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私は俊哉の仕事の愚痴をうんざりして、黙って聞いていた頃を思い出していた
彼の口癖は「それは俺の仕事じゃない」だった
彼はとにかく努力したり、不必要に働かされるのが嫌いで、自分の損になることを極端に嫌った
そして休日はダラダラと酒を飲んでただ時間を過ごした
一方この父は、幼い頃はいつも仕事で家にいなくて寂しい想いをしていたものの、それはいったい誰のためだったのかと今では考えることが出来た
父はいつも家族のため、会社の従業員のため、そして自分が損な役割をしていても、文句のひとつも言わず、ただ黙々と働いた、父は決して何事からも逃げなかった
日に焼けすぎて黄土色をした肌、干からびた土のようなカサカサした手・・・
父の体つきは力仕事の労働者そのものだった、急に愛おしさが込み上げてきた、同時に申し訳なさと・・・
「パパ・・・」
私は数歩で近づき、背中からそっと父に抱き着いた
「帰ってきおったか・・・この馬鹿者め・・・」
しばらく間をおいて私はこう言った
「パパの言う通り、私って本当にどうしようもない大馬鹿者よね・・・ 」
やっぱり我慢していたのに涙がこぼれた
「ふん!今気づいただけマシじゃないか」
「そうね・・・」
皮肉すぎて思わず笑ってしまった、しかし父の言葉には温かみがあった
「あいつはお前の財産目当てのヒモになりたかったんだろう、だけどお前がそうさせなかった、お前は私に似て自尊心が強い、自分の力で成功しようとしたんだ。それがアイツには気に入らなかったんだろう」
これほど認めたくないと、今まで目をそらしていたものに、真向から確信を突く人はたぶん、この人以外にいないだろう
「私・・・結婚に失敗したわ・・・」
ぐすんと鼻を鳴らして、父の書斎の前のオフィスソファーに座った
「成功だけが人生じゃないだろう、むしろ失敗の方に学ぶべきものが沢山あるさ・・・まぁ・・・ワシもこの年になって失敗ばかりしておるしな・・・」
父が丼ぐらいある大きなガラスの灰皿と葉巻を持って私の前に座った
「パパも?・・・何に失敗したの? 」
私はそう尋ねた、父は優しい瞳で私にこう言った
「私が若かった頃・・・幼い娘と十分に過ごす時間が持てなかった・・・しかしあの頃はそれ以外に道はなかった、しかし目標としていたものをすべて手に入れた今、過去を振り返り・・・やり残したいくつかの重要な事が見えるようになったのさ・・・」