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〜side葛葉〜
ここは街の中にある総合病院
入り口を抜け、受付で担当だった先生に会えるように手配してもらう
先生にも話を済ませて会計に向かう
支払いを済ませるとエレベーターに乗る
目的の6階に着くと、行き慣れた病室を目指す
コンコン‥‥
「はい」
「準備出来てる?」
「葛葉さん、早かったですね」
「こや‥‥‥‥ロウも早く帰りたいだろうと思って」
「‥‥そうですね」
ベッドの上には畳まれた洋服が並ぶ
それを大きなバッグに詰めていた
小柳ロウ
今日は俺の恋人の退院する日
俺は荷物を詰める手伝いをしてカバンを持つ
「あ、俺持つから‥‥」
「怪我人は黙って着いて来いよ」
「本当に大丈夫なのに」
エレベーターに乗り、下に降りる
小柳は財布を取り出し会計に足を向ける
「会計済ませといたから。出世払いな」
「え?じゃあ今払います」
「は?嘘だよ。いらねーよ」
「‥‥でも」
「ほら、タクシー待たせてあるから早く乗ろうぜ」
スタスタと歩く俺の後を急足で小柳が追う
それに気づき俺は足を止める
「‥‥?‥‥どうかしました?」
「もっとゆっくり歩けよ」
「いや、葛葉さんが早いから‥‥」
「そうだったんだよな。気をつけるわ」
「葛葉さんって面白いですね」
「そうか?普通だけど」
小柳がここに運ばれて来たのが半月前
交通事故だった
倒れた拍子に頭を地面に打ち、おでこを数針縫った
最初の検査でも特に異常は無く、長くても1週間で退院出来ると思っていた
意識が無く運ばれて来た小柳は、縫合し終わり数時間後、目が覚めると俺を覚えてはいなかった
ありとあらゆる検査を受けさせた
でも結果は変わらなかった
心因性なのか外傷性なのか
外傷性の場合は記憶を取り戻す事は難しくなるらしい
俺は病室で不安そうな小柳に、俺達の写真や動画を見せた
どんな風に過ごして来たか、昔話も聞かせた
それでも戻ることがない記憶に気落ちしている小柳の手を離す事は無かった
車が俺達のマンションの前に停車する
車を降り、小柳がマンションを見上げる
「‥‥でか」
「そうか?お前もここに住んでたけどな」
エレベーターの最上階のボタンを押す
小柳は辺りをキョロキョロしながら俺に着いてくる
部屋の鍵を開け、中に入る
「‥‥え?これ‥‥俺が住んでたって‥‥」
「ロウの部屋はこっち。俺の部屋の隣な」
小柳の部屋の扉を開けた
物珍しそうに中を覗き一通り見て回っている
「‥‥こんな良いところで生活してたんだ、俺」
「何か懐かしい物でもあった?」
「いや‥‥それはないかも‥‥」
「良いじゃん。こらからまた新しい思い出を増やしていけば」
「そうですね」
「とりあえずゆっくりしろよ。疲れただろ?」
「ありがとうございます」
急ぐ事はない
ゆっくりで良いんだ
あれから3日
建物に当たる雨の音がうるさい
真っ暗な空に青白い稲光が走り抜ける
俺は自分の部屋の薬の棚に手を伸ばす
一回分を取り出し一度机に置いた
眺める事数分‥‥
薬をフィルムから取り出し水で流し込む
そして俺はゆっくりと小柳の部屋の扉を開けた
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コメント
6件
くずこや見たかった! オメガバで助かります。
毎日の投稿お疲れ様です(´`;) 通知の度に心踊ってます(*´`)
ブクマ失礼しますm(_ _)m