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「……よし、これで大丈夫ですね。」
イリアが最後にガラス片を集め終え、ちりとりの中身を確認する。
「えぇ、お疲れ様です!」
プリムローズがほうきを片付けながら、ほっとしたように息をついた。
「お手伝いありがとうございます。」
「お易い御用ですわ!」
ようやく元通りになった床を見渡し、プリムローズはひとまず満足げに頷いた。
「皆さま、朝食……。」
改めて声をかけようとした、その時だった。
「……ねぇ…こんなこと言うのもなんだけど……。」
ナターシャがぽつりと切り出す。普段より低い声に、場の空気が一瞬で引き締まった。
「どうしたんですか?」
ラグドールが首を傾げる。
「……ここにいるみんな、本物だよね…?」
その一言に、誰もがわずかに息を詰めた。
(……確かに…ナターシャさんの言う通り、ここにいる皆さん全員が本物とは…。)
イリアの胸の中で、小さな不安がじわりと広がっていく。
考えてみれば、誰かが自分の姿で平然と会話に加わっていても、おかしくはなかった。
「……わ、分かりませんけれど…皆さま本物…ですわよ…!ね……?」
プリムローズが誰にともなく確認を求めるように、周りを見回す。
「……あ、あたしだって…みんなを疑いたいわけじゃないんだよ…?」
ナターシャは慌てたように付け加えた。
「ただ……ちょっとだけ心配で…。」
「コピー…普通に会話してたじゃん。」
その一言に、朝のラグドールとのやり取りを思い出したのか、何人かの表情がわずかに曇る。
「……まぁ、そうだけど。でもあれくらいなら見抜けるよ。」
ミシェルが腕を組みながら言う。
「それは…あのコピーのヴェルクが模倣下手だっただけ。」
「確かにそうでしたね。ずっと椅子座って死んだ目してましたし。」
ラグドールが思い返すように苦笑した。
「うん。普通に廊下歩いているし…キョロキョロしてるし…やたら機嫌良さそうで気色悪かった。」
「それはただの悪口ですよ…。」
イリアが思わず苦笑する。
「コピーの悪口くらい許可してよー。」
ミシェルが肩をすくめた、その時――
「……。」
廊下の方に、ふと人影が見えた。
「……?」
ナターシャが何気なく視線をやった、次の瞬間。
「…ひっ……!?」
そこに立っていたのは、紛れもなく自分自身の姿だった。
「えっ……あ、あれ…ナターシャさんのコピー…?」
イリアが思わず身構える。
「ま、まずいですわ…!?ナターシャさん、早く物陰に…!」
プリムローズが咄嗟にナターシャを庇おうと腕を伸ばす。
イリアもその動きに合わせようとした。
「ま、待って…!」
だが当のナターシャは、意外にもその場から動こうとしなかった。
「えっ、ナターシャさん…?」
「……こっち…来ない。」
じっと様子を窺うように、ナターシャは自分のコピーを見つめていた。
「確かに…敵意とか殺意、全然感じませんね。」
ラグドールも慎重にその気配を探る。先ほどのイリアのコピーとは、明らかに違う静けさだった。
「……!」
コピーのナターシャは、ただぼんやりとこちらを見返していたが、皆に視線を向けられていることに気づくと驚いたように身を翻し、廊下の奥へと姿を消した。
「あ……。」
「に、逃げられちゃいましたわ…。」
プリムローズが拍子抜けしたように呟く。
「……あれが、あたしのコピー…。」
ナターシャは去っていった廊下を、しばらく黙って見つめていた。
「思ってたよりも…今のナターシャさんと変わりませんでしたね…。」
イリアがほっとしたように息をつく。
「まぁ確かに…。イリアを思えばだいぶマシじゃない?」
「そうですね。」
ミシェルとラグドールが揃って頷いた。
「……んー…コピーって、てっきり必ず敵対してくると思ってたんですけど…違うみたいですね。」
ラグドールが考え込むように顎に手を当てる。
「そうですね…。」
イリアも静かに同意した。
「ってことは、必ずしも出会って即戦闘になるわけじゃないっぽいね。」
ミシェルが結論づけるように言う。
「そ、それは助かりますわ…!」
プリムローズが胸を撫で下ろした。
「…うん、ちょっとだけ安心…。」
ナターシャもわずかに肩の力を抜いたようだった。
「…なんで私のコピーはあぁなっちゃったんでしょうね?」
イリアがふと、先ほどの出来事を思い返すように呟く。
「犯人の気まぐれじゃない?」
ミシェルがあっさりと返す。
「そうですかね…。」
納得しきれないまま、イリアは小さく首を傾げた。
「……今思えば…今朝のナターシャさん、コピーだったんですわね。」
プリムローズがはっとしたように口にする。
「確かに…そうですね…。」
イリアも頷いた。
「え?二人はナターシャさんのコピーに会ってたんですか?」
ラグドールが驚いたように目を見開く。
「あぁ、はい…言ってなかったんですけど…。」
「…そうなんだ…。」
ナターシャは軽く目を伏せた。
ちょうどその時、しん、と訪れた静寂の中に、小さく情けない音が響いた。
「も、申し訳ありませんわ!!」
プリムローズが真っ赤になった顔を両手で覆い、慌てて頭を下げる。自分のお腹から出た音だとは、言われなくても一目瞭然だった。
「ふふっ、お腹空きましたね。」
イリアが場を和らげるように、くすりと笑った。
「もう八時半だよ。」
ミシェルが時計を見上げて呟く。
「…朝食、今から食べよ…?」
「は、はいっ!」
プリムローズが元気よく頷いた。
「それなら、私ララビットとローラさん呼んできますよ。」
ラグドールが軽い足取りで申し出る。
「あっ、助かります!じゃあお願いしますね。」
イリアがほっとしたように微笑んだ。
「はーい。」
ラグドールは軽く手を振ると、廊下の向こうへと歩き出した。
朝の光が差し込む食堂には、ようやく落ち着きを取り戻した空気が戻り始めていた。
コメント
2件
作者コメント┊︎ プリムちゃんがいなかったらお通夜でした
うわあゑぬ。さん更新ありがとうございます😭💕 今回の話、コピー問題が本格的に疑念を生んでる感じがめっちゃ伝わってきた…!特に「本物だよね…?」ってナターシャが切り出すシーン、読んでてこっちまで息止めちゃったよ。「コピーの悪口くらい許可してよー」とかミシェルっぽい軽さもあってバランス良きだった♡ そして最後のプリムローズのお腹の音で空気が和むところ、めっちゃ好き〜!!!日常が戻ってきた感じがしてホッとしたよ🌸✨ 次回も絶対読みます!!