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そういえば、谷口さんにお土産買ってきます!って言ってたんだった……
僕は出発前に旅館のお土産コーナーでほうじ茶とお饅頭を買った。
本当なら街で色々なお店を巡りながらお土産を選びたかった。
悲しさが胸にじわじわと広がって、目頭が熱くなった。
出発前はあんなに嬉しかったのに。
先輩は遊びなんだ。観光しようって言えば僕が喜んでホイホイ付いて来ると見越して誘っただけ。
ただ、ヤりたいだけ。
先輩は端から観光する気なんて無かったんだ。
◆
ただの遊び相手の僕を、先輩は律儀に家まで送り届けてくれた。
「……祐希、元気無いけど大丈夫?」
ちょっと激しくやりすぎたかな……?なんてブツブツ言っている先輩。
「……大丈夫……です」
優しい言葉も、僕を気遣う素振りも全部、嘘。
どうせ、またヤりたいから僕のご機嫌取ってるだけ。
車から1つずつ荷物を手渡され、旅館で買った谷口さんへのお土産を手に取ると、涙が込み上げて来た。
――谷口さん、先輩はやっぱり遊びだった。僕は騙されていたみたい。
それなのに、浮かれて舞い上がって、僕はバカだ。
――バカみたいだ。
「――……ふっ……ぅっ」
目から涙がぽたぽたと落ちた。
「え!?祐希!?どうしたの!?」
突然泣き出した僕に先輩は狼狽えている。
「……らい……っ」
「えっ?何?」
先輩は少し屈んで僕と目線の高さを合わせた。
「嫌い……っ」
「どうしたの?何がキライなの?」
先輩の手が僕の頬に添えられ涙を拭った。
「きらいっ……嫌い……っ!」
頬に添えられていた先輩の手をぺちっ、とはたいた。
見せかけの優しさは……いらない。
「先輩、キライっ!大嫌い!」
わあぁぁん!と僕は年甲斐もなく大泣きした。
◆
週明け、仕事終わりに【Holiday】へ出向いた僕は谷口さんにお土産を渡した。
「ありがとう!藤原君」
「いえ……」
ほうじ茶、いい香りだな~。と谷口さんは嬉しそうに呟いた。
お土産、喜んでくれてる……もっといろんな所回って、ちゃんと選べたら良かったのに。
じわりと目に涙が溜まってきた。
「ところで初デートどうだった?――って、え、なに何、何事!?」
旅行の時の事を思い出してしまってぽろぽろと涙が溢れた。
「わあぁぁん!!」
僕は谷口さんの前でギャン泣きした。ギョッとした顔で谷口さんは僕を見ている。
「どうした藤原君!?金沢で何が!?ほらほら、泣かないで。お兄さんに話してごらん?」
優しい谷口さんの声に、止まるどころか涙がどんどん溢れ出てくる。
「おーよちよち。泣かない、泣かないよ藤原君。いい子でちゅねー」
赤ちゃん言葉……
谷口さんのおふざけに涙がスッと引いた。
「……谷口さん、からかわないで下さい」
「あ、そこはしっかりツッコミ入れて来るんだね……」
谷口さんはグラスに僕の大好きなラム酒を注いでくれた。
僕はお酒を飲みながら金沢での事、長谷先輩の事を谷口さんに話した。
谷口さんが時々相槌を入れながら僕の話を聞いてくれたおかげで、荒んだ心が少しだけ和らいだ。