テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ピコン」「チーン」「ポロロン」「ピコーン」
深夜三時。烏丸神社の社務所に、ありとあらゆる電子音が不協和音となって鳴り響いていた。
布団の中で泥のように眠っていた蓮は、枕を頭に押し付けながら、限界の形相で飛び起きた。
「……うるっっっせぇぇぇ!! どこのどいつだ、この時間に神主の睡眠を妨害するアプリは!?」
「蓮、拙者も耳がちぎれそうじゃ! 脳内に直接低評価レビューが書き込まれているような不快感じゃぞ!」
コマも短い耳をパタパタとさせながら、蓮の布団に潜り込んで震えている。
蓮が怒りに震える手でスマホの画面を付けると、そこには画面を埋め尽くすほどの
【アプリの通知】【メルマガの配信】【ゲームのイベント告知】【SNSのいいね通知】
が、滝のように流れ落ちていた。
その画面を凝視した瞬間、蓮の目が険しくなる。
スマホの画面から、無数の「未読マーク(赤い数字の丸)」の形をした、小さな羽虫の群れがジジジ……と音を立てて湧き出していたのだ。それは、現代人の端末に四六時中送りつけられる、企業の宣伝欲とシステムの自動通知が生んだ怪異――『情報過多の羽虫(ノーティス・バグ)』だ。
虫たちは社務所の電球の周りを飛び回り、不快な電子音のノイズを撒き散らしている。
『今すぐログイン!』『あなたへのお得な情報』『新着メッセージがあります』
「(あー、クソっ。日中に溜まった未読スルーの通知が、深夜にバグを起こして実体化しやがったな。……俺の貴重な睡眠時間を奪うとは、いい度胸だ)」
蓮はパジャマのまま、枕元に置いてあったロゴ入りのタッチペンをもの凄い勢いでひったくった。
「お祓い代は……俺の睡眠不足の慰謝料として、全アプリの運営会社からサーバー電気代として引き落としてやりたいところだが、まずはこの目の前の虫ケラどもを全削除(デリート)だ! コマ、寝起きだが出力を最大にしろ!」
「おうともさ! 拙者も眠気で機嫌が最悪じゃ! 叩き潰せ、蓮!」
コマが怒りのままに純白の神力を爆発させ、蓮のタッチペンにエネルギーがチャージされる。ペン先からは、あらゆる電波を遮断するような、冷徹極まりない「圏外」の青い閃光がパチパチと弾けた。
蓮は部屋中を飛び回る「未読マーク」の虫たちに向かって、タッチペンを容赦なく振り下ろした。
ターゲットは、すべての通知を統括しているスマホ内の『プッシュ通知サーバーのキャッシュ(コア)』だ。
「24時間いつでも繋がれると思うなよ。人間にはな、『機内モード』っていう絶対的な静寂が必要なんだよ」
蓮がタッチペンを、スマホの画面に映る怪異のコアへ向かって鋭く突き刺す。
「――一括既読・一斉配信停止(サイレント・オプトアウト)!!」
ズガァァァン!!!
社務所に激しい電子的衝撃音が響き渡り、羽虫の群れは「通知をオフにしました」というシステム音声の悲鳴を上げながら、今度はシュレッダーにかけられた「ただのデジタルノイズの塵」へと姿を変え、空気中にサラサラと溶けて消滅した。
同時に、蓮のスマホの通知欄は完全にクリーンになり、画面には【通知はありません】という美しい文字だけが残された。
静寂が戻った社務所。
蓮は枕元にスマホを投げ捨て、再び布団の中に潜り込んだ。
「……ふぅ。これでやっと眠れる。コマ、アラーム鳴るまで起こすなよ」
「うむ。拙者ももう限界じゃ……。おやすみ、クズ神主……」
コマも蓮の足元で丸くなり、二人は一瞬で深い眠りに落ちていった。
翌朝、十時。
すっかり寝坊した蓮の元に、昨日お祓いしたパン屋の近藤から「お礼の特製高級食パン」が届き、烏丸神社の朝食(昼食)はいつもより少しだけ贅沢なものになった。
拝金主義のクズ神主。彼の冷徹なタッチペンは、依頼人のためだけでなく、己の快適な二度寝を守るためにも、現代のバグを容赦なく強制終了するのだった。
コメント
1件
ああ、めっちゃわかりますそれ!(笑)深夜3時に通知の羽虫が実体化とか、現代人の睡眠を脅かすあるあるをここまで愉快に描いてくれるなんて。蓮の「機内モード」の哲学、ちょっと沁みました。タッチペンで一括既読して二度寝する姿、最高にクズで愛おしいです。食パンで朝食がちょっと贅沢になったオチも、ほっこりしました🩷