テラーノベル
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食事の後片付けを終えると、彼は暖炉前のソファーに座り、本を開いた。
隣に寄り添い、何を読んでるんだろうと覗き込むと、横書きの文字が並んでいて日本語の物ではなかった。
「何語なんですか?」
尋ねると、本から顔を上げ、
「ドイツ語です。ドイツ語は医学用語でも使われていて、嗜む程度には読めるので」
彼が答えて、(嗜む程度で、原書が読めるのかな)とも思う。
「何が、書いてあるんですか?」
私には理解が及ばなくて訊いてみると、
「……例えば、ここ」
と、彼がページの途中を指差した。
「Ich mag dich(イヒ マグ ディヒ)」
急にドイツ語で喋られてびっくりしていると、グッと肩が抱き寄せられて、
「あなたが好きです。という意味です」
と、耳元で言われた。
「Ich mag dich sehr(イヒ マグ ディヒ ゼアー)あなたが大好きです」
続けて囁かれて、ボッと耳が赤らんでしまう。
「そんなに赤くなって、schön(シェーン)……可愛いですね」
耳の縁がすーっと指先でなぞられて、
「や…ん…」
思わず声を上げると、
「ここへ……」と、膝の上に抱えられて、
「君に、ドイツ語をレクチャーしてあげますので」
原文を読みながら、意味を教えてくれた……午後の時間は、温かな暖炉の前でそんな風にまったりと、ごく穏やかに過ぎて行った──。
コメント
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良いな良いな🩷