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10秒の魔法

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10秒の魔法

2 - 名前のない返事

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2025年04月10日

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――それから、凛とは少しずつ距離ができた。

朝、目が合っても、彼女は目を逸らす。

昼休み、近くにいても、もう話しかけてこない。

帰り道、並んで歩くこともなくなった。


俺は、何度も言おうとした。「好きだ」って。

でも、そのたびにあの言葉が脳裏をよぎる。


「もう10秒、経っちゃった」


あれは、冗談じゃなかった。

たった10秒が、永遠に続く沈黙を作ることもあるんだって知った。


――季節が変わり、卒業が近づいた頃。


廊下の掲示板の前で、凛とばったり会った。

お互い、少しだけ背が伸びて、大人びていた。


「……久しぶり」


「うん。元気だった?」


「まあまあ」


そんな他人行儀な会話。でも、どこか懐かしい。


「ねえ、あの日のことだけど」


凛がふいに言った。


「今なら、もし“10秒以内に答えて”って言ったら、どうしてた?」


「……たぶん、迷わず『好きだ』って言ってた」


「そっか」


彼女は、少しだけ微笑んだ。その笑顔は、あの放課後と同じ、どこか切ないものだった。


「でも、あの時の“迷い”がなかったら、今の答えは出てこなかったと思う。そういう意味では、無駄じゃなかったのかもね」


「うん、たぶん……そうだな」


「じゃあ、バイバイ。……好きだったよ」


そう言って、凛は歩き出す。


(好き“だった”?)


胸が少しだけ痛んだ。でも、それ以上は何も言えなかった。


俺はただ、その背中を静かに見送った。

まるで、あの放課後の再現のように。


でも――今度は、涙じゃなくて、ほんの少しだけ風が心を撫でた。

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