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「キール、足は大丈夫ですか?」
「ここでしばらく休憩すれば、大丈夫」
キール様が笑顔でわたしに応える。
でも、その額には汗が滲んでいる。
ボートに3人で乗り込んですぐに、キール様の足の状態を確認した。
ここなら「女性」の靴を脱がしても大丈夫。
キール様の足は靴擦れがひどくて、血が滲んでとても痛そうだ。
このままでは良くない。
わたしのスカートのポケットからハンカチを取り出す。
「足を失礼しますね。あまり効果はないかも知れませんが、まずはこれで足を保護しましょう」
キール様のメイド服のスカートを少しだけ捲り、靴擦れの箇所をハンカチで巻く。
「これで気持ちだけ、靴を履いた時の痛みがマシになるかもですが、消毒を急いだ方が良いですね。今日はボートから降りたら真っ直ぐに帰りますよ」
「そうだな。その方が良い。それにしてもシャンディは手当ての手際が良いね」
クリス殿下がボートを漕ぎながら、感心したように誉めてくださる。
「ありがとうございます。でも、辺境では厳しい剣の訓練などが幼少の頃からあって、ケガが日常茶飯事なので手当なんて誰でも出来ますよ」
クリス殿下もキール様もそれを聞いて、目を丸くなさっている。
平和な王都では剣の訓練なんて、騎士様と良家のご子息ぐらいですものね。
でも辺境の地では、領地に住む者全員が騎士のように訓練をするんですよ。
ふたりの驚いた顔が面白くって思わずクスッと笑ってしまった。
そして、ボートを漕ぐ手が止まっているクリス殿下からオールを取り、ボートを進める。
「では、せっかくなのでボート遊びを楽しみましょう」
春の眩しいくらいの光を浴びた湖面がキラキラしていて、その様がとても綺麗だ。
大きな池なので、ボートが密集し合うこともない。
ボートが進む水音と鳥の声しかしない世界。
「シャンディ、交代するよ」
クリス殿下がわたしを気遣ってか、すぐにオールを奪い返された。
「クリス、ボートを上手く漕げる男は点数が高いので習得してくださいね。きっとアドニス様も喜ばれますよ」
キール様が可愛くクリス殿下にウインクをした。
メイド服姿の可愛いキール様がウインクなんてしたら、世の中の男性がバッタバッタと失神するんじゃないかと思うぐらい可憐だ。
「シャンディもボートを漕げる男は頼りがいがあって良いでしょう?」
キール様の可憐な瞳がこちらに向けられて、その可憐な雰囲気にわたしも圧倒されそう。
「そうですね。漕ぐのが下手でボートがちっとも進まないのは地獄ですから。そして、女子の夢を語ると、人の少ないところまで漕いで行ってくれて、「ここにおいで」って引き寄せられて、後ろから抱きしめられたいですね」
ふたりがほぅと深く頷く。
「後ろから抱きしめられるってのは女性は憧れるの?」
クリス殿下が食い気味に聞いてこられる。
「わたしはされてみたいですよ。ほら、あそこのカップルみたいに」
憧れのシュチュエーションを体現している遠くのボートを指差す。
んっ?あれって…