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虫も鳴かぬ、澱んだ空気が流転する夜。
衣替えには些か早い夏の終わり
「…」
カンカンカン!
乾いた音を奏でる遮断機に、電車を待つ人々
寂れたバス停に、並んだ送電塔
人知れず漁にでる船、上から漁夫の利を狙う鳶
その全てが…
ある男を……
イラつかせていた
「何でこんな時間まで働いてるんだ俺は…!」
男の名前はミナヅキ レイジ
国内でもゲームシェア率3位ほどの人気ゲーム会社〘コンファイメント〙に勤めている。
彼が勤めているコンファイメントという会社は5年前ほどに設立された会社であるが、急速な勢いでその人気を伸ばし始めている。
ゲーム会社界の麒麟児とも世間では言われている会社だ
では何故そこまでの人気を得たのか?その理由は、その圧倒的な作品数にある。
その作品数…なんと年間400本
平均的なゲーム会社の年間ソフト製造数が数十から百ということを鑑みればそれは異様ともいえる数字だ。
一体なぜそこまでの本数のゲームを作れるのか?
理由は簡単だ
「無理だろうが!1週間で5つも原案考えるなんて!!」
彼のような犠牲が存在するからだ
大学入試に失敗し、第1志望の会社に落ちたが転落人生の始まり。
あれよあれよと会社の面接を盥回しにされ、辿り着いたのが今の会社。
最初の仮入社では、それはもう国宝のように丁重な扱いを受けた。
それに気をよくして、新進気鋭の気持ちで入社してみれば見事に飛んで火に入る夏の虫という訳である
(今思えば撒き餌に誘われた魚だったな…俺)
子の刻を回った今もただ一人働き続けた彼のメンタルは極限に近いものであった。
それは机の上に積み上げられた屍の如しエナジードリンク〘クリーチャー〙が物語っている。
他の社員?みんな仕事を押し付けて帰った
入る前は神さま仏さまだったのに、今では穢多▪️非人同然の扱いである。
「ダメだ… 眠すぎる。このままじゃまずいな」
グッと伸びをして、席を立つ
(少し、外の空気を吸うとするか…)
自分1人しか居ないため、やけにクーラーの冷気が際立つ部屋を出ようとする。
その時だった
座りっぱなしだったためか立ち眩みが生じた
視界がグラッとして、足がよろめく
「おっ…!?」
倒れないために咄嗟に近くにあった机の上のダンボールを掴むが
「おおっと!!」
それはダンボールを勢い良く引きずり落とすだけでそのまま絨毯にコケ落ちてしまった。
ドタッ!
「痛ってぇ…クソが」
ケツの筋肉がジーンといっている
暫くはひびきそうだ
「やれやれ…ん?」
力んでいたため未だ掴んでいたダンボールに視線に戻す
5本の縦シワがついたダンボールには黒の太マジックで雑にこう書かれていた
〘ボツソフト回収箱〙
嫌な予感がした
「…終わった」
結論から言うと
コケた俺を取り囲むように四方八方にゲームソフトが飛び散っていた
その数、ざっと100以上。
作る数が多ければ、ボツになるものも多いのは世の常である
「これ全部片付けんのかよ…だりぃ…」
心を落ち着かせるために、一旦〘クリーチャー〙を飲む
糖分を脳に入れる事で多少は心がを落ち着いてくる
「…やるか」
しゃがんで床の絨毯に落ちたソフトを1つ1つ箱に戻していく
ボツソフトだし雑に戻してもいいと思うのだか、いかんせん零す前にどのような状態だったのか知らないため念の為に綺麗に並べていく。
そんな風に1つ1つソフトを拾うこと暫く
再び時計を見ると、丑の刻を回りかけている
粗方、拾い上げたため絨毯に顔を並行にして何か落ちていない確認する
「お…1個見逃してた」
すると机の脚の陰に隠れていた白色のソフトを発見し、ひょいと拾い上げた
「ふぅ…長い道のりだった」
痛みを訴える腰を押さえながら立ち上がり、何の気なしにそのソフトに目をやると小マジックでこう書かれていた
「〘デュエル・マスターズ 竜王伝〙?」