。
「友達と3人で回ってる途中にね、私がスマホを落としてしまったの」
「え〜! 綾、よくスマホ失くすよな」と言うので、「この前は、匠の車に忘れただけでしょう?」
と言うと、
「まあ、そうだけど、それにも気づいてなかっただろ!」と言う。
「うん、そうだけど……それ以外は落としたこと無いわよ。
でね……水族館に行ったの」と私は、話を続ける。
「入る前にスマホが無いことに気づいて、たぶん水族館の手前で落としたんだろうなと思って、あの辺りをずっと探してて」
「鳴らしてもらえば良かったんじゃないの?」と言う。
「うん、そう! だから友達に私のスマホに掛けて、鳴らしてもらってたんだけど、音は鳴るんだけど誰も出ないから、しばらく見つからなくて……」
「うん」
「でね、しばらく、ずーっと鳴らしてもらってたら、男の人が出てくれて」
「おお!……」
「『綾! 出たよ』って、スマホを借りて、『今どちらにいらっしゃいますか?』って、『私そのスマホを落としてしまって』って言ったら、水族館の手前の側溝に落ちてたみたいだったのね。で、わざわざ水族館の前まで持って来てくださったの」
「えっ!」
「そうなのよ〜凄く親切な《《人たち》》で」と言うと、
「《《人たち》》って、相手は3人?」と聞くので、
「そうそう! え? どうして? よく分かったね」と言うと、
「綾!」
「ん?」
「それ、俺だよ!」と言った。
「……え? ハハッ、またまた〜ご冗談を〜」と笑うと、
「いや、マジで!」と真剣な顔で言う匠。
「えっ……」
「いや〜! マジかよ! こんなことあるんだ! ビックリだよなあ〜ホントに奇跡だな!」と匠は言っている。
「待って! 本気で言ってるの?」と言うと、
「マジマジ! 俺大学1年の時、男3人で沖縄に行ったもん」と言っている。
「嘘!」
「ホント! で、3人であちこち観光してたら、どこかで小さく音楽が鳴ってるんだよ」
「え?」
「で、3人で音のする方に行って、側溝に落ちてるスマホを見つけたから、電話に出た!」
「匠が?」と言うと、
「うん。で、『水族館の前にいます』って言うから、どうせ今から行くつもりだったから、3人で行って高校生の女の子にスマホを返した」
「嘘でしょう?……それ、私だよね?」と言うと、
「そうみたいだな」
「こんなことってある?」と言うと、
「だよな! ビックリだよな! そっか〜あの時の高校生は綾だったんだ! 可愛い子だなって思ってたんだよな。
あの後、一緒に行ってた友達に『なんで連絡先聞かなかったんだよ!』って責められたもんな」
と笑っている。
まだ私は、放心状態になっていた。
「ホントに?」
「ハハッ、本当だってば」と笑っている。
「こんな偶然……」
「だよな! 俺も驚いた! やっぱり俺たちは、ずっと見えない糸で繋がってたんだよな」と笑っている。
「綾?」
やっぱり私は、泣いてしまっていた。
驚き過ぎたのと、嬉しいのと、色んな感情が溢れ出て来た。
「綾〜」と、匠は、隣りの席に来て私の手を握ってくれた。
「ビックリしちゃった」
「そうだよな」
しばらく落ち着くまで手を握って背中を摩りながら待ってくれている。
そして、少し落ち着いたので、
「大丈夫か? そろそろ部屋に戻ろうか?」と匠が優しく言ってくれた。
「うん」と、ようやく涙を拭いて、匠に支えられながら立ち上がって歩いた。
「大変美味しかったです。ご馳走様でした」と、お店の方にお礼を言っている匠。
私は、「ご馳走様でした」と言うのがやっとだった。
また泣きそうでボーっとしている。
なのに、お店を出て「お支払いは?」と匠に聞いていた。
「チェックアウトの時に、一緒に支払うから大丈夫!」と言う匠。
「そう、ありがとう」
「うん」と微笑んでくれる。
そして、エレベーターの中でも、ずっと背中を摩ってくれて、部屋へと戻った。
そして、匠は、私をそっと抱きしめてくれた。
「驚いたな」と頭を撫でてくれている。
「うん、ホントに、まだ信じられない」と言うと、
「だよな、俺もビックリした」と言う。
「まさか、こんなことって……」
「うん、そうだよな。大丈夫か?」と言ってくれる。
「うん、ごめんね」
「ううん」
「奇跡だよ!」と言うと、
「うん、ホント奇跡だよな」と匠も言う。
そして、私の顔を見て、
「大丈夫か?」と、もう一度聞いてくれた。
「うん。良かった! 匠で」と言うとベッドに腰掛けさせてくれた。
「そうだな。あっ! あの後、時間大丈夫だったのか? 全部回らなきゃって慌ててたみたいだったけど」
「うん、水族館は、私のせいで急いでしか見れなかったけど、おかげ様で無事に回れたと思う」
「そっか、良かった」
と、見つめて、キスをしてくれた。
「まさか、そんな匠と結婚するなんてね」
「うん、思わないよな?」
「うん! ホント奇跡! 運命だよ! 他でも会ってなかったかなあ?」と聞くと、
「う〜ん、もう無いと思うけどな」と笑う匠。
「なあ! あの時、綾はカッコイイお兄さんだな〜とは思わなかったの?」と自分で笑いながら聞く匠。
──気になってるんだ!
「ふふっ、あの時は、そんな余裕はなくて……優しいお兄さんたちだなとは、思ったよ。でも、友達にも迷惑かけてて、時間もなくて焦ってたからね」と言うと、
「だよな」となぜか少し凹んでいる匠。
「でもね、ホテルに帰ってから友達と話してる時、
あのお兄さん優しかったなあ〜って言ったら、どの人が1番カッコ良かった? って話になって……」
「うんうん、で?」と興味津々の匠。
「私が、『スマホを返してくれた人』って言ったら、
2人も『私も!』って言ってたよ!」と言うと、
「返したのって俺? そっか、そっか」と満足気に笑っている。
「ふふっ。それに、『連絡先聞けば良かったのに〜』って私も言われた覚えがある!」と言うと、
「そっか、だよな〜」と、まだニヤニヤしている匠。
「それにね、私、匠には、ずっと言ってなかったけど……」
「ん?」と少し険しい顔になった。
「あの時のお兄さんに、もう一度会いたい! ってずっと思ってたの」と言うと、
「え? マジ?」と言いながらとても驚いている。
「うん! 初恋の《《たっくん》》の次に、会いたい人だったの」
と言うと、
「えっ? それって、どっちも俺じゃん!」と言って固まっている。
「うん! だからビックリしたの!」と言うと、
「クウ〜〜ッ! 綾〜」と又ぎゅっと抱きしめられる。
──私は、ずっと匠に恋してたんだ
「マジかあ〜最高だな!」と言った。
「でも、あの時、私は高2で匠は大学生だったんだもんね」
「うん」
「高校生からすると、やっぱり少し大人だったもの。私はギャルだったけど匠は、オジさん?」
「オジさん! って2歳しか変わらないお兄さんでしょう!」と怒りながら笑っている。
「ハハッ、だって私、まだ未成年だったもん」と言うと、
「そうだよな〜可愛かった〜」としみじみ言う。
「あの時、もし連絡先を交換してたら、付き合ったりしたのかなあ?」と言うと、
「う〜ん、どうかなあ〜? そうかもしれないし〜違うかもしれない!」と言う。
「高校生と大学生だもんね。あ、あの時、匠彼女居た?」と聞くと、
「え? 居なかったから男3人で旅行してたと思うんだけどな……」と言う。
「曖昧な返事! ま、いいっか。 私、彼氏居たもん!」と言うと、
「居たんかい!」と笑っている。
「ふふふっ! すぐ別れちゃったけどね。でも、
遠回りしたけど又匠に会えた」と言うと、
「そうだな、なら、あのタイミングじゃなかったんじゃないかな?」と。
「そうだよね。あの時、連絡先交換しなかったのに、また、こうして会って、結婚することになった!」
「うん! ホント人生なんて、どうなるか分からないな」と言う。
「うん。必要な人とは、必要なタイミングで、何度でも会えるんだよね」
「うん。そうだな。又綾に会えて良かった」
そして、そこからは、いつものように、
キスから始まりそうだったので、
「幸せ」と言うと、
「俺も幸せ!」と言う匠。
「お風呂入ろう〜」と言うと、
「うん、分かった! 入れてくるね」と準備してくれるようだ。
凄い奇跡に驚かされた。
でも、匠と又会えたのは、必然だったんだと思う。
──奇跡! 運命だと思った
凄く幸せだ。