「拓哉と弘美さんから話は聞いているわ、なんて可哀そうな子!もう体はいいの?殴られた所は? 」
あんまりにも母がオイオイ泣いて大騒ぎするので、かえって私は冷静になってしばらく母が落ち着くまで抱きつかせて泣かせた
こんなに心配をかけていたんだと思うと、申し訳ない気持ちが一気に沸き起こる
私も涙が込み上げてきたけれど、なんとか舌を顎の上につけて昔ながらの涙のこらえ方を実践した
母に手を取られ、離れにいる父の部屋を案内されている時に新しい別荘を見渡した
家の中はまるで美術館さながらだった、広い廊下、見上げるばかりに高い天井、壁にかかっている絵にはそれぞれスポットライトが照らされていた
母が嬉しそうに言った
「さぁ お父さんに会ってやって、貴方が来ると聞いて朝からずっとソワソワしていたのよ 」
案内された離れの一室は、とても広々として俊哉と住んでいたアパートをそっくり入れてもまだ余っているぐらいだった
私の目はすぐに奥のこれまた、ただっ広い書斎のオーク材の机に座っている父に止まった
いつもきちんとした服装をしている父だが、今はコットン素材のスエットを着ていて、傷を負ったライオンのようだった
「昨日から少し風邪気味なの、でも少しもベッドで寝てくれないのよ」
母がそっと耳打ちをする
母がお茶を入れてくるとキッチンに向かって、私はしばらくドアの入り口に立って父を観察していた
都合よく父は私が何か言うまで、私の存在を無視するつもりだ、今は大きく新聞を広げて読みふけっているフリをしていた
少し・・・小さくなった気がする
父はどんなことがあっても仕事を優先していた、でも今ならわかる・・・
俊哉の2年間で男性にもいろんな種類があるんだと気づいた
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!