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19話 「少しだけ近づいた距離」
村での依頼を終え、俺たちは宿に泊まることにした。
昼間の追跡者騒ぎのせいで、馬車で王都へ戻るには時間が足りなかったのだ。
宿の二階、木の香りがする小さな部屋。
窓からは村の灯りが点々と見え、虫の声が夜の空気を満たしている。
「ルーラ、今日はありがとう」
湯気の立つスープをテーブルに置きながら、ミリアが笑顔を向けた。
「……別に。自分が危なかっただけ」
ルーラはそっけなく答えたが、耳の先が少し赤い。
夕食後、俺は部屋の片隅で荷物の点検をしていた。
その時、背後から小さな声。
「……あのね」
振り返ると、ルーラが手のひらサイズの木彫りを差し出してきた。
「村の人がくれた。……お礼、だって」
それは小さな猫の彫像だった。
丸まって眠っている姿がやけに可愛い。
「俺に?」
「……三人で、だって」
目を逸らしながらそう言うと、ルーラはベッドに飛び乗り、毛布を頭からかぶってしまった。
ミリアがくすくす笑いながら俺に耳打ちする。
「少しずつ、心を開いてるみたいだね」
「ああ……そうだな」
その夜、机の上で月明かりを浴びる木彫りの猫は、どこか暖かく見えた。
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