テラーノベル
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彼はいつだって泣いていた。
記憶の中にあるのは彼の泣き顔ばかり。
幼い頃の彼はいつも涙でその瞳を濡らしていた。花が散るように彼は泣く。その姿が儚くて美しくていつも見惚れていた。
心がきれいな彼は辛くても、哀しくても、泣くけれど、嬉しい時はもっと泣いた。だからか、不思議と人に愛された。
出会った時も、別れた時も、彼は桜の花びらが舞い落ちる中で泣いていた。散りゆく桜の花びらのよりたくさんの涙を降らせる彼は幻想的で、触れれば消えてしまいそうに見えた。
まるで桜の花みたいな子だった。
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注意
「」はセリフ
なにもなかったら行動、気持ち
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9月に入ったとはいえ、夏の名残で空気は生ぬるい。温かな風がふわふわと栗毛を撫でるように吹き抜ける。真新しい制服も合服では暑すぎるように感じた。
もしこの気温で学校まではしったならきっと汗だくになってしまう。腕時計を見て悩みながら、雨乃こさめは歩く速度を速めた。
転校初日に汗だくで挨拶するのは避けたいが、遅刻するのはもっと避けたい。今日は初めての登校日なのだから多少の遅刻は大目に見てもらえないだろうか。そんな打算的な考えを頭に浮かべながら、こさめは通学路を早歩きした。
初めて着るセーラー服。スカーフを結うのにこんなに苦戦するなんて、昨夜のこさめは思ってもいなかったのだ。
こさめ) 間に合うかな、遅刻したらお母さんに怒られちゃう…
今朝こさめは「学校まで送ってあげる」という母の申し出を断った。懐かしい故郷の景色を見ながらゆっくり歩きたかったのだ。
通学路の河道は、子供の頃のまま桜並木がずっと遠くまで続いている。夏の茂った青い葉が木陰を作ってくれているのがありがたい。春になれば,桜が花をつけて河道は一面桜色になる。
町の中でもこの道は桜の名所として有名だった。
こさめの故郷はさくら町という小さな町だ。
どこにでもありそうなありふれた名前の町だけれど、その名の通り町は桜であふれていた。その数は尋常ではない。
街路樹や公園など町中に桜が植えられているのは当たり前で庭のある家には必ず桜があると言われているほどだ。
それくらいにこの町は桜を愛していた。
それというのも、その昔、この町に桜の魔女が住んでいたという伝承が残っているからだそう。
そんなさくら町に高校2年の秋、こさめは、6年ぶりに帰ってきた。
小学校5年生の時に引っ越して以来ずっと都会で暮らしていた。けれどわけあってこの秋から故郷のさくら町に帰ってくることになった。
引越しに伴い今日から新しい高校に転校する。
川面に映るセーラー服の自分は他人のようでこさめは不思議な気分になる。
前の学校では白のブレザーだった。新しい制服はまだ見慣れない。こさめは緊張して大きく息を吐く。
こさめ)はぁ…どうしよう、会えるかな。会えたら気づいてくれるかな
帰り道にすれ違うかも。廊下で出くわすかも。もしかしたら同じクラスかもしれない。
彼に会えたら、なんて声をかけようかな。
こさめは、新しい学校よりも、そればかり考えていた。彼、というのは幼馴染のことである。彼に会うのがいちばんの楽しみであった。延々と続く桜並木の下を歩きながら、こさめは記憶の中の彼に思いを馳せる。
家が近所で兄弟のように育った。彼はひどい泣き虫で気弱でけれど、誰よりも優しかった。
そして、初恋の相手だった。
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七星そら
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Nanase*
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コメント
1件
「彼」の泣き顔しか記憶にない、という語り口がすごく印象的でした。桜と涙が重なるたびに、彼の心のきれいさが浮かび上がってくるようで。特に「散りゆく桜の花びらよりたくさんの涙を降らせる」という表現、儚くて美しいのに、どこか哀しさもあって。まだ1話で情報は少ないですが、この語り手と彼の関係性、そしてなぜ泣き顔ばかり覚えているのか、すごく気になります。続きが楽しみです。