テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
榎本くもりに不正アクセス/1
ふぅ……。
私は伸びをすると、机の上に広げた日記を引き出しに閉まった。
8月17日の分を、書き終えたばかりだ。
……
憂鬱。
もうすぐ夏休みが終わる。
大学1年、秋原千聖
あきばらちさと
みんなからはアキバと呼ばれている。
店長にも、映画を観に行った友人にも、音楽家の友達にも。
大学…ー。
何を学んでいるのか。
日本文学。
和歌とか歌謡を読み込んで、論文をかくなどしている。
夏休みに課題を与えられてしまった。
論文1600文字という課題を!
でも私は比較的文を書くことは嫌いじゃない。
だからそんなに苦しくはないんだけど、
苦しくはないんだけどでも、
まぁ、うん
そうだねー……。面倒なんだよね……。
私はコンテンツを追うのが大好き。
映画とか音楽とかアニメとか漫画とか小説とか伝統とか全部。
それを作品に落とし込むのが好き。
最近はテラーノベルっていう小説アプリを始めてみたんだ。
音楽家の友人に、せっかくインプットを沢山しているなら……って、勧められた。
……
……
「どんな作品かくのかは、決まってないんだよなぁ」
引き出しに日記を閉まってから、呟いた。
ピロン!
その時、机の上に置いていたスマホから通知が鳴った。
「…………菜々子」
渋谷菜々子
その、音楽家の友人だ。
私は菜々子からのメッセージを読んだ。
『テラーもう始めたの?』
……
……
……
始めていない。
何を言っているの?菜々子は。
『始めてないけど️』
『じゃあなにこれ』
菜々子はスクショと一緒に疑問を投げかけてきた。
疑問でいっぱいなのはこっちである。
……
え?
私の日記の内容が、勝手にテラーノベルにアップされていた。
『この内容、私にもカフェで話してくれたよね?
アキバがテラーを始めたにしても、変だと思ったんだよ。』
……
『だって、投稿主は榎本くもり。私たちと全く関係のない人。』
混乱
どういうこと?
私の日記を、榎本くもりが盗んで書いている?
なんで?なんのために……?
『何これ、こわ』
日記はちゃんと、引き出しに閉まってる。
今もちゃんとある。
なんでテラーノベルに公開されてるの?
『とりあえず、明日アキバの家に行くね。』
菜々子から安心できるメッセージが来た。
『ありがとう、心強い。』
そうして翌日になった。
その日はゆるやかな恐怖に眠れなかった。
「アキバ……顔見れて安心したよ」
「こちらこそ、教えてくれてありがとうね」
菜々子が家にあがる。
アキバは母が買ってくれたお菓子と、母が淹れてくれたお茶を用意して、
部屋で菜々子にもてなす。
「いいのに、ありがとう」
「……それで、日記のことだけど」
「うん」
菜々子はお菓子の封を開けて、一口かじる。
円形のクッキー。
噛んで、飲み込む。
そして話す。
「まず榎本くもりは赤の他人。 私はもちろん、アキバのことも知るわけない。」
「…………うん」
じゃあなんで、日記を晒したの?
「アキバ、ここからは私の推測」
そしてクッキーを食べきった。
「アキバに近い人の誰かが、榎本くもりに不正アクセスして、日記を晒したんじゃないかな」
ゆっくりと疑問と恐怖が混ざりあった。
……私に近い人の誰か?
誰が?
なんのために……?
「まぁ、榎本くもりが身近に潜んでいて、榎本くもり自身が日記を晒した可能性も捨てきれないけどね。」
菜々子が加えて言った。
たしかにそうだ。
というか、そう考えるのが一番自然だ。
「……でも菜々子は、そう思わないんでしょう?」
「うん、だって榎本くもりは週に5作品投稿している。創作のことしか考えてない。
とても人の日記を晒す趣味を持っていると思えない。」
なるほど
榎本くもりのプロフィールを見ると、
連載状況が書かれていた。
連載(たまに突然休みます)
日曜 曇天日記
月曜 好きを伝える10秒前
火曜 少女は目を瞑る
水曜 凍てつく街のレアル
木曜 ファーストステラ
金曜 散歩伝記サンパー
……
……週に5個?
「ねえ菜々子、6個あるよ」
「曇天日記、でしょ?それがアキバの日記を晒している連載だよ。 」
「ほんとだ……!」
「でもこれ……うーん、榎本くもりの可能性もあるんだよね。」
「え?さっきは違うって言ってたのに」
「少女は目を瞑る、の最新話が更新されてないの。「突然休みます」なんて注釈もつけて、あえて時間を作っているのが怪しくない?」
アキバはプロフィールに記載されたSNSのアカウントを検索する。
呟いていた。そのことを。
『すいません、少女は目を瞑ると凍てつく街のレアルはお休みです』
……
あえて時間を作っている、と言われたら、もうそうにしか思えなくなってしまった。
とその時、
テラーノベルで榎本くもりが新しい更新をした。
乗っ取られてます!
「……」
「……」
榎本くもり本人が乗っ取られていることに声明を上げた。
菜々子は疑いの目を変えて、内容を読む。
それは曇天日記という知らない連載に混乱している旨を語っている内容だった。
だが、
その数秒後。
アキバは目を見開く。
「菜々子、これって」
「…………うん、不正アクセスで間違いなさそう。」
誰かが、
私の日記を、榎本くもりというアカウントを通じて、公開している。
その事実が決定付けられた途端に、
引き出しに閉まった日記の存在に、恐怖を感じるようになってしまった………。
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