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「すまねぇな、シン。
だがあんな事態は初めてだったんで―――
つい頼っちまった」
ウィンベル王国王都・フォルロワ……
その冒険者ギルド本部で、私は本部長である
ライさんから謝罪の言葉を受けていた。
「いえ、鬼人族との橋渡しをお願いした経緯も
ありますし。
無関係というわけではありませんでしたから」
そう慰めると、彼は白髪交じりのグレーの短髪を
かいて、
「そう言ってもらえると助かる。
まあこれであのジジイもしばらく鍛冶に専念
しているだろうさ」
ソファに背中を押し付けるように、彼は
荒っぽく座り直す。
「でも―――伝説の金属、ねえ?」
「シンの世界にもあるものが、こちらの世界にも
あったという事かのう?
いや、実在はしていなかったのであろうが」
アジアンチックな人間の方の妻と、欧州モデルの
ようなドラゴンの方の妻が語り、
「どうかなあ。
伝説や伝承に似た鉱石が見つかったので、
それにそう名付けたとか」
「それにしても、シンと同じように食い物にゃ
こだわる種族かあ。
それだけでも、シンと同じ世界から来たんだと
信じられるぜ」
私の答えに、ライさんが続く。
「そういや、鬼人族の1人がこの本部の厨房に
来ているが」
「あ、それは私から頼んだんです。
私の元の国の料理であれば、あちらの方が
プロですので」
そう言うと彼は両腕を組んで目を閉じ、
「そうだろうなあ。
あれだけデカい体で、器用に魚を捌いたり
料理したりするんだ。
あと魔導炊飯器の改良にも相談に乗って
もらって……
そういや今は、公都で魚を生で食える方法を
試しているんだって?」
「そうですね。安全だと確認出来れば、
情報を共有しますので―――」
そう話し合っていると、それを遮るかのように
「それはそうとー」
「ラッチは、もといあの2人はどうしたのだ?」
メルとアルテリーゼがあの二人、サシャさんと
ジェレミエルさんについて問い質す。
「そりゃもちろん、ラッチに構いまくりだろ。
お前さんたちがランドルフ帝国に行っている
期間も長かったし」
それはこちらの責任では無いんだけどなあ、
と思うも口には出さず。
「しかしまあ、そろそろ仕事してもらわんと。
ちょっと呼びに行ってくるわ」
「あ、それなら私たちも」
「我もじゃ」
ライさんが立ち上がると、私たちも遅れまいと
するかのように、彼の後について本部長室を
後にした。
「……というわけで、伝説の金属でちょっと
トラブルがあっただけでした」
一晩ギルド本部で過ごし―――
公都『ヤマト』に帰還した私は、取り敢えず
冒険者ギルド支部でそこのトップに今回の件を
報告していた。
「こっちの『ミスリル』と、シンの世界の
『ヒヒイロカネ』か。
そりゃおかしな事の1つや2つ、起きる
かもなあ」
アラフィフの筋肉質の男性、そしてこの部屋の
主が感想を述べ、
「ちょっとって呼べるトラブルかどうかは
わからないッスけど」
「でもまあ、シンさんが出動したんですから、
イコール解決という事で」
褐色肌の青年と、タヌキ顔の丸眼鏡の女性、
次期ギルド長夫妻が『一段落した』という
表情で話す。
「そういや、そろそろランドルフ帝国に
顔出さなくていいのか?
一応、向こうにいる事になってんだろ?」
「あー、そういえば」
『ゲート』を通って大陸間の移動をしているのは
ごく一部の人間にしか知らされていない。
なので、数日に一度帝国に戻る必要があるのだ。
「じゃあ、またメルとアルテリーゼと一緒に
行ってきます。
その前に、パックさん夫婦の病院に入院
している蛾の魔物の様子を見てから」
私はギルド支部を後にし、パック夫妻の自宅兼
病院へと向かった。
「……蛾の魔物、だったのでは?」
私の問いに、共に白銀の長髪を持つ学者兼
研究者兼医者夫婦が、
「『魔力溜まり』の影響で、変化していた
ようです」
「ですからこちらが、本当の姿という事に」
パックさんとシャンタルさんの視線の先には、
ベッドで上半身を起こして困惑した表情を
見せる、青く透き通るようなミドルショートの
髪の女性がいた。
年齢は二十代半ばだろうか。
そしてその背中には、蝶のような羽があり―――
「意思疎通は出来ますか?」
「多分この人、精霊だよ。
わらわたちと同じなの」
私の疑問に、いつの間にか12・3才くらいの
外見の少女が、声と共に入って来た。
「森の精霊?」
「うん。本人はそう言ってるの。
どうも森が『魔力溜まり』に浸食されてから、
記憶が無いみたいなの」
氷精霊様を介して、
彼女の事情を聞く。
自分がランドルフ帝国の闇闘技場にいた事や、
こちらに運ばれて来た、という事は覚えて
おらず……
目覚めたらこの病院のベッドだったらしい。
「患者―――彼女は何と?」
「希望とか要望はありますか?」
医師としてパック夫妻が問いかける。
氷精霊が森の精霊に質問する体で何事か
話しかけると、
「やっぱり森に帰りたいって言ってるの。
今故郷がどうなっているのか、すごく
気にしているの」
どちらにしろランドルフ帝国には行くつもり
だから、それはそれでいいのだが……
「彼女、人間の言葉は話せないんですか?」
「まだ精霊になってから100年くらいだし、
わらわたちの中では比較的若いの。
それに人間とはほとんど接点が無かったから、
言葉がわからないって言ってるの」
そういえば他の精霊様たちは、数百年前に
封印された魔王とは顔見知りだったし―――
そこそこ人間との接点もあったみたいだから、
スムーズにコミュニケーションが取れているの
だろう。
「わかりました。
では、誰か精霊様が1人通訳としてついて
来て頂いて……
森の精霊様を故郷の地へ戻しましょう」
そこで蛾の魔物―――
もとい森の精霊様を連れて、いったん
ランドルフ帝国に行く事になった。
「とーちゃく! なの!」
二時間ほど後、私は家族と『森の精霊』様と
一緒に、帝都グランドールの大使館内にいた。
結局、通訳として来たのは氷精霊様。
当初は一番大人しくトラブルを起こす可能性が
低い、土精霊様を連れて行こうとしたのだが、
氷精霊様や風精霊様、他女性陣から……
『土精霊様は今、チョコレートの原料である
カカオの生産に集中していますので』
という理由で却下されてしまった。
その理由はどうかと思うが、メルやアルテリーゼ
までが同意してしまったので仕方がない。
また、蛾の魔物は大使館内で治療中という事で
通っていたので、彼女の出現については問題
無かったものの―――
故郷の森に帰りたい、という願いを叶える
ためには、まず彼女をどこから連れて来たのか
調査しなければならないので、
彼女を購入した経緯を知るモンド伯爵家に
つなぎをつけるため、息子であるエードラム君に
会いに、
帝都の冒険者ギルド本部へ行く事になった。
「……エードラム君?」
「あっ、ハイ。シンさん、お久しぶりです」
少し―――というよりかなりやつれた顔の、
ブラウンの短髪にハチマキのような布を巻いた
青年と再会するが、弱弱しく片手を振って来た。
彼の隣りには、ツヤツヤした肌の獣人族の
女性、クエリーさんが対照的に立っており、
それを彼女の兄であるビルドさんが複雑そうな
表情で見つめていて……
「えーと、何が」
あったのかと問おうとしたその時、
メルとアルテリーゼがクエリーさんの手を引いて
離れた場所へ移動する。
(ラッチは大使館預かり)
そして彼女たちは何か小声で話し始め、
「どう? うまくいった?」
「ハイ! バッチリです!
言われた通りきっちり絞りとってから、
兄がモンド伯爵家の『闇闘技場』に身売りした
事などを話して―――
それで、『わたくしも兄も気にしていないし、
どうせ伯爵家とは手を切るつもりでしょう?
だからこの話はもうこれで終わり!』と約束
させました」
「よし、それでよい。
夜の主導権を握ればたいていのお願い・
要請は通る!」
女性は女性同士で盛り上がっているようで、
私はエードラム君の方を向いて例の件を話す。
「へ? あの蛾の魔物って精霊だったん
ですか!?
それで元の森へ戻してやりたい、と……
多分、伯爵家に行けば契約書とか残っていると
思いますので、言えば見せてくれるかと」
「なるほど。
それとここまで来たんですから、一度
ギルドマスターに会っていかれては。
その森がどこにあるのかわかりませんが、
護衛として冒険者を派遣してくれるかも
知れませんし」
ビルドさんの話にそれもそうかと思い、
メルとアルテリーゼを呼ぼうとしたが、
なぜか受付の女性まで交じって盛り上がって
いたので―――
私たちはそのまま、ギルドマスターの部屋へ
行く事にした。
「蛾の魔物が『森の精霊様』ねえ。
精霊様が『魔力溜まり』にやられたら
魔物になる可能性があるのか……
非常に興味深い案件だ」
目付きの鋭い、シルバーの短髪の男性―――
ベッセルギルドマスターがこの部屋と組織の
主として対応する。
「やっぱり、珍しい事なんでしょうか」
「珍しい、というより例が無いんだよ。
『魔力溜まり』は極力近付かず、放置して
収まるのを待つしかない、というのが現状の
対応方法だからね。
ちなみに、その精霊様が帰ろうとしている
森は、もう『魔力溜まり』は収まったのかい?」
私の言葉に彼は聞き返してきて、
「いえ、行ってみない事には何とも」
「それで、もし場所が特定出来たら……
俺たち『月下の剣』がシンさんたちを
護衛したいんだが」
続けて魔力銀クラスパーティーのリーダである
エードラム君がベッセルさんに提案するが、
「それは許可出来ないね」
と、あっさり否定される。
「ど、どうしてですかギルドマスター!」
ビルドさんが立ち上がって抗議するも、
「落ち着きたまえ、ビルド。
意味が無いと言っているんだ」
「な、なんだよそりゃあ」
パーティーリーダーも言い返すが、
「そもそも『魔力溜まり』に対する依頼なんて
受けられないんだよ。
解決方法が無いんだからさ。
そこへ突入させるんだったら許可は
出せないし……
ただ確認して来るだけなら―――
ミスリルクラスパーティーの護衛なんて
必要ないんじゃないか?」
なるほど……
行先が『魔力溜まり』の依頼なんて許可する
わけにはいかないし、
ただの護衛なら、そもそもミスリルクラス
パーティーを出すような案件じゃないという
事か。
第一、戦力的にはこっちにドラゴンもいるしな。
「それに君たち『月下の剣』も、好き勝手に
動ける立場じゃないだろう?」
それを聞いたリーダーとメンバーの獣人族は
黙り込む。
「?? どういう事ですか?」
思わず私が疑問を口にすると、
「今、『月下の剣』はギルド本部で一番人気の
パーティーなんだ。
人間獣人混合、それでいて他が敬遠する依頼も
率先して引き受けてくれる。
彼らの活躍で、獣人に対する差別意識も
改善されつつあると言ってもいい」
そういえば、この前来た時も似たような事を
言われたな―――
と思っていると、
「そこへ来て、彼らに『魔力溜まり』絡みの
依頼を許可したなんて知られたら……
この冒険者ギルド本部の信用が傾きかねない。
せっかく獣人や亜人に対するイメージ向上も
水の泡だ。
組織のトップとして―――
それは容認出来ないんだよ」
確かに、『月下の剣』の活躍に水を差す
どころか……
人外に対する扱いが逆戻りしてしまう危険も
はらんでいるわけか。
そりゃギルドマスターとしては、許可出来ない
よなあ。
それを聞いてしゅん、と肩を落とす
エードラム君とビルドさんに向き直すと、
「ええと、気にしないでください。
森の精霊様の故郷がどこか調べに来ただけ
なんですから。
それよりモンド伯爵家への確認をよろしく
お願いします。
これはエードラム君にしか頼めない、
『依頼』ですから」
「あ、ああ。それくらいは任せてくれ」
『月下の剣』のリーダーにその『依頼』を
すると、その後は雑談という情報共有に
入った。
「……あれ?」
私と『月下の剣』の男性陣二名が受付まで
戻ると、そこに妻たちの姿はなく、
珍しい事に男性職員が受付カウンターに
座っていた。
「あのー、ここに3人ほど女性がいません
でしたか?」
私が妻たちの行方を彼に聞いてみると、
「は、はあ。
多分その方々であれば、受付の女性たちと
共に場所を移動してしまいまして。
なぜか自分がカウンターを任される事に……」
何しているんだろう、あの二人。いや三人。
「理由とか言ってましたか?」
「ええと、特には―――
あ、去っていく時に、
『新しい技を伝授する』
『帝国にも技術を広げる』
とか何とか言っていたような気が」
何しているんだろう、本当に。
心無しか話を聞いているエードラム君の顔色が
青くなっていくのは気のせいだろうか。
結局、妻たちが帰ってくるまでその場で
待つ事にし……
その間に『月下の剣』リーダーには、
モンド伯爵家へ行ってもらう事に。
小一時間ほどしてメル・アルテリーゼ・
クーリエさんが戻ってくると―――
そこで私は妻たちと大使館へ帰るため、
獣人族の兄妹と別れた。
「それでどうなりましたか?」
大使館に戻ると、多分ラッチが来た事を
知ったであろうティエラ王女様がいたので、
情報を共有する。
「エードラム君に森の精霊様をどこで
捕まえたのか、業者からの情報を
ギルド本部経由でこの大使館に送って
もらう事にしました」
彼女はラッチだけではなく、氷精霊様も
一緒に抱っこしながら話を聞き、
「そうなりますと……
早くても移動は明日以降になりますね」
「はい。それでランドルフ帝国に出国と遠出の
許可を頂きたいのですが」
すると、王女様はパープルの長髪を少し首を
振って揺らし、
「それなら、わたくしが伝えた方が早いですわ。
これでも皇族の末席に名を連ねておりますし」
「しかしその、氷精霊様?
よく大人しくしているねえ」
「意外というか何というか」
「ピュイ」
ティエラ王女様に抱かれている氷精霊様を見て、
家族は素直な感想を述べる。
「ラッチも一緒だし、仕方がないの。
それに森の精霊にはわらわがついていないと
いけないし」
その森の精霊様はというと―――
ティエラ王女様の隣りに、人間と同じように
大人しく席についていて、
「あ、うん大丈夫なの。
今場所を調べているんだって。
わかり次第、あなたの森へ向かうの」
氷精霊様がそう言うと、森の精霊様は安心した
かのように微笑んだ。
翌日……
大使館に、冒険者ギルド本部から書類が
届けられた。
言うまでもなく中身は森の精霊様が蛾の魔物に
なっていた時、どこで捕まっていたのか場所を
示すもので、
恐らくはギルドでも調べて加えられたであろう、
地図も備わっていた。
「ちょっと遠いな。
まあ魔物だったし、そりゃ人が住む場所には
いないか」
側では私の妻たちも地図をのぞき込み、
「アルちゃんに乗ったらどれくらい?」
「そんなにはかからんだろう。
―――というよりこの場所、何か覚えが
あるのだが」
「ピュイ?」
アルテリーゼが来た事がある場所?
と思って私も首を傾げるが、
「もしかしてここ、あのケンタウロス族が
いたところに近くない?」
「そうじゃ、思い出した!
そうそう、そこだメルっち!
……とはいえ、あの近くに森なぞあったか?」
あー、土精霊様がさらわれたところか。
(■187話 はじめての けんたうろす参照)
だけどドラゴンの方の妻が言う通り―――
あの近くに森などあったっけ?
「地元の住人……
ロナトさんに聞いた方がいいかな」
私はケンタウロス族の長、ロナトさんを
思い出し、彼らに協力を要請する事を思いつくと
同時に、彼らへのお土産を準備する事にした。
「シン、よくぞ来た。
我ら、歓迎する」
森の精霊様の情報をもらってから、結局
料理や贈り物の選定に手間取り―――
さらに帝国の出国許可審査も重なって、
彼らケンタウロス族を訪問するのは、
二日後になってしまった。
「お久しぶりです、ロナトさん」
焦げ茶の髪を、まるで馬のたてがみのように
なびかせ……
半人半馬の集団の族長が、私と握手する。
「今日はお願いがあって来ました。
取り敢えず贈り物をお納めください」
そこで彼らに手土産を渡し、
「感謝する。
しかしシン、強い。
我らよりもよっぽど―――
それはいかなる、願い?」
「それはまあ、食べながら話しましょう」
そこで宴を用意され、メインには私たちが
持って来た料理が並べられた。
「精霊様が住む森、どこか?
少なくとも見渡す限りここ、森ない」
彼の言葉通り、周囲をぐるりと見渡しても
森らしき場所は見当たらない。
「でも、彼女が帰りたいって言ってるの」
氷精霊様が話すと、ロナトさんはジッと
彼女を見つめ、
「わかる。土精霊様と同じ匂い、する。
疑う、ない。
しかし無いもの、無い。困った」
族長は眉間にシワを寄せるが、そこで彼と同じ
ケンタウロス族の一人が、
「俺、森の精霊様の気配、知ってる。
多分、向こう、近い」
それを氷精霊様経由で伝えられると、
森の精霊様の表情がパアッと明るくなるが、
「だが、あそこ悪い気配、する。
我らもめったに近付かない、森ある。
おそらく、そこの森、多分。
それか、近い森」
その場所を地図を見せて確認してもらうと、
大陸中央寄りになるらしい。
たしか大陸中央には未開拓地があり、
そこには森があって、そこが緩衝地帯のような
場所になっていると聞いた事があるが……
「実は、彼女の森は『魔力溜まり』になっていた
ようなのです」
そこで私が事情を話すと、ロナトさんはさらに
力を込めて両目をつむり、
「我らに出来る事、ない。
あれは災厄。
ただ時が過ぎ、流れる、待つ」
「一目見るだけでもいいのです。
もしくは、まだ『魔力溜まり』にやられて
いない、近くの森に移るとか」
もちろん、そこは私が『無効化』させる
予定ではあるが、トップシークレットの
ため彼らには返答を濁す。
「わかった。近場まで案内、する。
もしダメなら森の精霊様、我らが集落へ。
お世話、させて頂く」
族長が馬の半身の前足を折りたたむように
しゃがみ、精霊様二人に敬意を示すと、
他のケンタウロス族たちも彼に倣い、
その身を屈めた。
「族長、あれ。
でもまだ悪い気配、ある」
三時間ほど道案内にロナトさんと、もう一人
場所を知っている若者を先頭に走ってもらい、
私たちはアルテリーゼに乗って、上空から
ついていき……
目的地前までたどり着いた。
「よく見えますね。
いえ、空からは何とかわかりましたけど」
「まあ、アルちゃんならひとっ飛びだし?」
地上に降りた私の目からは地平線しか
見えないが、確かに上空からは遠目に
森のような場所が確認出来た。
「我ら、ここから先、行けない。
ここ、待つ」
「ありがとうございます。
戻れるかどうかだけ確認して来ますので。
それではお待ちください」
族長にあいさつし、私たちは再び空へと
舞い上がった。
それを見届けるように見上げる、ケンタウロス族
二名は、
「族長、どう、思う?」
「氷精霊様、強い。
精霊の力、土精霊様、同じくらい。
今の季節、冬。奇跡、起こる、知れない」
飛んで行った先を見つめながら、彼らは
事の成り行きをただ待った。
「ううむ、聞きしに勝るというところか」
「シン、アルちゃん。
これめっちゃヤバいよ」
森の入口付近に着陸すると、アルテリーゼと
メルがまずヤバさを伝えてくる。
見ると、森の精霊様の様子もどこかおかしく、
寒さに耐えるように震えていて、
「シン、早くするの。
このままだと森の精霊、キツいの」
氷精霊様も早く『無効化』するよう促してくる。
私のこの能力は隠す必要があるが、森の精霊様は
幸い人と意思疎通は出来ない。
バレたところで問題は無いだろう。
私はかつて、チエゴ国の魔狼がいたとある森を
『無効化』させた時のように、
「理性を保てなくなる、正気を失う……
そんな魔力など
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくようにして森へとてをかざす。
すると―――
「うわ」
「相変わらず凄まじいのう、シンの力は」
まずは妻二人の反応で、『魔力溜まり』の
無効化を確認し、
「……もう大丈夫なの。
森へ帰っても、平気なの」
そう言う氷精霊様の横で、森の精霊様が
跪き―――
祈るように両手を合わせて森へ向かい、
涙を流していた。
「お待たせしました、ロナトさん」
森の精霊様はひとまず故郷に無事戻す事が出来、
私たちはケンタウロス族の二人が待つ地点まで
戻ったのだが、
なぜか彼らは二人して馬の半身の前足を
跪くように折り、
「氷精霊様、奇跡、しかとこの目で」
「どうか我らの歓迎、受ける。
伏してお願い、する」
「はひ?」
そう族長ともう一人のケンタウロスに言われた
彼女は、目を点にして固まった。