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雪音水綺@全垢フォロ中
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市役所の公園で「変わりたい」と思った自分を、置き去りにしてしまった後ろめさに気付き、いつしか胸の奥をじわじわと苛んだ。
それでも汚点や後ろめたさを、見ないふりをするのは簡単。
でも、なかったことにはできない。
けれどもと、思い悩み。
──最終的にはお母さんからの言葉を思い出した。
『これからは知佳らしい、知佳だけの人生を楽しんでね』
その言葉が胸によぎり、思い改めた。
過ぎ去るだけの時間に頼り、潤との仲を深めるよりも、私の決めた意思で未来を選びたい。
そのほうがどんな結末になっても、私はきっと後悔しない。
奇しくも、潤の『変わらなくていい』という言葉が、結果的に『変わりたい』と思う気持ちを後押ししたのだと思った。
そんな気持ちにくすっと小さく苦笑してから、カフェテリアのポスターも貼り終えた。
「よし、あと一箇所だけね」
ランチタイムが終わったカフェテリアは人が少なめで、ゆったりとした時間に包まれていた。
このまま、私もそこのテーブルに座ってカフェラテでも飲みながらゆっくりしたい、と思いながらも足は元来たエレベーターへと向かう。
考えた結果──私はきっと『姉』という、フィルターを取り払った、本当の自分に自信がないのだ。
素直に感情をと思う前に冷静でなければ、という気持ちがまだまだ勝ってしまう。
それでも前よりかは変化してきたと思う。
それが、先ほどの先輩たちに言われた「明るくなった」という言葉がその証拠だろう。
でも、長年の行動を数ヶ月でまるっと変えられるほど、残念ながら私は器用じゃない。
自信がないから、ついつい潤の『変わらなくていい』という言葉に身を委ねてしまったのだ。
「私も、まだまだだなぁ」
でも頑張るからと、カツッとローヒールを響かせてエレベーターに乗り込み、潤がいるフロアへと向かう。
静かに下がるエレベーター内には誰もおらず、すっと背中を壁に預ける。
そしてポスターを持つ手先を見つめた。
つやつやと輝く爪先。
自分自身の頑張る気持ちとは別に、後押しするものが欲しかった。それがコレ。
つい最近始めた、このネイル。もとい自分磨きだった。
ずっと気にしていた体と、美容のケアをしっかりとやろうと思った。
いきなり体重を落とすとかじゃなくて、体を引き締めるストレッチ運動。
夜はノンカフェインティーでリラックスタイムを設ける。
美容液をちょっと、アンチエイジング向けにする。
リップも血色よく見えるナチュラルカラーと保湿を優先。
爪はいつも丁寧にしていたけれど、ネイルカラーはあまりしなかったから、お洒落も楽しみながら、身だしなみをより整えるとか。
そういった小さなことをコツコツと始めていた。単純だけども、それらを継続していれば、きっと目に見える結果──自信が出るはずだ。
それはきっと迷える私の背中を後押ししてくれるだろう。
その自信を胸に潤には、ありのままじゃなくて。
『こうして変わっていく、私のことも愛して欲しい』と、胸を張って言えるようになるのが私の目標になった。
「指輪代を払いたいから、そんなにはお金は掛けられないけれど、『Uehara』さんのオススメは助かっちゃったな」
『Uehara』さんのweb投稿にグッドボタンを何回か押していたら、ダイレクトメッセージが届き、『グッドを押した内容に興味があるなら、お得なクーポンや友達紹介で割引やサンプルがあるよ』と教えてもらったのが交流の始まりだった。
そういったやり取りのなか、今ではたまにプライベートな会話をすることもあった。
きっと私との交流はインフルエンサーの気まぐれなのだろう。
けれど彼女の会話は、私の友達にはいないタイプで新鮮だったのだ。
『──最近ハイスペのイケメンと結婚できそうになったのに、話が流れてしまったの。えーん。悔しいっ! 逃してたまるかっ』
『Uehara』さんは私に、そういった個人的なメッセージもくれていた。
表には出していない裏話を話してくれたから、親近感を持ったというのもある。
「私は逆に、いい人と結婚できたとは言えなかったなぁ」
他にもちょくちょく飲みに誘われていた。飲み会には海区系女子やIT社長たちが集まって華やかで、楽しいと言われたけれど、私にはあまりにも縁が無さすぎて断っていたりした。
「潤とかは似合うかもしれないけど」
クスッと苦笑すると、ちょうどポーンと電子音がしてエレベーターの扉が開いた。
そのすぐ横が目的の掲示板だけれど、エレベーターを出て、チラッと周囲を見渡しても潤の影はない。家でも会えるのにちょっぴり残念だと思った。
営業フロアよりミーティングルームが多いこのフロアは、落ち着いた時間が流れていた。
その空気に従うように足を静かに動かしながら掲示板に向かい、最後のポスターを貼ろうとしたけれど。
「あ、この高さは届くかな」
掲示板の空いているスペースが上部だけだった。
これは脚立がいるかもしれない。
いや、背伸びをしたらなんとかギリギリいけるかもと、ポスターを持ちながら、掲示板に張り付くように背伸びをしていたら──ふっと私の視界に影が差し込んだ。
あれ? と思った瞬間には、ピンと伸ばした指先に、しなやかな指先が重なった。
突然重なった手にビクッとしながら、すぐに後ろを振り向くと、そこには眼鏡越しに悪戯っぽく笑う潤がいた。
潤は体にフィットしたベストとスーツスタイルを身に纏っていた。今日もカッコいい。
ベスト姿だと腰の位置が高いのがよく分かり、思わず見惚れてしまいそうになる。
空いた手にはジャケットとビジネスバッグのほかに、SACRAのロゴがプリントされた白い紙袋を手にしていた。
「え、潤?」
後ろからまるで私を覆い尽くすような、潤の距離感に体温が上がる。
驚きながらも「どうしたの?」と問いかける前に、潤が私のネイルを指の腹ですりっと撫で上げた。
それから、静かに重ねていた手が離れた。
潤は何事もなかったように荷物を足元に置いて、
そのままテキパキと「このポスターを貼ればいい?」と、高い位置をもろともせずに、私の代わりにポスターを貼ってくれた。
貼り終えると近い距離のまま、柔らかく口元を綻ばせる。
「朝から顧問弁護士の事務所にお伺いしていて、今、外から帰ってきたところ。すると掲示板の前で可愛く背伸びしている知佳を見つけたんだ」
潤の軽やかなトークに私も口元が緩む。
一目会う以上の出来事に、ポスターの貼り替えを頼まれて本当に良かったと思った。
「ポスター貼ってくれて、ありがとう。助かりました。お仕事もお疲れ様です」
私が微笑むと、潤は一瞬、私の口元と手先を見た。
それから眼鏡のブリッジを押し上げ、「問題ないよ」と手を振って、足元の荷物たちを手に取った。
このまま上のカフェテリアで他愛のない雑談とかできたら最高だと思うけれど、今は仕事中。
それに家に帰ったら会える。
名残惜しいけれど一目会えた。
これで残りの仕事も頑張れる、と「じゃあ」と軽い会釈をしてからその場を離れようとしたら、潤は一瞬だけ周囲を見回したあと。私の耳元で囁いた。
「知佳。ちょっと、ついてきて」
「え?」
言葉がまだ耳の奥に残っている間に、潤は歩き出した。
一体どうしたんだろう。
何か変なことを言ってしまったのか。
それとも──疑問に引っ張られるように、私は潤の背中を追った。
コメント
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いやもう、今回のエピソードもエモすぎて胸がギュッとしたよ…😭💕 知佳が「変わっていく自分も愛してほしい」って目標にしたところ、めっちゃ沁みた…! 自分の殻を破ろうとして、でも姉フィルターとか色々あって迷ってるところ、共感しすぎて泣くかと思ったわ。そして最後の潤の「ついてきて」は反則でしょ!! 眼鏡越しの悪戯っぽい笑顔って…想像しただけで尊死必至だよ😇💖 次、何があるの? 知佳の決意と潤の行動、どう絡むんだろ…待ちきれない!!