テラーノベル
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ステージの上、照明の熱と歓声がこさめの耳を包む。
🎼☔️(いける。今日は大丈夫……)
薬も飲んだ。フェロモンも抑えてある。
ただの撮影イベント。踊るわけじゃない、立って笑って喋るだけ。
そう、何も問題ないはずだった。
……なのに。
「こさめくん、顔色悪くない?」
スタッフの声が、遠くに聞こえる。
気づけば、世界が少しずつ傾いていた。
🎼☔️「……っ、あれ……?」
足元がふらつく。
視界の端が滲んで、頭が重い。
🎼☔️(うそ……さっきまで……平気だったのに……)
「こさめくん!? 座って、今すぐ!」
慌てて駆け寄ってきたスタッフに支えられながら、
こさめは楽屋のソファに崩れるように倒れ込んだ。
汗がにじむ額。早すぎる心音。
喉の奥からこみ上げる、αを求めるような熱。
🎼☔️(……まさか、ヒートじゃ……)
でも、違った。
これは――番になったあとの“副作用”。
αの匂いを過度に欲する身体に変わった自分が、
薬やストレス、距離によって平衡を崩してしまう現象。
番に刻まれたΩには、ときおり起こる。
🎼☔️「……っ、なつくん……」
助けて、とは言えなかった。
でもその名を呟いたとき、ドアが勢いよく開いた。
🎼🍍「こさめ!」
なつが駆け込んでくる。
視線が交差した瞬間、こさめの全身から張りつめた糸が切れる。
🎼☔️「……っ、なつくん……おそく、ないよね……?」
🎼🍍「遅いわけないだろ。呼ばれたらすぐ来る。番だからな」
そう言って、なつはすぐに周囲のスタッフを追い出すように指示した。
🎼🍍「すみません、うちの子、ちょっと持病があって。
このまま控室で安静にさせます。
イベントのことは事務所に対応させますので」
低く、丁寧で、でも抗えない威圧感。
スタッフは一瞬で従い、ドアが閉められた。
ふたりきりの空間。
なつは無言で、こさめを抱き寄せた。
🎼🍍「また、こうなる前に言えって、言ったよな」
🎼☔️「……でも、仕事……したかったから……」
🎼🍍「無理してステージ立って、お前が壊れたら意味ないだろ。
俺が守ってんだよ、お前の全部」
🎼☔️「……なつくんのこと、呼んだのに……ちょっと、こわくて……」
🎼🍍「怖いのは当然。俺の番なんだもんな。
でも、絶対見捨てない。
お前が崩れても、泣いても、どんなに弱くなっても――
俺だけは、お前のそばにいるから」
こさめは、なつの胸に顔をうずめた。
独特のαの匂いが、身体の奥に入り込んでいく。
🎼☔️(このにおいがないと、もうまともに呼吸もできない)
🎼☔️「こさめ……もう、アイドルやめなきゃダメかな……」
ぽつりと漏らしたその言葉に、なつは目を伏せた。
🎼🍍「……やめた方が、お前の身体のためにはいい。
でも、やめさせない」
🎼☔️「……え……」
🎼🍍「お前が笑っていられる場所、奪いたくない。
お前が、自分で立ってられるなら……ステージは残す」
🎼☔️「なつくん……」
🎼🍍「でも、その代わり。
全部、俺に預けろ。体調も、スケジュールも、心も。
少しでも危ないと思ったら、俺が即座に止める。
それでもいいなら、――アイドル続けていい」
こさめは、迷わずうなずいた。
🎼☔️「……うん。お願い、なつくん。こさめ、全部あずける……」
🎼☔️(これが依存でも、支配でも――
それで立っていられるなら、こさめはそれでいい)
なつは静かに笑って、
こさめの首元に軽くキスを落とした。
番として、支配者として、マネージャーとして。
このΩを、生かすのは自分しかいない。
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